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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第四十話(南近江編)
352/404

352部:軍議

近江浅井領、清水谷館。


館は平時とは違い、完全に戦時の装いへと代わり、幟が立ち並び、物々しく武装した兵団が、谷のうちを巡回している。館の庭には陣幕が張られ本陣となり、伝令の騎馬武者が報告に乗り入れらる状況になっている。

磯山城から追い出され、清水谷に戻った中嶋宗左衛門尉直頼が、太尾山城からの出来事や、磯野員昌に援軍を断られたことを悪意を持って、浅井久政に注進する。


「丁野次郎太が討たれてしまった・・か。おのれ織田め、大事な我らが一族を」

「織田には落とし前をつけてもらいましょう。それに磯野と新庄、堀達が私の後詰要請に答えませんでした。奴らにも罰を」

「うぬぬ、けしからんな」


そこへ、伝令が駆け込んでくる。

「長政様が帰還されます」

久政が、床几から立ち上がる。

「全員、軍装で出迎えよ!」


浅井長政は、越前一乗谷に連れ去られた母・阿古御前を取り返しに行ったが、圧力に利用しようとした織田軍が余りに早く越前に侵攻したため、織田の進軍を止めるという自分が優位に交渉する手段を失った。


窮した長政は、義景に誓紙を差し出し、朝倉家との同盟の下に織田信長と戦うことを約束した。

朝倉義景は、浅井家の謀反による今回の勝利に上機嫌で、長政の母を人質から開放した。そして二人は清水谷に帰って来たのだった。


「父上、この軍装はどうしたことですか?」

「浅井家の当主はこの私だ。もはや長政を当主と認めるものはおらぬ」

幹部達を見渡す長政。そこには清水谷に残した小姓衆達も軍装でいる。

「お前たちもか・・」


「どうだ、長政。政治力はお主よりも儂が上だ」

「・・・・・・・・・」

(当方滅亡・・)心の中で呟く長政。

一番愚かな選択をした父・久政にもはや何を言っても無駄であろう。

また、家臣団の大半が目先の事に拘り、父・久政の方針を正しいと考え従っているのだ。自分が六角家を討ち破り、今までやって来たことを、家臣達が否定したのだ。長政の脱力感は甚だしかった。

久政の考えを否定したところで、北近江の緒豪の誰かが浅井家を見限り下剋上するとも限らない・・。

(俺は、戦国の世の波に呑まれてしまったのか・・・)

黙る長政を不気味に感じる久政。

「お主はこれからどうするつもりだ。一人で織田に下るか? それとも出家して寺に引き篭もるか?」

「織田軍の若狭撤退の時点で、浅井家はすでにもう後戻りは出来なくなりました。義兄上は決して貴方を、私達を許さないでしょう。もはや戦うしかないと諦めております」

「そうか。では於市とは離縁し、人質として召し捕えよ」

「何を馬鹿な。於市は生涯連れ添うと約束しました。織田家とはもう関係ありませぬ。それでも離縁せよとおっしゃるなら、私にも覚悟が御座いますが」

「ふむう・・・、では於市のことは追及すまい。ただし、お主はこれから、戦奉行として我が手足となって働いてもらうからな」

「ふっ、わからずやの親父殿。私のすべきことはもはや織田軍と戦って武勇を天下に残すこと、それのみです」

「ならば存分に戦わせてやるわ。まずは軍勢を引き連れ横山城に向え。都から引き上げる織田軍を襲撃するのだ」

「はい・・」

長政が望まずとも、戦いは避けられぬ方向へと進み始めていた。


**********

5月13日、勢多を出発した織田信長は、近江国永原に進駐する。


琵琶湖東南岸地域については、稲葉や安藤に氏家といった西美濃三人衆と、不破光治親子等の美濃衆の面々がそれぞれの担当地域を決めて一揆にあたり、六角方の土豪を攻撃しておおむね平定を成し遂げていた。


永原城に入城した信長は、隠密部隊・伴ノ衆から、無傷の浅井勢が横山城を拠点に街道を狙い、信長の帰郷を手ぐすねを引いて狙っているという報に接する。


「しばらく、永原を拠点として浅井・六角の動きを確かめよう。六角家とはかりそめの和平の交渉をし、一時油断させて美濃に戻る時間を稼ごう」

「和平の使者には誰を?」

この難局に敵城に乗り込む覚悟のあるもの。誰もがたじろぐ命がけの任務だ。織田の一門、柴田、佐久間等の譜代の重臣、美濃衆、三河衆も黙り込む。


「鯰江城には、私が参りましょう」

丹羽五郎左衛門が、名乗り出た。

「五郎左、うむぅ」

絶大な信頼を寄せる長秀だが、もしものことがあれば、信長にとっての痛手は計り知れない。

「ここは私にお任せください。ただ、すぐに帰還すべき重症の負傷兵たちを、連れて行ってもよろしいですか」

「何か策があるということだな」

やはり長秀だ。

「せっかく西に向かうのです。二兎を追いましょう」

「であるか。任せたぞ」

「はっ」


長秀には、岐阜に真っ直ぐ帰還するには危険が多く、織田領に戻ることだけを考えれば、ここから伊勢の経路が安全に思われた。

戦傷した負傷兵たちを一刻も早く国元へ帰してやるには、先にこちらの前線拠点となる蒲生賢秀の居城の日野城に進め、そこから鈴鹿の峠を越える安全な経路で、ひとまず伊勢へと帰還させようと考えた。

六角義賢・義治親子には自分があたり、適当に和平交渉を行い、時間を稼げるだけ稼げればよい。


信長も、長秀のやりたいことが理解できていた。


*********


織田家からの別心を決意した浅井家の行動が、余りにもルーズな動きで、隣国の美濃を何故にいち早く襲撃しなかったのかが謎であります。

謀反の時に小谷には長政が居なかった・・とすれば、

名将と讃えられた長政のこの手落ちも、ありえるのかもしれないな・・と考えたので、このような話で進んでいます。

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