表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第三十九話(郡上編)
328/404

328部:敦賀攻略戦

郡上八幡城。


現在は、遠藤家惣領は八幡城主の遠藤盛枝が務めている。

東常慶・常尭親子の計略により叔父・胤縁が、ついで畑佐氏の謀略で父・盛数が他界した当時は、幼少なこともあって、のちに木越城の東遠藤家を継いだ胤俊の専横があり、盛枝の惣領としての立場は風前の灯だった。

しかし、母が家のために再婚した、斎藤義龍の家老を務める有力者・長井道利の後見で、東遠藤家を屈服させ、西遠藤家が惣領職を守った。更に美濃三人衆の安藤守就の娘婿となり、その後援を得て一族内での地位を盤石としていたが、先年その妻が病死していた。


「竹中半兵衛殿が、こちらを訪問すると?」

伝令に確認する盛枝。

(竹中半兵衛殿には、いろいろと言いたいことがあるのだ!)

「はい、それと武田家の武藤喜兵衛と申す者も・・」

「武田!!」

一瞬、固まる盛枝。

「奇妙丸殿は松姫と縁組され、武田家とも強く結びついているご様子。それで武藤喜兵衛が同行しているのだろうか。これからは私も、武田家と結べば我が家も安泰か・・」

盛枝は、遠藤家は下克上で領主となった家なので、権力の維持には外部の後ろ盾は欠かせないと考えている。

「上洛している飛騨の姉小路(三木)自綱氏からも同盟の誘いがあった。三木姉小路氏には恩があるが、飛騨の両面宿儺そのものともよばれる頼良爺さんは、いまいち・・信がおけぬ。それに、今は朝倉家からの使者もきているからな、越前朝倉家と織田の状況も気になる」


「郡上の遠藤家は引く手あまた、それだけ価値があるということですね」

盛枝の傍にいた遠藤新兵衛(のち胤基)が呑気に感想を言う。

東遠藤大隅守胤俊の弟・新兵衛が、西遠藤家での人質生活ながらも、人あたりの良さから当主の盛枝に気に入られ、娘婿として八幡城にいる。

「兄上のところには国境の警備を怠りなくと、金森長近殿からのご指示があったそうです」

「そうか・・」

東遠藤家に直接、金森からの指示がくることに苛立ちを募らせる盛枝。

(信長は、遠藤家を分断するつもりなのだろうか・・・。

我らは中央を重視する織田や姉小路よりも、地方を重視する武田家に従った方が良いのではないか? しかし、ここは勢いのある織田家の、奇妙丸殿の訪問を受け入れるのが無難か・・・)

「よし!すぐに新宮神社にお迎えに参ろう」

とりあえず、奇妙丸を出迎えることで盛枝の意は決した。


*********

4月25日越前国、手筒山城。


早朝から森軍が搦手門を、坂井軍が大手門を攻撃する。


「森伝兵衛可隆の隊、搦手門を突破し、手筒山城内に乱入しました」

軍監を務める毛利新助が、信長の本陣、気比神社宮前に伝令をよこす。

「可隆、見事な武功。流石、鬼三左の嫡男じゃ。」

立て続けに、もう一人の軍監・前田犬千代から続報が入る。

「坂井尚恒の隊、大手門を爆破し、城内に乱入とのことです」

にやりと笑って、陣参公家衆の面々を見る信長。

「久蔵も面目を施したな。どちらが先に本丸へ乗り込むか楽しみではないか」


信長の機嫌は、二人の活躍により治り始めている。

信長の傍衆、直参の者たちは、二人の若手武将の更なる活躍をひたすら祈った。


******

手筒山、山頂付近本丸前


織田軍の目の前には、本丸門の正面にて朝倉の武者が、両手を広げてひとり立っていた。

(降伏の交渉か?)

本丸にたどり着いた森可隆隊の勢いが止まる。


「よくぞ此処まで辿り着いた。織田の勇士。我は疋田右近、一騎打ちにて城の命運を決したい」

犠牲者を出さないための大将同士の一騎打ちを望む武者。


「良く言った、敵の大将ながら天晴! 森三左衛門が嫡男・森伝兵衛可隆がお相手いたす!」

守役が、可隆を止めようとするが、可隆は退かない。


「先祖伝来の笹葉朱槍にて、いざ尋常に勝負!」

槍を構えて走りだす可隆。

「儂の獲物は鎖鎌だ!」

可隆に向かって鎖分銅が飛んでくる。可隆は横跳びに分銅をかわす。

「卑怯な」

「男の勝負に変わりはない!」

更に可隆が駆けて、槍の一突きを見舞おうとするが、笹葉の槍を右近はギリギリでかわす。しかし、可隆はその勢いで右近の懐に入り鎖の動きを封殺する。

「甘い!」

可隆の槍を脇に挟み、左手の鎌を振り上げる右近。

可隆は、槍を咄嗟に離し、引き抜く短刀の柄で右近の顎を狙った。

鎌が可隆の背中に刺さるより早く、顎を砕かれもんどり倒れる右近。

「若様!」

見事な手並みに歓喜する森衆。

可隆が首を得ようと右近に馬乗りになった。

「可隆!」

先鋒部隊に追いついた森可成が、一騎打ちの状況に驚いて大きな声で息子を呼んだ。


“ズドーーーン”


本丸櫓から千田采女が放った銃弾が、可隆を撃ち抜き、仰向けに吹き飛ばされる可隆。


「卑怯な!!」

森家の弓衆が一斉に疋田右近を狙い撃ち、鉄砲衆は櫓を狙撃する。可隆を回収しようと駆け寄るものの中には父・可成がいた。

「おのれい!」

大手道を攻めのぼって、後から追いついた久蔵尚恒が、疋田に駆け寄ってトドメをさす。

続いて、政尚率いる坂井軍と、森家の武者衆が本丸門に殺到する。

全員が怒り狂い、猛る猛牛のごとく城内の朝倉勢に斬りかかったのだった。


*******

信長本陣。

「森可隆殿、本丸攻めにて疋田右近と一騎打ちに及び、討死」

「なん? だとっ!」

信長が床几を倒して立ち上がる。

「おのれーーーーーーー!  朝倉ぁーーーーーーー!」


信長の脳裏に、森兄弟の仲良き姿がうつる。

大手・搦め手門を抜いたところで、可隆・尚恒に使いを出し、迅速に二人を引き揚げさせるべきだった、と後手に回った自分の判断を激しく後悔する。

その怒りは、籠城している疋田勢に向けられた。


「疋田勢は撫で切りにいたせ、降服など許さん!!!!」

「「ははーーーっ!」」

可隆が戦死したことを知った幹部達は、誰も、怒り狂う信長のことを止められなかった。


この日、手筒山城攻略では「力攻め」により織田軍一万のうち千兵余り、金ケ崎からの増援軍を撃退した戦いでも同じく千余兵の戦死者が出た。

南の疋壇城の方でも、柴田軍、丹羽軍、徳川軍の濃尾三連合軍が力を合わせて攻め落とし、疋田の者は降服も許されず全滅した。

織田軍もごり押しの疋壇城攻めで、千余の死傷者が出た。

朝倉勢の戦死者は、手筒山で千余、金ケ崎で二千余、疋壇にて千余の、合わせて四千余兵。

織田信長軍はこの時点で、三万の軍勢のうち、三千余の兵士を失っていた。


両軍合わせての戦死者は七千余人である。

*******


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ