312部:突撃
斎藤軍。
館を囲む軍勢を見て、守備の弱点を即座に見抜く内蔵助利三。
「賊というのはやはり長屋だったか。それにしても数が多いが、構わん、一気に突き崩せ!」
後ろの備えのない長屋軍に、槍型の陣形で突進する。
「「うぉおおおおおお!」」
先頭を走る利三に続いて、斎藤家の旗元達が主に負けじと勇猛に突撃していった。
内蔵助は、どの戦場でも自ら槍先の功名をたてようとする勇猛な大将だったのだ。
彼の突破力には、義父である稲葉伊予入道一鉄斎も一目置いていた。
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三枝館。
「何やら、敵方の後方が賑やかになってきたが、仲間割れか?」
「長屋軍の背後に、新たな軍勢が出現したのでは?」
「呂左衛門達が奇襲しているのか?」
「いや、あれは斎藤家と稲葉家の旗印?」
「斎藤内蔵助利三の軍だ?!」
「どういうことだ?」
「あの動き、我らに加勢するようですね」
「あっ!白武者衆の姿が後方に見えます」
(呂左衛門が何か手をうったのか・・)
「これは勝機かもしれない。こちらからも、打って出る準備をしよう」
「わかりました。 法螺ふけい!」
竹中衆が、法螺貝を一斉に吹き始める。
黒武者衆達は広場にて騎乗の山田勝盛の周辺に槍をもって集合する。突撃部隊が瞬く間に編制され、
正面門の前に控えて、戸が開くのを待つ。
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長屋久内本陣。
「大変です、後方から織田家の軍勢が現れました」
「なに?!」
襲撃している自分達に、襲撃してくる敵はいないと完全に思い込んでいた長屋久内。
「くそ!前後に敵か、これはどうにもならぬ。 ・・・・・・撤退だ、撤退!」
「どちらに向かいますか」
「我が軍の別動隊がいる、高賀神社まで引け!」
「はっ!」
「「高賀神社に撤退ぃ―――――――!!!!!!」」
引き鐘を鳴らす暇もなく、全軍余計なものを打ち捨てて、命からがらに高賀神社のある北西方向に逃げ始める。
「突撃――――――――――――――――――――っ!!!」
三枝館の正門が開き、中から猛る猪のように黒武者の集団が飛び出してきた。
山田勝盛が鬼神のように、逃げ遅れた兵を馬で踏みつぶしていく。長屋の兵にとって黒武者集団はまさに鬼の軍団のように見える。
「うわあああああ」
「逃げろぉーーー」
悪僧と名高い法蓮坊も、恐怖にかられ慌てて馬に飛び乗り、神輿のことも忘れて馬に鞭をいれる。
長屋軍、総崩れの瞬間だった。
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「斎藤内蔵助、流石ですね。このまま三枝館に入れそうだ。我々も加勢しますか?」
第二組を預かる若い隊長、森一郎左衛門は血気にはやり、呂左衛門に攻撃の催促をかけにきた。
「我らが後陣で背後から利三の前列に圧をかけることによって、斎藤軍は三枝の館と挟まれることになり、裏切りも防げる」
「成程」
「人間、ふと魔がさすこともありありますからな。ハハハハッ」
武藤喜兵衛が自分で言った台詞に笑っている。
敵陣の様子を注意深く見守る呂左衛門。
「しかし、総崩れとなった今、斎藤軍が長屋軍を追撃するように仕向けたほうが良いかもしれん・・。あの勢いのまま三枝館に突撃するとも限らぬからな」
「彼なら、やるかもしれませんね」
武藤が相槌をうつ。
「追撃へと誘導しよう!」
今度は呂左衛門が森一郎に馬を寄せた。
「一郎左衛門、私と一緒に長屋を追うぞ!」
「はい、喜んで!!」
「後陣は、高次殿の手勢に任せる。誰か、第一組に伝えてくれ!」
「わかりました!」
良い返事をして駆け出して行ったのは、一郎左衛門の弟だ。
「では、二組・三組!斎藤軍の中央を抜けて追撃に行くぞ!!」
「「おう!」」
白武者の百騎が、疾風のように斎藤軍の水色の旗印の中央を割って長屋軍へと突撃していった。
「手を緩めるなー」
「続けー!」
「勝利は目前だぞー」
口々に戦意を鼓舞しながら駆け抜ける。
「手柄をあげよー!!」
斎藤軍はその勢いに引きずられるように、撤退する長屋軍の追撃戦へと突入していった。
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三枝屋敷の屋根上。
「呂左衛門、やりますね」
半兵衛が望遠鏡で呂左衛門の動きを追っている。
「異国でも名のある武将だったのかもしれぬな」
奇妙丸も、呂左衛門の馬を駆っての見事な指揮ぶりが余りに自然すぎて違和感がないと思う。
「森一郎左衛門も、なかなかの武者ぶり」
「うん、彼は楽呂左門に心酔しているからな。いろんなことを吸収しようと必死だ」
「羨ましい」
半兵衛ももう少し若かったら、呂左衛門に弟子入りして馬を並べて一緒に戦場をかけてみたいと思う。
「でも、歩き方や食べ方まで真似しすぎなのはどうかと思うが・・」
「ハハハハッ、そこが一郎左衛門の可愛いところですね」
三枝館防衛戦の勝利が見え、そんな寄り道話をしている余裕もでてきた。
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黒武者衆は、自ら先陣を勤めた山田勝盛に続いて、続々と六人の隊長のもとにニ番備え、三番備え、四番備えと隊列が出来上がり、長屋軍に杭を打ち込むように突撃していく。
二番隊は隊長の浅野盛久、三番隊は笹川兵庫、四番隊は桜木伝七、五番隊は山口半七郎、六番隊は一門の山田弥太郎が率いていた。
のちに森一郎左衛門吉成の血流が、大阪城の攻防で、徳川家康の本陣に突撃をかけ、徳川軍の名だたる武将の陣を数々討ち破ることになるとは、この時,
誰も想像していなかった・・・(笑。




