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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第三十二話(志摩鳥羽編)
235/404

235部:模型

そこへ、嘉隆の甥である澄隆が、船員たちの指示を終えて船を降りて来た。

「澄隆殿は、田城城に復帰されるが宜しかろう」

九鬼兄弟の横に居た老武者・鳥羽成宗が、澄隆に気付いて声を掛ける。

「我らは九鬼家と一族になり申した、鳥羽家と末永くお付き合いください」

澄隆の父・浄隆を追い出した張本人だが、今は当時の様な覇気もない様子だ。これから領地を接して暮らしてゆくので極めて低姿勢に出る。一族と子孫の為にも対立は避けたい様子だ。

つづけて、奇妙丸にも改めて自己紹介する。

「織田様には、我らの家名の存続を許して頂いて有難うございます」

成宗が、奇妙丸に頭を下げる。存続の許可を与えたのは父・信長だ。

「九鬼殿との縁を深めて織田水軍の柱石となって下さい。行く末は日本から、唐の国、ルソン、天竺、南蛮まで、我ら織田家の旗を立てたいと思っていますから」

奇妙丸としては、志摩の水軍衆は未来の為にも必要だ。

「なんですと?! 織田家は大陸を目指すのですか?」

「海の向こうは広い。大陸を目指しましょう」

「日ノ本の戦乱はまだ治まっていませんぞ」

「そうです。だからこの日本の乱世を早く終わらせましょう。南蛮国は大航海時代を迎えて広く世界へ船団を向けて帝国を作っていると聞きます。我らが国内で争っている場合ではありません」

「帝国? そうなのですか・・」

「帝国とは、ひとりの皇帝が官僚を使って治める国々のこと。皇帝の命で各国の海軍は地の果てを探しに出ているといいます。世界の情勢に日本は遅れをとっているかもしれません。

皆の力を結集し、熊野、雑賀、三好、毛利や、大友、島津の水軍も取り込み、日本も世界を探索しましょう」

武田家の家臣達も、奇妙丸の考えが遥か先をみていることに驚く。

松姫は奇妙丸を見ていた。

(奇妙様の目が輝いている)

やはり、奇妙丸は武田家の中にはいない型の人物だ。


「もう一度、八幡船の時代のように外洋を目指す。夢が広がりますな」

鳥羽成宗は、八幡船が外洋に繰り出していた時代を知っている。

「嘉隆殿、光隆殿、鳥羽殿、九鬼家の皆様、ご協力をお願いします」

奇妙丸が深々と頭を下げる。

「夢は良いでしょう。それで、具体的には我らには武田家の運送業を下請けしろと?」

嘉隆は、まだ元服もしていない奇妙丸の夢物語に付き合うよりも、現実的な思考だ。

「うむ、それで他にもお願いがあるのだが」

「なんですか?」

「この楽呂左衛門が希望する構造の船を、志摩国で建造してほしいのだ」と面頬をつけた白武者姿の楽呂左衛門を紹介した。

奇妙丸の後ろの侍はただの護衛ではなかったのか?と驚きの表情で白武者を見る嘉隆。

無言で立っていた呂左衛門が面頬をはずし、兜もとる。

「「南蛮人?!」」

武田松姫一行も、波止場に居る九鬼・鳥羽衆も呂左衛門の容姿をみて唖然としている。

「嘉隆殿、私はこの楽呂左衛門と船に乗って南蛮国まで行きたい。それを叶える外洋船を建造してくれ」

奇妙丸の言葉に正気に戻る嘉隆。

「船を建造せよと?!」

「そうだ、長距離航行が可能な、南蛮船の性能を上回る大安宅船だ!」

武田衆から感嘆の声が漏れる。

「奇妙丸様、その旅にはもちろん連れて行ってもらえるのでしょうね?」

松姫が奇妙丸を覗き込む。

「もちろん!」

(姫が外国に行ってしまう?)

この松姫が言いだした言葉を御館様に伝えるか、迷う板垣。しかし、実現するのはまだまだ先の話だと気持ちを切り替え、姫の発言は黙っている事にする。

「面白い。では楽呂左衛門殿に残って頂いて、船の構造についてご教授頂いても宜しいですかな?」

嘉隆が、そこそこのやる気を見せ始めている。

「良いか?呂左衛門」

「判りました」

「では、館にて宴をしながら話を詰めますか」と光隆。

雰囲気が改まったところで、城内の館へ移動することになった。


懇親会の間中、九鬼嘉隆は楽呂左衛門と同席し、楽呂左衛門の経歴と南蛮船について、質問を浴びせ続けた。

「そうか、南蛮船は先端が鋭利な刃物の様に尖っているのか」

「日本の刀のような形ですね。波を切って進み速度が上がると思います」

「そうだな、箱型だと浮いているだけだ」

「船底の中心に竜骨を据えて、船体を丈夫にするのです」

「なるほど、それならば外洋にも乗り出せるかもな、しかし側面構造が弱くならないのか」

「そこが弱点です」

「ふむ。今の時代、硬い素材を用いればなんとかなるかな」

「心当たりがありますか?」

「うむ。秘密だ」

嘉隆がニヤリと笑う。嘉隆と楽呂左衛門は「海ノ男」同士で気が合うかもしれない。それに、奇妙丸の言葉により、国内から外に目が行き、今は南蛮船に負けない和船を造り上げることに気持ちが移行した様子だ。

南蛮人からの技術供与を得たなら、実際に最高の船が造れるのではないかと気持ちが膨らんでいる。

席を共にする板垣達、居残りの武田衆も、志摩国の13頭領を説得して船大工を供出してもらい、織田家と共に最高の安宅船を造ろうと話が盛り上がった。

「まずは、模型を作っていろいろ試してはどうでしょうかな?」

板垣信安が提案する。

「服を作る時の型紙のようなものですね」

と商人のらしい表現の友野。

「そうそう。一流の職人たちは神社仏閣を建造する時も、まずは模型ひながた(*1)をつくるというからな」

武田家としても、北条家に対抗できる軍船を揃える事が急務だ。その時には是非とも新しい技術を取り入れたい。


「なるほど、では熱田の宮大工達にも協力してもらっても良いかもしれぬな」

と奇妙丸が呟く。

「いや、それは船大工の尊厳が」と鳥羽成忠。

「業界違いか、難しいのだなあ」

「それぞれ、得意分野があるので」船大工の棟梁の頑固さを成忠は良く知っている。

「そうか、しかし力と知恵を結集した最高の大安宅船を造りたいからな。船体が船大工に任せて、上部の箱型施設は宮大工がやってもいいような気がするな。私が熱田衆を説得してみよう」

船体と、上部の外装・内装を分ける等、効率の良い方法を模索しても良いかと思う奇妙丸。

「それから、建造の軍資金も必要になりますね」

冷静な光隆。

「分かった。それも一益に相談して、全面的に九鬼家を援助できるように話をしよう」

「おお」

伊勢番頭・瀧川一益は奇妙丸の後見人でもあった。

「それは、有難い」

光隆、嘉隆が笑顔になる。

「楽しくなってきたな、飲もう!」

「武田家も軍資金を出すように御屋形様を説得いたしますぞ!」

「おうよ!」

志摩国の豊富な海の幸を食材にしたご膳にも気を良くして、板垣達武田衆(*2)も外洋に乗り出すという大きな夢を共有したのだった。


*****


(*1)松姫の隠棲先の八王子信松院に武田家の安宅船の模型が伝わっています。不思議な縁を感じます。

(*2)向井政重の息子・重綱が徳川家の水軍となり伊豆で竜骨の入った軍船・安宅丸を造るそうです。伊豆に何隻かそういう船を造った経験があったという事ですが・・。積載量を増やすための板底の安宅船は大陸に多くの兵士を運ぶ目的に合ったものだったと考えます。これは伊勢型とかよばれる和船。

竜骨の入るタイプは双成ふたなり型というそうです。江戸時代に幕府の規制により船のサイズが制限されたというのは伊達や蒲生*のように勝手に欧州に船を出されては困るからでしょう。現在に伝わらないのは江戸期の為ではないのかと思います。*伝説かもしれませんが

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