165部:準決勝
続けて、準決勝が開始される。
死闘を勝ち抜き、次の対戦にコマを進めたのは、奇妙丸の傍衆・於勝と於八だ。
於勝と対戦した神忠政は、土俵際で逆転される苦杯を呑み、於八と対戦した大河内秀綱は様子見をする間もなく於八により場外に押し出されていた。
「森於勝 対 梶原於八!」行司が勝ち残った両名を呼ぶ。
「いやぁ、ここで当たったか、残念」
いかにも嫌な相手にぶつかったと於八。
「昨夜のようにはいかぬぞ!」
於勝は昨日、気を抜いた瞬間にさんざん投げられていたので、次はやりかえそうと誓っていた。
「こい!」
手で相手を誘う仕草をする於八。
「負けてばかりではないぞ」
於八の挑発に、ふつふつと血がたぎって来た於勝。
「兄上様、あの二人はどちらが強いのですか?」
「うーん、通常ならまだ於八かな」奇妙丸は先の対戦の様子を観ていて、二人の様子がいつもと違う感じなのに気が付いていた。
「予選から、他を寄せ付けませんでしたね」
「しかし、いつものキレがないのだ」
「そうなのですか」
元気な様子の二人を見て、不思議に思う五徳姫。
虎松に相撲を教える為に、二人が見本を見せて延々と相撲を取り続けていたことを五徳姫は知らない。
「はじめっ!」
奇妙丸の傍衆対決が始まった。
「岡崎信康 対 桜井忠正!」行司が続けて準決勝に残った両者を呼ぶ。
本来は、信康は徳川信康、忠正は松平忠正と呼ばれるべきなのだが、小瀬清長は行司に命じて本貫地名で呼ぶこととした。
中央の一段高い土俵に上がる二人。
「さあ、やるぞ!」
早々と試合を始めたがるせっかちな信康。
(負ける訳にはいかぬ)
信康が対戦相手と知ってから、緊張した面持ちの忠正。
曾祖父の代(松平清康-広忠―家康 対 松平信定-清定―家次)に始まった岡崎と桜井の長きに渡る対立の因縁が、いまだに二人の縁を縛り付けている。
「両者、見合って!」
三河の誰もが注目する一戦が始まった。
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