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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第二十ニ話(池鯉鮒編)
139/404

139部:安井

<清州城二ノ丸御殿、奇妙丸の間>


一宮のぼったくり事件の傷がもとで、関家で静養していた摂津の於妙が、清州城に挨拶に訪れた。

奇妙丸と事件を知る傍衆達は於妙を出迎えていた。


「於妙殿、元気になられてよかった」

「はい、有難うございます。関様の心遣いのおかげで、良いお医者様に見て頂きました」

こうして外を出歩けるようにはなっているが、右目にかけてたすきがけに巻かれている包帯は、みるからに痛々しい。

「後は右目の具合だけですか?」

生駒三吉が心配そうに聞く。

「はい。まだ人前に出られる姿ではありませんが」と恥ずかしそうに襷がけされた包帯を撫でる。そして、髪が東部の傷口の治療の為に切って短くなってしまった事を気にする於妙。


「いえ、とてもお美しいです・・」

「え?」

桜も一緒に驚いた表情で生駒三吉を見る。三吉が自分の心情を正直に言う事はめずらしい。

「三吉様にそう言って励まして頂けて、とても嬉しいです」

於妙が目を潤ませ、はにかんだ表情でいる。

三吉は、於妙を励ましたい一心だったのだが、皆の前で思わず言葉が出てしまったことに照れて頭をかいている。

「お呼びでしたか?」

冬姫達がやって来た。

「おお、来たな」

池田姉妹が部屋の中を見て、於妙に気が付く。

「「於妙ちゃん!!」」

「お仙ちゃん、お久ちゃん!」

「また会えて嬉しいわ」

「怪我はどうしたの?」

「フフフっ。秘密」

「えー?」

「というのは嘘です。一宮で奇妙丸様たちに助けて頂いたのです」

「あの店ってやっぱり」

「ええ」

「大変だったのね」

「ご家族は? 弟さん達は、どうしたの?」

生駒三吉を見る於妙。

「済まぬ。消息はまだ掴めぬ」

仕方ないという表情の於妙。


「そうだ、摂津の事を詳しく聞きたいのですが、よいですか?」

奇妙丸が、於妙が元気になったら聞こうと思っていたことを思い出す。


「はい。まだ三好長慶様がご健在の頃でした、芥川山の御城下に私達は住んでいました。池田家が私の屋敷のお隣で、その頃は毎日お互いの家で遊んでいたのです」

「於妙さんの父上は、三好家の?」

武家の娘ではないかと薄々は考えていた於八。


「はい。長慶様の叔父、三好入道笑岩(康長)様のご家中に居ました、河内の武士、安井市右衛門の娘です」

「なるほど」

奇妙丸も、傍衆達もそこまで詳しく掘り下げた情報は知らなかった。


「ご家老の松永様が伴天連に御入信してから、三好家におかしな事がたくさん起きました。三好家の主要な方々が次々と亡くなりました」

「なんと!?」

松永久秀の事を怪しく思う人は世間に多くいたが、三好家でもやはり疑いをもってみているのかと思う一同。


「三好家のご家中が割れてしまい、父の居ない間に私達は戦火で家を失い。本家のある河内国に戻ることもできず。摂津守護になられた和田様の捕虜となり・・」

「そうか、そんなことが・・」

生駒三吉が於妙の境遇に深く同情する。


「救われた皆がそれぞれ働いているのに、いつまでも、一宮の関様の処に居候しているのも申し訳ないのです。ですが私はこの姿ですし、行くあてもなく。私に何か、このお城で出来る事は御座いませぬか?」

冬姫が口を開いた。

「二人の幼馴染なら大歓迎よ。私も今、於妙さんにここに残らないか聞こうと思っていたの」

「冬姫、よいか?」

「ええ」

冬姫の優しさと笑顔に、一同癒される。


「ありがとうございます」於妙が手を揃えてお辞儀する。

「よかったわね、於妙ちゃん」

「これから一緒に暮らしましょう」

お仙にお久が、於妙を両側から抱き起した。

こうして於妙が、冬姫の傍衆に加わることになった。

談笑する女性陣の様子を見て安心する奇妙丸。

「賑やかだの」

その光景を見ながら、

三好家で何が起きたのか、考えを巡らせる奇妙丸である。

(松永殿が伴天連に・・・)


*****


松永久秀の信仰については、

みやこからの伴天連追放」に動いていることもありますが、宗論に行った家臣が軒並みキリスト教徒になったりしたので、完全に排除することは難しく思い、黙認するなり大人の判断していたことでしょう。

そして、仏教徒だらけの奈良に攻め込むには、松永家の兵士達は他宗教を信仰していた方が、心の健康にも良かったでしょうし、むしろ家中の侍には伴天連を奨励していたかもしれません。

甥に切支丹大名・内藤如安もいますし、距離は近かったんじゃないでしょうか。

南蛮貿易でしか手に入らない硝石や、医療薬品など、独占的に輸入し軍事的優位に立つためにも、伴天連を受け入れていたかもしれませんし、

南蛮商との取引(金銭交渉)を優位にするための駆け引きの手段として、特定の都市での布教を許す・許さない、といった場合もあったのではないでしょうか。

松永久秀自身は「神など信じていない」主義の人の様に思えます。


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