123部:上、下ノ知我麻神社
奇妙丸一行は熱田町衆の計らいで、七里の渡しを望む、熱田宮宿町に分散して宿をとる。
堀川、精進川に挟まれた宮宿町は戦国の世とはいえ熱田神宮の門前町であり、伊勢桑名への物資輸送の拠点として東海道からの物産品が多く集積されている。商人の往来も多く、ニ十か所近くの旅籠が営まれ、人口は一万人を超える町だ。
一行は西門から入り、社務所に通された。ここから北側が下知我麻神社、南側が上知我麻神社と呼ばれていた。下知我麻社の神域は、信長の寄進した塀により四方が囲まれ、侵入者を許さない堅固な区画が成されている。
下知我麻神社の正殿。
「この内宮の奥に草薙剣が眠っているのか・・」
「千秋殿、草薙剣は正殿ですか?」
「現在は特別に警備しています。土用殿と正殿が安置場所ですが、どちらかは秘密にしています」
「昔、新羅人に持ち逃げされたので、戻ってから現在まで神刀のありかは大宮司しか知りません」
「なるほど」
・・・・・新羅人は何度も帰還する神剣の霊力の前に海外に持ち出すことをあきらめて改心する。
「それにしても、困った賊がいるものですね」
「素戔嗚尊、日本武尊の加護により、父は今川義元に勝利したという噂を信じているのだろう。織田家の力を削ぎたい様だ」
「残念な事です。先週、深夜に侵入を試みた者は蝦夷製の仕掛け弓の罠に掛かり絶命しておりました」
一行が下知我麻社の正殿に入ろうとしたところ、南から騒ぎの声が聞こえる。
「何事だ?」
「大変です!南門で喧嘩が始まっております」
「神前で罰当たりな。上知我麻社の方ですな・・」
「様子を見に行ってみよう」
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<熱田神宮、南門の鳥居前>
人だかりを掻きわけると、黒幌の武者が一人で数十人の野武士の群れを相手している。
「黒幌衆、川尻下野守見参!」
「おお!」
生駒達、奇妙丸の傍衆が抜刀し、仲間である川尻の加勢に加わった。
「若がこちらに居ると聞き参上したところ、門前で騒いでいる怪しげな集団に出くわしましたので」
野盗のなりをした見るからに怪しい連中が、参拝者を脅していたようだ。
「流石だな」
一人で二十人近くの野武士を相手にしていた川尻の技量に驚く。
「松姫様からのお便りと御土産を預かりました!後でお渡しします!」
そこへ、鳥居の上から伴ノ一郎左衛門が現れた。
「下知我麻社に盗賊が押し入っております、北の山林の中に潜んでいた様子です」
「しまった!誘導か」
わざと騒ぎを起こして人数を此処に引き寄せたようだ。
「土用殿の門戸が破られております」
まずいといった表情の大宮司の季重。
「若様には申し訳ないですが、盗賊への陽動のつもりで正殿へ案内しましたが逆効果でした」
「とにかく、引き返しましょう!」とせかす於勝。
「吉治!ここを頼む!」
「お任せを!」
急いで下知我麻社に急ぎ戻る奇妙丸一行だ。
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