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魔王様とワルツを  作者: 星埜ロッカ
第二章 誕生日と月
5/60

01

 屋敷の窓から零れる光に目を向けると、空には丸い月が顔を覗かせていた。星屑は瞬き、月も輝いているのだが、外の明るさはまだ夜の闇には程遠いものだった。まだ夕方のような薄暗さで、夜とは言えないほどの明るさがあった。

 星と月の存在で夜のような錯覚に陥るが、二人の説明によると今はまだ朝なのだという。魔界には“朝の月”、“昼の月”、“夜の月”(正確な名前は違うらしい)という三つの月が存在するらしく、今はまだ朝の月が顔を出す時間帯らしい。要するに魔界には太陽が存在しないのだった。

 朝の月と昼の月が、人間界でいう太陽と同じ存在なのだとラースは言った。つまりそれは、いつ何時(なんどき)でも夕方から夜にかけての状態だということだ。

 ――今が朝だなんて、簡単には信じられない。

 アキは心の中で呟くと月を見つめた。現にアキは“下校途中”に魔界に召喚された。それならば今は夕方でなければおかしい。本当に魔界に召喚されたのであれば、時間も空間も捻じ曲がった状態で召喚されているのだ。

 しかし先程見たラースの炎は、人間が到底真似出来る技ではない。やはり信じるしかないのかと、アキは月に向かって呟いた。


◇  ◇  ◇


「アキ、ここが皆が集まる広間だ」

 リゼルヴァーンが両手を広げて広間を紹介した。

 アキは全体的に中世の雰囲気が漂っていると感じた。ソファーやテーブル、椅子、花瓶、壁に掛かる絵画(絵なのかは分からない)の額縁など、そのどれもが中世ヨーロッパの飾りに似ている。正確には違うのかもしれないが、何処が違うのかと問われればアキにはそれを説明できるほどの知識は無い。テレビや本などで見て得た情報と比較して、似ていると感じたのだ。それ以外で、本物の中世の家具など見たことが無いアキにとっては“似ている”ぐらいにしか思わなかった。

 しかしそのどれもが高価なものであるだろうことは、見ただけで窺い知ることができた。家具以外の部屋の内装――壁紙なども凝っていて、相当な価値があるように思えた。

 また、部屋の広さもかなりのものだ。この部屋だけで一般的な2LDK位の広さがある。さっき地下からこの部屋に辿り着くまで、幾つもの扉の前を通った。リゼルヴァーンの話だと、更に二階、三階へと続いているらしい。

 一体いくつ部屋があるのよ。もう屋敷っていうか――

「城じゃない、この家」

 アキは思わず口に出していた。

 ――貴方一体どこのボンボンなわけ?

 そこまで言いかけて、アキはふと思い出した。そう言えば、リゼルヴァーンが何か言っていたような気がする。先程までの会話を思い出して、アキは苦笑を浮かべた。

「ね、ねえリゼル。あなたって魔界の王様、なの?」

 確かめるように口を開くアキに、リゼルヴァーンは驚いたように目を丸くした。

 そう言えば、ちゃんと言っていなかったか?

 リゼルヴァーンの表情で、そう考えているのであろうことはすぐに分かった。確かにリゼルヴァーンは言っていた。嫁になれと言われて断った時、“魔界の王なのに嬉しくないのか”と。

「ああ、そうだ。俺は魔界の王だぞ」

 今更ながら、その言葉に驚く。リゼルヴァーンは“魔界の王”だったのだ。

 それを考えれば、家が城の様に豪華で広々としているのも頷けた。王様が一般的な家に住んでいるのは、確かに違和感がある。

「ふ、ふーん……そうなんだ」

 何となく、当たり障りのない返答をした。

 魔界の王という立場が、人間の世界でいうところの“どれほどの地位”になるのかが解らない。いや、解らないないのではない。はっきり言って、解りたくなかった。“魔界の”と言っている時点で、“魔界で一番の”という意味なのだということが解ってしまうことに、アキは人知れず動揺していた。

 ――私より少し年上に見えるくらいの年齢なのに、この人は王様なんだ。

 子供みたいな雰囲気を漂わせ、にこにこと笑顔を向けるこの男が王様なんだということに、アキは更に驚きと動揺を抱いた。

「リゼルって、あんまり王様って感じしないね」

「ぐあっ!」

 何気なく言った言葉だったが、リゼルヴァーンは分かりやすく傷ついた反応を見せて肩を落とした。

 もしかして、禁句だったのかしら?

 少しだけ可哀相に思って、アキは思わず口を開いた。

「ま、まあ。王様がどういうべきであるものなのか、私は全然分かんないんだけどね」

 アキの言葉に、リゼルヴァーンは顔を上げる。何処か縋る様な目に、小動物を思い浮かべた。

「リゼルはリゼルのままで大丈夫なんじゃないかな」

 それでいいのかは分かんないけど。という言葉は、辛うじて飲み込んだ。リゼルヴァーンがあまりにも嬉しそうな笑顔を浮かべていたから言えなかったというのも、一つの理由だった。

「アキは優しいな」

 にこりと微笑む姿は本当に幸せそうで、王様だという事実を疑いたくなってしまう。

 やっぱり、“魔界の王”とやらには到底見えないな。

 そんなことをぼんやり考えていたアキの耳に、突如若い女性の声が響いた。

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