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魔王様とワルツを  作者: 星埜ロッカ
第七章 女王の望み
37/60

01

 闇夜と同化しているのではと錯覚を起こさせる程の、紺青色に染まる巨大な城。アキが想像していたよりずっと、その造形は美しかった。もっと禍々しい形をしているのだろうと思っていたが、優美な佇まいに思わず感嘆の溜息が漏れた。

 真ん中で折り畳むことが出来たなら、きっとぴたりと重なることだろう。それくらい、この城は左右対称に作られていた。美しい色で彩っているわけでも、装飾を施しているわけでもない。巨大な石を組み合わせただけのような作りであるにもかかわらず、荒々しさは感じられなかった。

 そして驚くべきは、城が建つその場所であった。空に向かって伸びる巨大な石柱の上に、城は悠然と建っていた。それが、まるで宙に浮いているような錯覚を起こさせた。城に向かう為の道などはなく、柱は城の為だけに存在しているようであった。崖の上からでも、見上げなければならぬ程の位置にあるその城が、下界とは一線を引く存在であるということは一目瞭然であった。孤立する城は、それでも堂々たる威風を放ち、圧倒する雄々しさの中に、美と気品を兼ね備えていた。



 森を抜け、街を過ぎ、更に小さな森を抜けてやって来たのは高い断崖だった。森の出口に待ち構えていた断崖からしばらく城を見つめた。見下ろせば眩暈を起こしそうなほどの断崖絶壁であったが、城を見ればその佇まいに目を奪われ、自分がどこに立っているのかも忘れてしまいそうになる。

「やっとここまで来れたわね~」

 隣でロネットが伸びをした。「そうですね」と、溜息と共に返事をするのは後ろに居るラースであった。

「エルドでは、随分と時間を食わされましたからね」

 恐る恐る振り向くと、ラースは冷ややかな笑みを浮かべていた。

 ラースとロネットと合流したのは、あの出来事から数分後のことであった。リゼルヴァーン同様、青年のことは二人に話していない。どこに行っていたのか、何をしていたのか問われたが、青年の話題は避けた。迷子になって心配をかけた上に、これ以上不安になるようなことを言うつもりはない。

 二人が深く尋ねてこなかったのは助かった。アキはまだ上手に青年のことを語る言葉が見つけられないでいた。

「ラースったら、いつまでぐちぐち言ってるつもりよ」

「そうだぞ。アキが無事で何よりじゃないか」

 助け舟を出すロネットとリゼルヴァーンを、ラースがじろりと睨む。反射的に怯えるリゼルヴァーンに冷笑を返して、ラースは身を翻した。

「早く城へ向かうとしましょう」

 相変わらずなラースの態度にアキは二人と苦笑しつつ、後を追った。もと来た道を逆戻りし始めるラースの足どりは軽やかで、通い慣れているのか迷いがない。小さな森とはいえ、辺りは暗闇に包まれているというのに、まるで光に照らされた道筋でも見えているかのように進んでいる。

 それにしても、どこまで戻るのだろう。どこかで道が分かれていたのだろうか。さっき崖まで来たのは、あの城を見せる為だったのかもしれない。城の遥か下方には、街が広がっているのが見えた。今日はあの街まで出向くのだろうか。しかしあの街まで向かったとして、城へはどうやって行くのだろう。城へ赴く為の道や、地上と城を繋ぐ橋などはどこにも見当たらなかったというのに。

 ようやくラースが歩みを止めたので、アキは辺りを懸命に見渡した。しかしこれといって景色が変わったわけではない。生い茂る木々が夜空と一体となって闇を作り上げ、周囲を漆黒に塗りつぶしている。

「どうしたの? ここに何かあるの?」

 アキの問いに答えたのはロネットであった。

「よーく見てみて。私達、石像の真ん中に居るの……気付いた?」

 視線を廻らせるロネットにつられて、アキは森の中を凝視した。そうしてやっと、蔦が絡む石像の存在に気がついた。石像の高さはリゼルヴァーンとほぼ同じくらいであった。石像によくある人の形をしているわけではなく、ただの石が槍のようにそそり立っている。荒削りされた見た目に、一見自然にその形に出来上がって存在しているようにも見えたが、細長い同形のものが六つ、円を描くように聳えている。人為的にその場に設置されているのであろうと推測できた。

 物珍しさも手伝って、アキは石像に近づき仰ぎ見る。近くで見ると石像に、繊細な模様が横に並んでぐるりと一回り彫られていることに気が付いた。模様に見えるこれは、もしかしたら文字なのかもしれない。人間界でいうところの象形文字や楔形文字に雰囲気は似ている。

「……これは?」

「呪文を彫りこんであるんだ。この六つの石像には、それが全て彫られている」

 リゼルヴァーンがアキの隣で石像に軽く触れながら答えた。

 一体、何のために呪文が彫られているのだろう。この場所は何かの儀式を行う為のものなのだろうか。

「皆さん、中央へ」

 呼びかけで集まったアキ達を確認すると、ラースはロネットに笑顔を向けた。

「ロネット、あとはよろしくお願いします」

「あんなに率先して歩いてたのに、結局私がするの!? ……ま、いいけど」

 ロネットは円の中心に立つと、瞼を閉じた。そして静かに呟き始める。何を呟いているのか聴き取ろうと、ロネットの言葉に集中した時だった。

 目の前の風景がぼやぼやと滲んで見えた。目を擦っても、その見え方が変わらない。

 何だろうと思っていると、次の瞬間には視界が鮮明になりはっきりと風景が見渡せた。しかし、それは先程までの見慣れた森の中とは違っていた。

「あれ?」

 一瞬にして辺りの景色が変わった事に、アキは呆然と立ち尽くした。

 その場所は、屋敷の地下と雰囲気が似ていた。アキが召喚された部屋にあったのと同じような方陣が床に広がっている。窓の無い石造りの部屋は同じであったが、広さは屋敷のそれより随分と違っていた。方陣が小さく思えるくらい部屋には余裕があったが、その隙間を埋めるための物は一切無かった。年月を感じさせる古びた石畳は、それでも美しく調和のとれた正方形で品が感じられる。方陣の外側には、銀で出来た燭台が等間隔に設置されており、その上の蝋燭が青い炎を怪しく揺らめかせていた。

「アキ、大丈夫か?」

 リゼルヴァーンが心配そうな表情で覗き込んできたので、アキは慌てて頷いた。そして、ラースやロネットも傍に居ることを確認する。どうやらアキ同様、三人も同じ場所にやって来たようだった。

「私達、さっきまで森の中に居たよね? なんでこんな所に……」

「来た来た! やっと来た! 待ってましたよー」

 疑問の声を上げるアキを遮ったのは、後方から聞こえた少年の声であった。

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