表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様とワルツを  作者: 星埜ロッカ
第六章 初めての外界、新たなる出会い
32/60

03

「ここです」

 真後ろから聞こえた声に振り向くと、ラースが近くの幹に腰かけていた。黒装束の為、森と一体化していたラースに気付き難かったのだ。もしかしたら、いつものように気配を消していたのかもしれなかった。

「良かった。ラース、居たんだ」

 安堵するアキに、ラースが冷たい笑みを浮かべる。そして前方から明るい声が聞こえてきた。

「ラース、予想通りだったわよー! って、あら」

 ロネットが手を振りながらこちらに歩み寄り、アキとリゼルヴァーンを見つめてにやりと微笑んだ。

「気が付いた? 二人が仲良く抱き合ってたから、声かけ辛かったのよね~」

 ロネットのからかいの言葉に思わず顔が熱くなり、アキは隣のリゼルヴァーンをそっと見上げた。すると、同じくアキを見下ろしていたリゼルヴァーンと視線がかち合ってしまい、慌てて顔を逸らした。

「やだもー、二人とも可愛すぎる!」

 はしゃぐロネットを無視して、ラースが二人に近づく。小さく溜息を吐いた後、口を開いた。

「どうやら、馬が二頭とも逃げてしまったようです」

 淡々と話す口調からは焦る様子は感じられない。落ち着き払った態度で、ラースは森を見渡している。

「え! じゃあ、どうするの? 馬車も壊れちゃってるし、馬もいないんじゃ……」

「この森では術は使えないので徒歩になりますね」

「術が使えないの?」

 アキの問いに、ラースはゆっくりと辺りを見回しながら言葉を紡ぐ。

「この森には不可思議な力が宿っているのです。魔力を吸収したり、逆に増幅したりしてしまう、厄介な力です」

「えーと……どういうこと?」

 魔力を吸収したり、増幅したり? それで何で術が使えないってことになるんだろう?

 術の基本的な構造も何も知らぬアキにとって、その言葉だけで理解しろという方が無理であった。呆れたような視線を向けるラースにむっとしたが、口答えしたところで勝負は見えていたので静かに答えを待った。

「私の言い方が間違っていましたね。術の使用は可能です。ただ、使うと何が起こるか分からない……そう言った方が、分かりやすかったですか?」

「な、何それ。何が起こるか分からないって……爆発でもするの?」

 冗談混じりに言った言葉にラースはくすりと笑った。

「爆発なら、まだ良いのですが」

 爆発ならって……一体それ以上の何が起こるっていうのよ。

 苦い笑いを浮かべるアキの耳に、「うーん」と唸り声が聞こえた。

「馬が逃げ出したのも、この森の影響かもしれないわね」

 首を傾げながら呟くロネットを、ラースが鋭い瞳で見つめていた。

「しかし、一体この森はどこまで続いているんだ?」

 リゼルヴァーンは深い森を見渡し、途方に暮れたように肩を落とした。落胆したくなる気持ちはアキも同じであった。何処まで続くとも知れぬこの暗闇の森を歩き続けるのは、肉体的にも精神的にも辛そうである。

 そんな二人に「大丈夫です」と声を上げたのはロネットであった。

「森はもう直ぐで抜けます。さっきそこまで見てきたんです。近くに街があったので、そこまで徒歩で頑張りましょう!」

 意気込むロネットに、リゼルヴァーンも励まされたように力強く頷く。

「そうだな。ここまで来れば後もう少しだ。もう一頑張りだな!」

「そうです! その意気です! 張り切って行きましょう!」

 拳を振り上げる二人を余所に、ラースはじっと森を見つめ続けていた。一点を見つめるのではなく、森全体を見渡している。その動作が、まるで観察しているように見えた。鋭く冷たい瞳が、まるでどこに居るとも知れぬ森の主を射抜いている様に見えた。

「ラース?」

 アキの声に目を伏せ一瞬息を吐くと、踵を返して早足で行ってしまう。振り向きもせず、すたすたと歩くラースに、アキだけでなくリゼルヴァーンやロネットまで呆然としてしまう。

「何をしているのですか? 置いていきますよ」

 僅かに振り向き口を開いた後、やはり後ろを気にせず、早い足どりのまま森を突き進んで行く。

「……私達も、行きましょうか」

 ロネットの呟きに、アキとリゼルヴァーンも小さく頷いた。


◇  ◇  ◇


 街に着くと、既に空には夜の月が真上に傾いていた。

 意外と出口は直ぐで、歩いて数十分もしないうちに森を抜けていた。そこから街の明かりを頼りに、アキ達はエルドを目指した。近くにあるように見えていたが、実際の距離は長く、ここまでくるのに結構な時間を要していた。出発してその日の内に街に辿り着けたのは、ある意味幸運であった。

「今日はもう遅いから、エルドで一泊していきましょう」

 ロネットの提案には誰もが賛成であった。唯一心配であったのが、宿の部屋が取れるかどうかということだった。

 街の賑わいは夜も続いているらしく、辺りを歩く人の数は多い。街の一部であるかのように溶け込み商売をしている住人の傍ら、旅人や観光で訪れているであろう人々も多数存在している。そんな中で簡単に部屋が見つかるとは思えなかった。

「宿屋が見つかったとしても、部屋が足りなかったらどうしましょ。せめて二部屋は欲しいわよね」

 困り顔のロネットに、アキは申し出た。

「あの、部屋が一部屋しか取れなかったとしても、私は大丈夫ですよ」

 本当は、出来れば部屋は別がいい。一ヶ月近く屋敷で共に暮らしてはきたが、部屋は個別に用意されてあったし、そもそも男性と同じ部屋で寝るなど、アキにとっては羞恥以外の何物でもない。

 しかし、そんな我が儘を言っていられる状態でないことは分かる。資金だって限られているのだ。自分一人の為だけに、無駄な浪費をすることも、勝手を言うことも許されないのだ。それに、少しは男性に耐性も付いてきたような気がする。リゼルヴァーンやラース、ロネットとなら、同じ部屋でも大丈夫であるような気がしたのだ。

 しかしそんなアキに、ロネットは眉間に皺を寄せた。ねめつける様な視線が刺さる。

「私達を信頼してくれてるのは分かるけど、軽々しくそんな事言っちゃ駄目」

「私、軽々しくは……!」

 そんなつもりで言った訳ではない。考えて、理解をした上での発言であった。

「アキちゃん、そんな我慢は必要ないのよ。貴女は女の子なんだから。ね?」

 優しく言い聞かせるように話すロネットは、先程の眉間の皺を消して、柔らかい表情を宿す。

 もしかしたら、気付いていたのかもしれない。本当は強がっていたことを。つらつらと考えていたのは自分自身への言い訳だ。そんなことをしてみたって、結局本心には抗えない。

 穏やかなロネットの瞳に見つめられることに耐え切れず、アキは俯いた。弁解がましい自分が、何だか情けなかった。

「……なあに? そんなに一緒の部屋が良いのかしら~?」

「え!?」

 びっくりして顔を上げると、ロネットがにっこりと微笑んでいた。

「アキちゃんがそこまで言うなら仕方ないわね~!」

 楽しそうに声を上げるロネットに、アキは慌てた。

「え、あの!」

「何だ? ロネット、またアキにちょっかいを出しているのか?」

 気付いたらリゼルヴァーンが機嫌悪く隣で見つめていた。じっと見つめる視線が怖い。

「アキちゃんが、どーしても一緒に寝たいって言うんですよ」

 その発言に、一瞬にしてリゼルヴァーンの表情が驚きに変わった。

「な、何!? 本当なのか!?」

 肩を掴み、目を瞠って必死の顔つきを見せるリゼルヴァーンに、思わずアキはたじろいでしまう。

「ち、違うの! これは、えっと……」

 懸命に言葉を探すアキは、リゼルヴァーンのあまりの必死さにうろたえ慌ててしまい、上手く説明することが出来ない。リゼルヴァーンは気にしていないのかもしれなかったが、アキにとってはこの距離も緊張に値するものであった。

 狼狽するアキの隣から、堪えきれず噴き出すような笑い声が聞こえた。振り向かなくとも、声の主は予想出来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ