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魔王様とワルツを  作者: 星埜ロッカ
第四章 役割を探して
20/60

04

 そうだ。少なからず、初めはリゼルに対して良い感情は抱いていなかった。だけど、“白の災厄”とか、そんなことどうでもいいと思えるくらい信じあえる仲になった。

 だから、コイツも。“白”の意味を知っても、リゼルのことをきっと厭いはしない。

 それはアキにも、昔の俺達と同じ“孤独”を感じるからなのかもしれない――

 隣で佇むアキを見つめ、ガルフは胸の内で呟いた。



「何でリゼルは、白が似合うって言ったのかな」

 ぽつりと零れる言葉は、誰に向けたものなのかアキ自身にも分からなかった。

 ――白は異端。リゼルヴァーン自身、そう言われ続けているのなら、白を嫌っているはず。どうしようも無いくらい、憎んでいてもおかしくない。

 それを似合うと言ったアキは――

 異端だ。どうしようもないくらいに。

 この魔界にとって、アキは在り得ない存在だ。リゼルヴァーンの白以上に。

 悪魔でない人間のアキは、異端なのだ。だから――白が似合う。

 結局、人間界でも、魔界でも、自分は異端だったのだ。

 親とも、友達とも馴染めない私が、全く異なる世界、魔界で上手くいくはずなんてなかった。そんなこと、考えれば直ぐに分かることだった。何て馬鹿。そんなことも、言われないと気付かない私は。

 屋敷での役割なんて、それ以上に。私が屋敷に居る意味は。私の、存在する意味は――

「貴女は、どう考えるのですか?」

 不意に、ラースに声を掛けられ、どきりと心臓が跳ねた。白が似合うと言ったのは、ラースも同じだ。

「……私が、異端、だから」

 覇気の無い言葉は、アキ自身を追い込んでいく。

 じっと、ラースが見つめる視線が痛い。貫かれる。それは心まで。

「異端……ですか」

 ぽつりと呟くように言ってから、ラースは苦笑を浮かべた。

「何故、そう解釈為さるのですか?」

 意外ともとれるラースの言葉に、アキは思わず目を瞠る。

 それ以外に、一体どんな意味が。考えても及ばぬ答えを、ラースは提示してくれるとでも言うのか。

「それだけが、答えではないと思うのですが」

 言って、またいつもの笑みに戻る。後は、自分で考えろということなのだろうか。それ以上、ラースは答えようとはしなかった。

 だが、アキに思い浮かぶはずもない。“白は異端”。それはこの魔界では、多分当たり前のこと。そしてその世界に住むリゼルヴァーンに、それ以外の答えの、何があるというのだろうか。

「そんなに気になるのであれば、訊けばいいでしょう? 本人に」

 あっさり放つラースの言葉はもっともだったが、そこまで本人に確認出来るほど、勇気が出ない。

 もし白が似合うと言った意味が、異端だとしたら? リゼルも、私のことをそう思っていたら……

 その考えが、アキの一歩を踏み留ませる。そんなもしもなんて、リゼルヴァーンに限って無いだろうと思う自分と、もしかしたらと思う自分がせめぎ合う。

 嫌だ。こんな考えに至ってしまう、自分自身が許せない。

「お前が今まで見てきたリゼルは、そんな奴だったのか?」

 今まで黙っていたガルフが口を開く。それは疑問だ。怒りや、諭すような色は見られない。ただ純粋な疑問。

「ひと欠けらも信じられないような、そんな奴だったのかよ」

 真っ直ぐ見つめるガルフの視線は、アキの思慮や疑念を射抜く。

 誕生日を祝いたいから祝うと言ってくれたリゼルヴァーンは。

 血相を変えて、アキの安否を気遣ってくれたリゼルヴァーンは。

 頬を染め、恥ずかしそうにしていたリゼルヴァーンは。

 その真実が導く答えは――

「私、リゼルの所に行ってくる!」

 調理していた紫色の物体をそのままに、アキは慌てて厨房から飛び出した。

「あ、ガルフごめん! まだ途中だけど、また手伝いに来るから!」

 去り際に言葉を残し、後ろを振り向くことなくアキは廊下を駆けた。

 暗い気持ちになるのはまだ早い。白が似合うと言ったリゼルヴァーンの、本当の意味なんて知りもしないのに。

 落ち込んだり、悲観するのは話を聞いた後だ。それまでは、そんなこと思ったり考えたり出来ない筈なんだ。

 アキの向かう先は、屋敷の最上階しかなかった。



「まったく、若いというのは羨ましいものですね」

 本気で思っているのか疑わしい台詞を吐いて、ラースは笑みを浮かべた。

 勝手知ったる動作で目的の小瓶を手にとると、食器棚からティーポットを取り出し茶葉を入れる。

「……てめえはどうなんだよ?」

 湯を注ぐラースに、ガルフは鋭い視線を投げつける。

 お前はどんな意味で、アイツに白が似合うと言った。

 ガルフの視線を諸ともせず、ラースは冷たい笑顔で口を開いた。

「貴方も、私が異端だからという理由で言ったと。そう思っているのですか?」

「違うのか?」

「あながち、間違いではありませんね」

 やっぱりそうか。コイツはこういう奴だ。こっちが信用したと思えば、コイツはくるりと掌を返しやがる。まったくもって、いけ好かねえ。

「しかし、それだけではありません」

「あ?」

「白が似合うと言ったのは、白がリゼル様だからです」

「……?」

 どういう意味だ? 白がリゼル……?

 目を眇めるガルフに、ラースは口角を上げて笑う。

「“白の災厄”と呼ばれるリゼル様には、あの少女のような方が似合うと思っただけですよ」

 言って、慣れた手つきでティーカップに紅茶を注ぐ。

 それは、“白の災厄”としてリゼルを見ない、初めから対等な関係を築くことが出来る存在だからということか。何の偏見の目も持たない、ただの人としてのリゼルを見ることの出来る彼女。だからリゼル――“白”が似合う、と。

 ああ、クソ! 胸くそ悪い!

「分かり難いんだよ、てめえは!」

「褒め言葉として受け取っておきます」

 にこりと微笑み踵を返す。そして去り際に一言。

「ああ、それと。もう少しで茶葉が無くなりそうですよ。補充お願いしますね」

 立ち去るラースの後姿を見つめ、ガルフは苛立った様子で舌打ちすると調理に戻った。

 だんだんと勢い良く打ち付けられる包丁の音は、廊下にまで響いていた。

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