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魔王様とワルツを  作者: 星埜ロッカ
第三章 身だしなみは大切です
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05

「ねぇ、レレムン。おかしくない?」

 目の前に佇むレレムンに、アキは何度目かになる言葉を発した。その度に、レレムンははにかむ笑顔でこくりと頷く。

 それでもやはり自信が無い。二日間着続けた汚れた制服とはおさらば出来たが、今度は大胆なミニ丈の白いドレスだ。制服のスカートとは訳が違う。覗く足の範囲が異様に広い。肌の露出に慣れていないアキにとって、この一枚だけでは心許なさすぎた。

 考えに考えあぐねて、アキは服の山から見つけたキュロットをドレスの下に穿くことにした。しかしキュロットも長さが殆ど無いので、見ただけでは穿いているとは分からない。ただ、ルルムンやレレムンの様に足が長い訳ではないので、その分ドレスの丈は長くなる。それだけは、心から良かったと思えた、悲しく切ない瞬間であった。

 姿見の前に立って全身を確認する。やはり慣れない。こういう服は似合わないと改めて思った。白い服を着ていること事態アキにとっては考えられないことであったし、ましてや短い裾のドレスともなれば尚更着ることも無いだろうと思っていた。

 どうしても、慣れぬ違和感を拭い去ることが出来ない。あんなに脱ぎさってしまいたいと思っていた制服に後ろ髪を引かれる自分がいた。だが、この服を貸してくれたルルムンの為、喜んでくれるレレムンの為にもこのドレスを着た姿をラースに見せなければならない。

 ここまで来たら、もう為すがままだ。どうとでもなってしまえ位の意気込みがないと心が折れてしまう。根性見せろ、アキ! やってやろうじゃないか。

 拳を力強く握り締め、来る悪魔の再来へ向けての意気込みを入れた瞬間だった。



「アキー! 連れてきたよー」

 ノックもせずに行き成り部屋に進入するルルムンに、アキはびくりと肩を竦めた。さっきの意気込みは何処へやら、恥ずかしさと居た堪れない気持ちが一気に込み上げる。

「ちょっとー、何なの一体? 僕お腹空いてるんだけどー」

「何の用なんだ?」

 不満の声を洩らしながら入って来たのは、銀色の狼と鋭い目つきの男だった。

「ガルフにシェット……!?」

 予想外の人物の登場に戸惑うアキを気にも留めず、ルルムンは楽しげな表情を浮かべて笑っていた。

「何処に行ったのかと思ったら、この二人を呼んできたの?」

「うん。ラースは今リゼル様と一緒にお勉強してるから、先に二人を呼んできたのよ」

 言ってにっこりと笑った。

 ああ、その笑顔は反則だ。そんな嬉しそうな表情を見せられては、怒る気力も失せてしまうというものだ。

「アキの綺麗な姿を、皆に見せてあげたかったの!」

 眩しい笑顔のルルムンに、最早アキはお手上げ状態だった。

 満足そうなルルムンは次にガルフに近づくと、上目遣いで見上げる。

「ガルフ、ルム『言の葉』使わなかったよ。偉い?」

「絶対使うなって訳じゃねえんだぞ」

 じっとガルフを見つめる様子は、褒めてくれるのを待っているような気がした。黙ってガルフの言葉を待つ様は健気としか言いようが無い。無垢な瞳に絶えかねたのか、ガルフは小さく舌打ちすると乱暴な手つきでルルムンの頭をぐしゃりと撫でた。

「あー、偉い偉い」

「わーい!」

 面倒くさそうな表情と態度の割には、彼女の願いを叶えてやる辺り彼も人が良い。

 基本的に屋敷の住人達は双子に甘いんだなとアキが再確認していると、不意に足元を撫でる感触がした。柔らかすぎず、硬すぎないその毛並みはアキに心地良い刺激を与える。確認すると、シェットが足元に絡み付いていた。

「アキ、どうしたの? そのドレス。今までの服と違うね」

 やっぱり気付くよね。

 気付かない訳がなかったが、出来ればこのままこのドレスについて触れることなく話を進めたかった。しかし、それは土台無理な話だったようだ。

「何だ残念。下にちゃんと穿いてるんだー」

 言いつつ、シェットはアキの足元からドレスの中を覗き込んでいた。がっかりしたという意味なのか、さっきまで振っていた尻尾は力なくだらりと床に垂れた。

「――ッ! シェット!?」

 いくら狼と言えど、感情を伝達できる生き物に、そんなことをされては恥ずかしさが湧くのは否めない。思わずドレスの裾を押さえたアキの足元でシェットは尚も絡みついていたが、次の瞬間勢い良く剥がされた。首根っこを掴んだガルフは眉間に皺を寄せ、右手に拳を握り締めていた。

「落ち着け。それとも食らいたいのか?」

「ちぇっ。分かったよ」

「犬らしくそこに伏せとけ」

「だから、犬じゃないって言ってるでしょー!」

 吠えるシェットを無視して、ガルフは面倒くさそうに頭を掻いた。相変わらず眉間には皺が寄ったままだ。

 不貞腐れたように伏せるシェットを確認してから、ガルフはやっとアキに向き直った。

「ありがとう、ガルフ」

「いや、別にお前の為じゃない」

 鋭い眼と変わらぬ口調で応じるガルフに、それでもアキは感謝した。

「ところで……その服……」

 じっと見つめて言い難そうに言葉を濁すガルフに、アキは慌てて口を開いた。

「に、似合ってないよね! 別に自分から着たいと思って着た訳じゃないのよ? ラースがこれを着ろって言うから」

「だから勇んで着たわけか?」

「うっ」

 思わず言葉に詰まる。確かにラースの思う壺になったのは自分の所為だ。しかし、忠実に従わなくても良かったんじゃないか? という疑問も拭い去れない。いまアキを突き動かしているのは、ルルムンとレレムンの笑顔なのだ。

「まあ、アイツが言ったってことは嵌められたんだろ。ご愁傷様だな」

 同情してくれるのが殊更痛い。ラースに何もかも見透かされていたことに、今更ながら顔から火が出そうであった。

「しかも“白”とくりゃ……相当悪質だな」

 呆れたようなガルフの呟きをアキの耳は捉えていた。

 どういう意味なの?

 アキが尋ねるより早く部屋の扉が荒々しく放たれて、アキは尋ねるタイミングを完全に逃した。

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