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魔王様とワルツを  作者: 星埜ロッカ
第三章 身だしなみは大切です
11/60

01

 自室の窓から零れる『朝の月』の光を浴びながら、アキは眉根に皺を寄せていた。

 これはヤバいんじゃなかろうか。

 アキは自分の身に纏う制服をじっと見つめ、そして神妙な表情を浮かべた。

 この制服を連続で着続けて今日で三日目。そろそろ臭いや汚れが気になってくる頃合であった。それは朝昼晩と、一日中着たきりになっているからだった。はっきり言って下着も毎回同じものを着用している。いくら自分自身のものを身に着けていると言っても、気持ち悪さは拭えなかった。

 何も持たずにこの魔界に召喚されたアキにとって、制服だけが人間界を結ぶ唯一のアイテムとなっていたが、今となってはそれも早く脱ぎさってしまいたいだけのものに成り下がっていた。

 どうにかしなければ。このままじゃ耐えられない!

 アキは勢い良く部屋のドアを開けると、目的の場所へ向かって走り出した。


◇  ◇  ◇


 目的の部屋まで辿り着くと、アキは躊躇うことなく扉をノックした。程なくして、明るい返事が聞こえると扉が開いた。

「あー、アキだー! どうしたの? 一緒に遊ぶ?」

 姿を現したルルムンはアキの訪問を喜ぶと快く部屋に招き入れた。

 彼女の部屋もアキと同じく中世ヨーロッパの様なデザインであった。唯一違ったのは色くらいで、彼女の部屋は可愛らしいピンクを基調とした色でまとめられていた。部屋の奥ではレレムンがベッドの隅に腰を掛け、クマのぬいぐるみを抱きかかえアキの様子を窺っていた。

 もしかしたら、クマではないのかもしれない。クマにしては長すぎる尻尾が見えた。別の動物だろうか。

 いけない、いけない。いまはそんなことを気にしている場合ではない。いま私が気にしなければならないのはこの制服だ。

 アキはルルムンの前に一歩踏み出ると躊躇いがちに口を開いた。

「ねぇ、ルルムン……私、臭わない?」

「におい?」

 アキの問いに、ルルムンは丸い目をして疑問符を浮かべた。

 もっともな反応よね、確かに。

 ルルムンの素直な反応に、アキは心の中で呟いた。こんな質問をされたら、誰だって戸惑うはずだ。アキは出来るだけ分かりやすく説明しようと言葉を選んだ。

「えっと、私ね。この服しか持ってないんだ」

「へー、そうなんだー。昨日も一昨日も着てたから、アキはこの服が好きなんだと思ってた」

 ルルムンの発言に、思わずずっこけそうになるのを寸でのところで踏みとどまった。

 悪意がないのが分かるだけに、突拍子も無い発言から彼女の純粋さが窺える。

「着る服がこれしかないから、この服を着てただけだよ」

「そうだったんだー」

「だからね。毎日同じ服を着てるから、臭いとかしてないかなと思ったの」

「うーん……ルム分からない」

 鼻をひくひくと動かした後、ルルムンは困ったように首を傾げた。

 自分で思っているより、臭いはしていないのだろうか? いや、そんなはずはない。洗濯だって出来ないこの状態で、良い匂いなんてするはずが無い。

 そんなことを考えていたアキに、小さな呟くような声が突如聞こえた。

「……別に、臭いは気にならない……よ」

 声の主はレレムンであった。召喚された初日は一言も言葉を交わしてくれなかったが、昨日改めてラースと共に話をしてからぽつりぽつりと声を掛けてくれるようになった。嬉しい進歩である。

 レレムンはアキの傍らまで近づくと、ルルムンとまったく同じ動作で鼻を動かし臭いを嗅ぐ。

「やっぱり、気にならない……」

 そう言ってはにかみながら微笑むレレムンは、嘘は吐いていないのだろう。臭っていないのは良かった。安心した。しかし、それで満足するのかと問われればするはずが無い。いくら、他人が臭いなんて気にならないと言ったとしても、アキにとっては限界であった。

 早くこの制服を脱ぎ捨ててしまいたい。

 アキの頭の中には、この選択しかなかった。

「臭いがしないのは良かった。だけど、これからもずっとこの服を着続けるのは無理だから……」

 アキは二人に必死の形相で迫った。

「二人の服を貸してくれない!?」

 アキの勢いに二人は目を瞬かせていたが、やがて嬉しそうにルルムンが頷いた。レレムンもやや遅れてこくりと頷く。

「いいよ! ルムもレムも、服は沢山あるからどれでも貸してあげるよー」

「あ、ありがとう!」

 九死に一生を得るとは正にこのことだろう。二人の優しさに涙が出そうだった。

 出来れば下着も借りたいところだが、今は服を借りるだけにしておこう。夜にこっそり手洗いして、干しておけば大丈夫だろう。

 今後の予定を廻らせるアキの目の前に、沢山の服を抱えたルルムンが声を掛けた。

「アキ、どれがいい?」

 さっそく、クローゼットの中から服を取り出してくれたらしい。ありがとうと声を掛け、とりあえずベッドの上に服を並べてもらう。

 派手すぎるのはちょっと苦手だから、シンプルな服にしよう。色はこの際文句言わない!

 そう意気込んだアキだったが、目の前に並べられた服を見た瞬間、小さく悲鳴を上げて固まってしまった。

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