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ここから一人称です
ベッドから降り立った少女、アリスは俺と比べるとびっくりするほどに小さかった。
175センチの俺の腰ほどの身長。
小学生低学年と思われてもおかしくないような体躯だ。
というかまんま小学生低学年だ。
「迎えに来たって、いやいや」
状況が飲み込めない。当たり前だ。
この状況で簡単に状況が把握できる人間などいるはずもない。
いたとしたら挙手して欲しい。俺と代ってやって欲しい。
「そのままの意味よ」
「そのままの意味で解釈すると訳分からないから言ってんだよ」
「アホなの?」
「ぶっ殺すぞ」
状況は飲み込めていない。が、この状況の適応できている自分に少々戸惑う。
というか、
「えらく堂々とした空き巣みたいだけどよ」
「なにが空き巣よ、失礼ね」
「一体どうやって入ったんだよ」
「どうやってって、そのまま入ったのよ」
「だからどうやって」
「そのままの意味よ」
「アホだろ」
「ぶっ殺すわよ」
いくら不可解な状況で、意味不明な状態であろうと、西洋人形のような少女の口から「ぶっ殺す」なんて言葉は聴きたくなかった。
というか、
「お前みたいな可愛い子、見たら忘れるわけないだろ」
「え?」
「いや、忘れるわけないんだからさ。お前やっぱり人違い――」
「え?」
「は?」
というか、なんで俺はこんなに普通に話すことが出来ているんだ。
空き巣だぞ。いや、空き巣じゃないかもしれないけれど、ただの頭のおかしい子供かもしれないけれど、それでも、不法侵入であることに変わりはない。
「もう一回言いなさいよ」
「は?」
「だからもう一回言いなさいって言ってんのよ」
「なにをだよ」
にしても、生意気なガキだな。
もっとこう上品に喋ってくれたら、その外見と相まってとてつもない可憐さを発揮するだろうに。
「その、お前みたいな……のところよ」
「あ?」
「さ、さっさと言いなさいよクズ!」
「ぶっ殺すぞてめぇ!!」
登場シーンとキャラ変わりすぎだろ。なんだよ一体。
しかもそんな、ほら、なんか、白いその頬を赤く染めて上目遣いでこっち見てくんじゃねぇよ。
っていうかあれ。この感じ、なんか知っているような気がする。
「デリカシーがないのね。死ねばいいのに」
「一言多いんだよてめぇは」
はぁ、とわざとらしくため息を吐くアリス。なんだこら。
ってか何が一体どうなったらこんなことになるんだよ。まず状況を確認させろ。
「あのさ――」
「まぁいいわ」
遮られた。
「よくねぇよ」
「いいのよ。もう疲れたから」
「いやいや、よくねぇって」
「あんた、私のこと覚えてないみたいだし」
「覚えてるも何も、とりあえず俺の質問に――」
「帰るわ」
「聞けよ!!」
あきれたように俺に背を向けるアリスについ突っ込んでしまう。
意図的にこいつしてるんじゃねぇよな。というか意図的に決まってるか。
ってか、あれ。帰るって言ったってそっちには窓しかねぇのに。
「玄関はこっちだぞ」
「なんでわざわざ玄関から出るのよ」
「いや、なんのための玄関だと思ってるんだよ」
「……ねぇ」
声のトーンが下がった。
何だ、急に。
「あんたの周りでおかしなこと起こってない?」
「おかしなこと?」
「例えば……人が消えるとか」
「……ねぇよそんなこと」
あるわけねぇ。
そんなアニメみたいなことおこらねぇよ。
「そう。ならいいわ。また来る」
「いや、来んなよ」
切実に来るなよ。
「いやでも会うことになるわよ。あんたは、‘カミ’なんだから」
「は?」
意味不明な言葉をアリスが言った後、アリスのいた場所にはなにも無くなっていた。
「……は?」
まるでなにも無かったかのように、今見ていたものが幻であるかのように。
綺麗さっぱり無くなっていた。
何だ一体。今のなんだったんだよ。
結局、俺はそのまましばらく玄関に立ち尽くしていた。