アリス
それは唐突だった。
「久しぶりね」
小さな六畳ワンルームのアパート。
誠が住んでいる借家だ。
その自宅に理恵と別れた誠が入ると、そこにいた。
鍵はかかっていた。
締めたのは自分だ。
釘付けになってしまう視線を「それ」からなんとか逸らして窓を見る。
窓は閉められている。もちろん、学校に行く前は必ず締める。
だとしたら、ここにいる「それ」は。
誠のベッドに座って、足をぶらぶらさせながら、得意げな笑みを浮かべて誠を見つめる「それ」は。
一体何なのか。
「あれ? なにか言うこと無いの?」
「それ」は表情を変えないまま首を傾げる。
誠は「それ」が何かなんとなく知っている。朧気だが、知っている。
奇妙なデジャヴ感。
「久しぶりすぎて覚えてないの?」
意地悪く笑う顔は、西洋の人形のように綺麗だ。
精巧に作られているようで、でもそこには人間らしい幼さが残っている。
その顔を隠さないように目の上辺りで切り揃えられた真っ青な髪の毛は、布団の上で花弁のように広がっている。
スカイブルーのその髪は、暗い部屋でも窓から差し込む月の光に、キラキラと輝いている。
小さな体躯を包む白を基調にしたフリルのドレスも、スカイブルーの髪にかぶるように広がり、投げ出された足のふとももまでを覆っている。
そしてなによりも、その「少女」に視線が吸い込まれてしまうのは、そこに「少女」がいるという違和感よりも、
その両の目が、暗闇でも光る真っ赤な瞳だったことだった。
「誰だよ……お前」
搾り出すように誠は声を上げた。
体が思うように動かなかった。恐怖からかはわからない。ただ、靴も脱がず玄関で「少女」と対峙する。
その「少女」は、誠の言葉に眉を少し垂れさせた。
「……覚えてないか……」
心底残念そうに項垂れる。
あんなスカイブルーの髪や整った顔をした女を見たら、忘れるわけが無い。
その誠の確信もすぐに疑念に変わった。
だって、そうだろ。
(なんとなく知ってるんだから)
なんとなく、知ってしまっているのだから。
「アリス……アリスドール・キスショット・レプリカ」
「誠、あなたを迎えに来たわ」
それは、あまりにも唐突だった。