初めて彼女に出会った時のこと
昔、村があった。村には風習があった。村人は生を受けた六年目に一度死ぬ。それはいつから存在するかも知れない儀礼であった。とある禁書に残る伝承にはこうある。
「子どもが6つを迎える日、村の死霊術士が家に招かれる。子どもはまず死霊術士の煎じた薬を仰ぎ、獣の皮に横たわる。死霊術士が灯火を消すと、そこには無に等しい静寂が満ちる。そして、死霊術士が詩を紡ぎ、家人が大きな声をあげ泣き叫ぶ。それは死霊術士の詩が終わるまで絶えず続く。死霊術士は詩を終えると、口を閉ざし家から去る。家人はそのまま灯りをともさずに床につく。そして次の朝を迎える」
しかし、その村はもう存在しない。隣国によって滅ぼされたのだ。国はこの村を攻め、異教徒として村人を屠った。死霊術士だけは生かして捕らえ、その魔力を古代魔法を用いて封じ投獄した。国の権力者は、その知識と魔法を己がものとすべく死霊術士を尋問したが、死霊術士は口を閉ざし続けた。痺れを切らした権力者は、死霊術士を毒蛇の蔓延る針山に突き落とした。しかし、死霊術士は己に不老不死の禁呪を施していた。その禁呪は古代の魔法の呪縛に影響されず、針に貫かれた彼を生かし続けた。それを目の当たりにし、死霊術士を助け出すものがいた。それはこの世界に存在するはずもない”忍者”であった。彼は死霊術士を助け、匿った。忍者は彼に告げた。
「お前はまだうつし世で生きたいか?」
死霊術士は答えた。
「私はまだ世界を知りたい。より、人を知りたい。老いも死にもしない私に死ぬという選択はない。しかし、私をこの世界から追いやりたいものがいるならば、私は影に潜み、その人間を知ろう。世界の裏側より、世界を知ろう」
忍者は頷き言った。
「ならば俺の右手となり、世界が動き、人が動く様を見届けないか?」
死霊術師は頷き、彼の弟子となった。