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スピカ

作者: 千歳命

 女神が持つ麦の穂先に輝く一番星――。

それがスピカだった。

 スピカは、たった一つの星で輝いてはいない。連星と言って、二つの星がお互い手を取り合うかのごとく、高速でグルグルと廻って輝き合っているのである。その、どちらか一つの星が欠けても成り立たない。それが、女神が持つ麦の穂先に輝く一番星(スピカ)だった。

 そのスピカはまるで、ワタシたちを現しているかのようだった。

 そう――。

 それはまるでワタシとマヤとの関係。ワタシとマヤはまるで、本当の双子のように仲が良かった。もしかしたら、それ以上に仲がよいのかもしれない。物心付く頃から付き合っていて十年余り、今までに一度だってケンカなどしたコトがなかった。いつも何時だってマヤはワタシを必要としてくれていたし、いつも何時だってワタシはマヤを必要としていた。まさに、そのどちらかが欠けてもワタシたちはこの世では生きてはいけないのだ。例えそれは、好きなヒトが出来たとしても変わらない……。決して変わるコトはない、そうワタシは信じていた。この世では、ワタシたちは生きてはいけないはずなのだから……。

いけないはずなのに、マヤはワタシを裏切った――。


 アタシはマオを裏切ってしまった――。それは決して、許されるコトではないと申し訳なく感じている。いつも何時だって、一緒にいようねと誓っていたはずなのに……。いつも何時だって、アタシたちは一緒でいないと生きてはいけないはずなのに……。

 好きなヒトが出来たからうんぬんではない。それで変わったとしたら、それは絶対にアタシではない。そうでなくて、アタシは微妙ではあるけれども少なからず何かの変化を求めていたのだと思う。

このままじゃいけない――。

って。思うと言うのは、まだ漠然としていてはっきりと言えないからだけど。自分では全然ものごとを決められないと言うのに、何故か必死になってそれを探し出そうとしている。

 例えそれが、マオを裏切る形になったとしてもアタシはその答えを求め続けている。

 どうして、なのかな?

 今、とても満足しているはずなのに……

 全然、不満とかないはずなのに……。

 どうして、こうなったのかな……?

 どうして……?

 どうして……?

 ホントに――



「で、どうする……?」

 ふと、なんとなしに催促してみた。

 冷たすぎる風が、音もなしにアタシの頬をかすめていく。何時の間にか、時が止まってしまったかのような錯覚に陥っていた。

 相手は、全く身動きもしてこない。

 マオは一体この言葉をどう受け止めてくれるのか、アタシは少しばかり不安になっていた。

 相手が、ゆっくりとアタシを見つめてくる。澄んだような瞳が、物悲しさを謡っているかのようだった。

「……マジなの?」

 怯えているのか、かなり顔が青白くなっているような気がした。

「マジ。だから言っているのよ」

 平然としたかのように、アタシは淡々と言っている。一ヶ月前だったら、多分こんな言葉は言えていなかったはずだろう。一体何処で、運命の歯車が狂い始めたのだろうか。涙は全然乾いていた。

「どうしよう……」

「……ゴメン、ちょっと貴方にだけは言っておきたかっただけ。だから、別に気にしなくても良いわ」

「けど――」

「良いのよ。最初から決めていたコトだから」

 アタシの決意は変わらない。

 そう告げると、相手は辛そうに溜息を付いて来た。アタシの決意が本気だと知ると、相手はホントに悲しそうな顔をしてくる。

「……それで、良いの?」

「お願い――」

 恐れからか、相手がもう一度尋ねて来た。アタシはイライラしつつも、もう一回念を押すように頼んだ。答えは決まっているはずなのに、ウジウジしていて男らしくない。

「分かった……。けど、理由は教えてくれないんだね?」

「……ゴメン。でも、コレは個人的な問題だから」

 アタシはそう申し訳なさそうに相手に謝りつつ、細く寂しそうに笑いを浮かべていた。



 今日、マヤの様子が少しおかしかった。別にこそこそとはしてはいないし、妙な行動も起こしていない。ワタシが知っているいつも普段どおりのマヤだった。けれども、何かがおかしかった。そう、何かが――。

 何かがなのだけど、その何かが分からない。マヤにも聞いてみたが、「別に?」と言ってくるばかり。じゃあ、ないのだなぁと思うのだけどマヤの雰囲気がそうさせてくれない。

 ワタシがおかしいとかなり突っ込んで来たので、マヤはどうやら観念したらしい。ワタシとマヤは二人で一人なのだから、はじめからそう言ってくれればよかったのに……なんだか、釈然としない。ホントに、今日はどうしたのだろうか?

マヤは教えてくれた。明日、彼氏と一緒に大好きな映画を観に行くらしい。

 けどさ、それだったら別に秘密にするほどのコトじゃないように思える。だってワタシは一番マヤのコトが大好きで、ずっとずぅっと見て来ていたわけだし、マヤもワタシのコトをずっとずぅっと見て来たわけなのだから……。

それなのに、明日彼氏と一緒に映画を観に行くコトをワタシに内緒にしていただなんて、ワタシにはどうしても納得がいかなかった。

ワタシの身体が別な行動を起こし始めている。なんとかしなければと思うのだけど、マヤの意志が強すぎてどうするコトも出来なかった。

彼氏を欲しがったのも、ワタシではなくマヤだった。だから本来ならばマヤが明日映画を観に行き楽しむはずなのに、どうしてだか「一緒に観ようね」とマヤは優しく言って来た。確かに前々から観たかった映画ではある。映画ではあるのだけれども、ワタシはマヤの彼氏と一緒に観たくはなかった。どうせ観るのなら、マヤと一緒に観たかったのに……。

 これほどまでに、マヤの行動や言動が分からなくなったコトはなかった。

 これほどまでに、マヤがわずらわしく思えたコトがなかった。

 どうしよう……。

 どうしよう……。

ホント、マジでどうしよう……。

 ホントマジで――。

 このままじゃいけないような気がするけど、どうすれば良いのかが分からない。まるで底なし沼にはまってしまったような感じの衝撃が、ワタシの頭の中に襲い掛かって来た。

 もともと、ワタシはマヤ以外のヒトとは付き合うコトはなかった。家族とも、あまり付き合ってはいないため、誰が居て誰がいないのかも分からない。それなのにマヤが他のみんなから慕われ仲良くし独り歩きをしてしまうと、ワタシはひどく孤独感をつもらせるようになってしまった。ワタシだけ、狭い世界に取り残されてしまったのだ。社会からも、みんなからも……。

 一度だけ、そのコトについて不満が爆発しそうになったコトがある。けれども、結局マヤと面を向かっては言えなかった。言おうとはしたのだけれども、どうやって切り出して良いのかが分からずに、結局ワタシはそのまま何も言えずにズルズルと引きづる形になってしまった。……。



 アタシが生まれたのは必然的だった。人間である以上、ヒト一人の何処かに必ずアタシは存在している。例えば天使がいればそこには悪魔がいるように、男がいれば女がいるように、有があれば無があるように、アタシはそのヒトの陰となって存在しているのである。

本来ならばアタシは、そのヒトが引き出せなかった自我を目覚めさせるだけの存在だった。だからアタシは、マオがしたがっていた恋をして、他のみんなとも仲良くしていた。それでマオが自分に自信をもてて自立出来たならば、それはそれでアタシは嬉しかった。それがアタシの仕事であり、それがアタシの生きる理由でもあったからだ。もちろん、アタシも誰より一番マオのコトが大好きで、ずっとずぅっと見て来ていたわけだし、マオもアタシのコトをずっとずぅっと見て来たわけなのだけど……。

けれども、マオはその陰であるアタシに依存し続けていた。自分でものごとを全然決められなくなったコトもあり、今ではアタシがいなくてはもう何も出来なくなってしまっていた。いつもアタシの背中に隠れて、こそこそとアタシだけに頼っていた。親でも友達でもない、アタシだけを信頼しアタシだけを必要としていた。

最初はそれでも良いかなと思っていた。けれども、それが日増しに増え続けるようになって、だんだんとうざったいようなムカつくような気持ちになっていった。

アタシはこの世から切り離されている陰として存在し続けるしかないのだと言うのに、マオはその生きる勇気や希望を失くしながらも、悠々自適にこの世に存在し暮らしているからだ。自分と言うものがマオにはあるのに対し、アタシにはその自分と言うものがない。

アタシの方がマオよりも賢く生きて、マオより強く生きていけると言うのに、神様は影と言う存在でしか役を与えてはくれなかった。

アタシがマオに立ち代ってその役になれないと言うのならば、もはやこの世に生きている意味などないのだと今更ながらにして気付いてしまった。本当は前々から気付いていたのかもしれないけれども、アタシはそれを今の今まで考えようとはしていなかった。

ヒトはヒト、アタシはアタシなのだ。そう、アタシは自信をもって思っていた。けれども、それではいけないのだと自分の中で不安が何処かしら渦巻いていた。何かが違うと気付き始めていた。もしかしたら、自分自身成長するコトで、そのコトを自覚し出したのかもしれない。

とにもかくにも嘘の自分を演じ続けるのは、やはりキツイ部分があった。本来ならば、アタシはただの自我であるはずだったのだ。理性をぶち壊し、自分の欲を見い出し、そしてアタシは陰として存在し続けるはずだった。それが今では表のアタシに必要とされている。それがなんだか、アタシには憎たらしかった。自分が必要とされているはずなのに、だ。

おかしいと言えば、確かにおかしかった。けれども、それをもはや考える必要はなかったのだ。何故ならそれを今更考えても、もう意味などないからである。

雁字搦めになったこの役を投げ出したくて、絡まりあったこの糸から逃げ出したくて、だからアタシはついに殺すコトにしたのだ。

アタシの陽の存在である、マオを殺すコトに……。

アタシは、自分(マオ)を裏切ったのだ――。


これも学生の頃に書いた作品ですね

懐かしいなぁ

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