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1.遭遇と接続(4) 

 許せなかった。

 恵まれているだけでそれを誇り、相手を見下す目の前のナルシストが。

 いくら頑張っても、いくら結果を残しても投げられる暴言、向けられる蔑みの視線。僕のやることなすこと、全てが汚れているように、裏があるように見られる。

 しかもその原因となった事件は父親が引き起こしたもの。少年だった頃の僕の友人の一人は「大丈夫! ケイ兄ちゃんのお父さんなら成功するよ!」と実験体になり、引き止めた僕の手の届かない所に行ってしまった。

 結果、僕は友人を、家族はマッドサイエンティストの父を残して失った。その実験後、最後の家族であった父は失踪。すべてのその失敗の責任は僕にあるかのような世間の目。家の前には記者が群がり「このことについてどう思うの?」「今どんな気持ち?」の繰り返し。その後も名前に刷り込まれたイメージは消えない。

 名前そのものが呪いと壁を生み出し続けていた。

 八つ当たりだ、そんなことは分かっている。

 頭に完全に血が上っている。コイツは嫌いだ。

 同時に思考も完全に止まっていた。

 目の前からどう考えても回避不能な位置にミサイルとグレネード。とたんに頭が冷えたというか覚めた。

 ああ、負けたな。それだけが頭の中にあった。こっちが相手と正対している以上、相対速度が早すぎて回避判断が追いつかない。

 性能自体は存分に見せつけられた。テストパイロットの身分としては十分すぎる。

 そう考えた瞬間にもう時間が止まったみたいだった。自分に向かって相対速度にして音速に近いミサイルが自転車並みの速度で飛んで……

 おかしい

 僕の心臓の音までゆっくりと聞こえるし周囲の空気の流れまでコマ送りしているかのようにゆっくりと流れる。

 そんな中で自分の思考だけが何時も通りの速度。異空間にでも紛れ込んだかのような錯覚。三つのミサイルの隙間を鈍い体の動きでくぐり抜ける。間違いない、時間が遅くなっているんじゃない。脳の演算速度が加速しているせいで相対的に時間が遅く感じている。

「――――勝って!」

 頭に響いた一人の少女の声。観客の声は届かないこのリングにおいて幻聴に過ぎない。そのはずなのにその一言がひどく胸を打つ。

 ガラでもない、自分でもわかっている。それなのに諦めてはいけない、まだ遥か遠い勝ちを拾いに行こうと自分の体に力が入った気はした。

「まかせろ!」

 コンバットハイというのだろうか、なんでもできそうな単純な理性。ミサイルを足場に飛び、グレネードの機動を横から押し背後に過ぎ去ったミサイルに向ける。

 背後での爆発の勢いでさらに加速する。それだというのに全てがゆったりとした動きに見える。ほんのわずかだけど景色の中に球状のゆらぎが見えた。反射的にそれが光学迷彩の影響だと判断。スラスターで急降下、真下をスライディングで滑り抜ける。

 そのまま脚部のみスラスターを噴射、相手の顎を狙った垂直の飛び蹴り。実際の時間はどのくらいなのだろう。命中するまであまりにもゆっくり過ぎて不安になるぐらいだ。

 寸でのところでよけられたが、相手はバランスを崩す。顎の部分をかすった状態からブースターで一瞬距離を取る。

 体制を崩した今の相手にはタックルか、ドロップキックあたりを叩き込めば場外に吹き飛ばして勝ち。勝機は今しかない。

「ケイコク、身体機能ニ異常発生」

 知ったことではない。あとほんの一発、それで勝てる。

 ブースターフルバースト。時速表示は軽く800近くになり体にかかる重力加速度も半端じゃない。そのせいか視界に入った大きなミサイルの破片を回避しようとした瞬間、拍動が急に大きく乱れた。加速し続けるパワードスーツに霞む視界。気がついたときには破片に乗り上げ、自分が空中に大きく跳ね上がっていた。きりもみ回転しながら場外の壁面に叩きつけられた体。僕はそのまま地面に落ち、胸を抑える。身体機能の異常を知らせるアラームとごめんなさいと繰り返す声が頭の中で響いていた。


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