1.遭遇と接続(3)
***
会場が静まり返った。たったひとり、しかもボロボロの洋服を着ている少女が忽然と現れたことすら誰も気に止めない異様な空間。目線は全て中央のリングを模したリンクビューの映像に注がれている。少女は胸を撫で下ろして会場の出口に歩を進めた。
しかし爆発する歓声と悲鳴が彼女の足を引き止める。彼女が振り返った会場の中心には真紅のパワードスーツが幾度となく空中でお手玉のように弾かれていた。
銀色の竜巻。人間の視覚、知覚を全て踏みにじる圧倒的なスピードという名の暴力。
たまらず空中に大きく高度を取りリング全体を覆うように爆風が立ち込める。
その少女は決して大きいとは言えないその口を開いた。万人がそのリングを見て赤い方のパワードスーツが勝ったと思っている。しかし少女ただ一人はそのパワードスーツの上空を見上げていた。
「ウソ……」
少女の言葉に視線を彷徨わせた観客が上空を指さし驚愕の声をあげる。
浮遊のための垂直ブースターも飛行装置も持たないパワードスーツが浮遊型のパワードスーツの頭上をとっていた。陸戦用のブースターでの跳躍が宙で戦うことを前提としたものを踏み越える出力を持っているなどと誰が思うだろう。
そしてその位置エネルギーにその出力の加わった銀色のパワードスーツは紛れもない加速する人間砲弾。
「いいかげんに落ちろオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
選手に付けられたマイクから響く若い男性の声。背面のブースターと両足の脇と脇腹の五角形のスラスターが蒼い光を放ち、その極太の光の尾を取り残し銀色のパワードスーツは赤いパワードスーツに突進する。銀色の彗星が地面に超高速で落下する。衝突と同時にリングは白色の粉塵を撒き散らす。
少女はあまりの光景にその赤い瞳を見開いたまま唾を飲みこんだ。会場全体からその飲み込む音が聞こえそうな静寂。観客全員が息をつめてじっと見つめている。
粉塵が晴れる。地面に倒れている赤いパワードスーツに右手をだらりと垂らしている銀色のパワードスーツ。
「チャンピオンダウーン!」
銀色のパワードスーツは背面のブースターとその上の突起物、そして五角形のスラスターがカバーを開き突出する。その周辺に陽炎が立っているところを見るに放熱を行っているのだろう。
「頼むから立ち上がらないでくれよ……」
「そもそも倒れてもいない」
「――――光学迷彩は機雷だけじゃなかったってことか」
飛び退く銀色のパワードスーツ。
「本気で攻めたら君の言う『性能』とやらを見ることはできないからね、AIダミーを展開させてもらった」
背中の棺桶の様なものが無数に展開される。
「さあ、逃げまどえ! 狩られる物らしく!」
ミサイルとグレネード、加えて機雷による包囲網。先程までの機動力が嘘のように一方的に攻撃を喰らい続ける。銀色のパワードスーツは煤で徐々に黒く染まり誰がどう見ても生き残っているはずがない。
リンクビューによる映像であることは分かっていても、思わず目を背けたくなる一方的な一人に対する虐殺。
リングの上でバウンドしてうつ伏せに倒れる銀色のパワードスーツ。
「どうだね? 逃げる必要もなく策略も戦略もスピードも踏みにじる圧倒的な力は? 逃げるだけの君には辛かろう?」
左手だけで立ち上がろうとする銀色のパワードスーツ。
「ほう……まだ逃げ続けるか? 獲物」
「ざ――――」
何を言ったか聞き取れない
「ふざけるなよ」
突出していた各部が引っ込みカバーを閉じた銀色のパワードスーツ。
「逃げるのも、避けるのも人として当然だろ」
フルフェイスのパワードスーツのなかの表情はうかがい知れない。それでも怒りを湛えているのは理解できる。何かの琴線に触れたのか。
「常に努力も成功も認められたんだろうな、チャンピオン。そういう人間ばかりじゃねええんだよ!」
右手を垂らしたまままっすぐ突進する銀色のパワードスーツ。
「だめ……!」
少女は叫んでいた。このままでは絶対に負ける。これがリンクビューでも肉体と精神へのダメージは計り知れない。
「助けないと……でも」
少女は両手を合わせ一瞬迷った様子を見せる。ただその思考を振り払うように首を振った。精神統一するように目を閉じて祈るように手を組む。
「脳波スキャン・コンタクト開始」
少女は真っ赤な目は強く燃えるように輝く目を見開く。その眼に無数のミサイルが発射される光景が映った。
「ブレイン・コンタクト、並列演算開始……」
***