1.遭遇と接続(2)
認証システムの認証完了を示すグリーンランプが点灯する。0と1のデータが僕の体を取り巻き、足部から順に特殊カーボン素材で出来た耐衝撃ボディが展開される。両足すねの脇と脇腹に設置された五角形の可変スラスターに背中のメインブースター。
他にも説明は受けたけど戦闘中はそんなこと関係なしに動かなくてはいけない。
なにせ地上戦における最速を目指したパワードスーツ。ごちゃごちゃ考えている余裕はない。フェイスガードが完全に自分を覆う。
相手が若干遅れて地面から浮遊する真紅のパワードスーツを完全展開した。背中には棺桶のようなオブジェクトが蝶の羽のように四つ、展開されている。
「展開前に攻撃すればよかったのにねぇ? ちょっとだけひやっとしたけど?」
「不意打ちで勝ってもこのパワードスーツの性能は見せられないからね、それに展開速度性能は見ればわかる」
相手は悠長に「なるほど」と頷く。
「では見せてみたまえその性能とやらを!」
上の方の棺桶が観音開きした瞬間発射された無数のミサイル。ユニット展開済みタイプのパワードスーツは攻撃までのラグがなくて羨ましい限り。こっちは戦闘が始まってから武装を選べる選択展開型だから文句は言えないけど。
「ウェポンセレクト・ショートレールガン」
何百回も聞いた無機質なシステムボイスが耳に響く。握力計のようにも見える武装展開デバイスによるデータマテリアライズ。今回、大会とは言えこっちは新規武装の有用性テストも兼ねている。発射までのチャージ時間がある、連射が不可能である時点で有用性は薄れているが超高速弾に高威力、何としても当てたい。ミサイルをギリギリまで引き付け真横にスラスターを噴かす。
その間にもチャージ、敵機を正面に捕え続ける。
重力加速度に一瞬呼吸が止まった。油断せず首筋に力を籠めないと本当に意識が飛びかねない。HUDに背後からのミサイルアラート、数が多い割には随分と高機動で高性能な追尾機能だ。いい火器管制CPUを積んでいるらしい。
背面頭上斜め上からのミサイル接近。今度は首筋に思いっきり力を込めて前方に伏せるように飛び跳ねる。着地直前に進行方向と正反対の方向にスラスターを噴かす。
「チャージ・カンリョウ」
砲身からプラズマの青白い光がほとばしるのと同時に目の前で無数のミサイルが地面で爆散する。こちらの着弾確認ができない。
「警告 高熱源ハンノウ」
分かっていたけどやすやすとやらせてくれない。爆炎を通り抜け相手の懐と思える位置に加速する。耳もとで何かが焦げるジュッという音。地面は赤く半円を描くように溶けていた。
「ずいぶんと良いセンサーを積んでいるようだね」
「――――お互い様だな」
超高密度収束レーザーキャノンの薙ぎ払い。どうやらあのミサイルはこの大技を決めるためのチャージ時間を作るためのものだったらしい。
よく見れば片側のミサイルポッドの一部が破損している。当てたと言えば当たったけど外れたと言えば外れている。こっちは高速高機動。高火力射撃タイプが相手なら遠距離よりも接近戦に持ち込んだほうが有利のようだ。
「ウェポンセレクト・レーザーブレード」
ブレード、と言いつつ完全に巨大な大刀または鈍器の皮をかぶった精密機器ともいえる。もとは工作機械用のレーザーカッターを応用して白兵戦用兵器に仕上げた対装甲兵器。
息を一つ吐く、少し屈む。
息を二つ吐く、ルートを確定する。
息を三つ吐く、加速する。
瞬間加速時速300kmの鈍器を持った回避機動をとる人間砲弾をやすやすとかわせるはずもない。いかに優れた火器管制システムも所詮人間の想定内だけの制御、予測以外出来ない。このパワードスーツは少々常識外の地上機動性能。被弾せず背後をとるのは容易い。
レーザーの収束は十分な火力を誇る。相手は感覚連動しているとはいえリンクビューに映るホログラム。遠慮なく一刀両断させて……
「信管レーダー感知 カイヒ カイヒ」
周囲に鳴り響く見えない起爆準備音。CPUは回避を促すがどう考えても上下左右360度囲まれている。回避方向の判断が遅れて球状の爆発に包まれる。場外に吹き飛ぶレーザブレード。逃げ場のない爆発衝撃は流石に効いた。CPUがパワードスーツの深刻な障害を警告し続ける。
「もしかしなくても光学迷彩の空中機雷か……」
「ご名答、君はこの鳳凰院の宿敵に相応しいようだ」
変態のお眼鏡にかなってもちっとも嬉しくない。
しかしさっきの爆発でウェポンデバイスをロストした以上戦闘手段は肉弾戦以外になくなった。
「上等……」
このパワードスーツを乗りこなすための各種訓練は伊達じゃない。超密接距離の亜音速高速高機動格闘戦を見せれば観客もスポンサーもこのパワードスーツの有用性は認めてくれるだろう。最低限それが僕の仕事。
唸りをあげる各部スラスターにブースター。
「死ぬまで踊ってやるよ」
「華々しく散るのかい?」
余裕綽々でミサイルウェポンポッドを展開する相手。
「あんたが、な」
「それは楽しみだ」
発射煙の乱舞が何故か救いに見える。警戒すべきは光学迷彩の空中機雷。見えない以上信管レーダーを探知し次第離れる以外ない。
特性もわからない以上爆発範囲外まで距離をおくこと。もしくは設置する暇も与えないこと。現時点では対策が浮かばない。もう設置していないなら後者のみで行ける。
もともとごちゃごちゃ考えたくない。もうシンプル・イズ・ベストでいく。
「スラスター・稼働レベル2nd」