1.遭遇と接続(11)
「ウソ、だろ」
ようやく動き出した鈍重な体で這いながら健一のいるところに向かう。
「嘘だって言ってくれ、頼むから」
また、死なせた。健一を、また、死なせた?
やめてくれ、お願いだ。なんでこんなことになるんだ。
「ケイ、ニイ、チャ……」
ただでさえ聞き取りにくい機械音声がノイズ交じりでさらに聞き取りにくい。そのはずなのに脳みそに刻み込むように言葉一つ一つが僕のことを抉っていく。
「ニゲ、ラレルヨ」
「駄目だ、これ以上はダメだ、お願いだから」
表情も何もないはずの彼が笑った、気がした。
「オレ、ッテイウホウガ」
一層ノイズ音がひどくなる。
「カッコイイノニ、ナンデ、イマハ、ボク、ッテイウノ?」
「そんなこと、どうでもいいだろ」
自分の声が自分のものでないような気がする。自分の行動と思考がばらばらになって全く現実味を感じられない。ただわかるのが冷たい機械の感触も、耳障りなノイズも、それに紛れる優しい健一の言葉も消えるということだけ。
「オヤ、スミ、カナ?」
「まだ昼じゃないか、寝るのはまだ早いぞ」
精一杯の冗談。せめて意識が残っているなら心配はさせたくないという強がり。
「ジャア、オヒルネ、ダネ」
稼働ランプのようなものが瞳を閉じていくようにゆっくりと光を失っていく。
「オヤスミ、ナ、サ」
もう、ノイズも聞こえなくなった。稼働を停止した、つまり意味するところは。
「はっ、金賭けたのにいきなり暴走なんてするからだ」
叶うことなら目の前の宵月とかいう研究者をぶっ殺してやりたい。
「貴様のそのパワードスーツはそれを超える金を稼げそうだからまあ、良しとしよう」
パワードスーツも自分の身体も動かない。なんて、無力。
「そんな金、カネ言うからあなたは研究者として三流以下なのよ」
バッサリと切り捨てるような強い声に、宵月が青ざめた顔で振り返る。そこには僕が見知っている短い赤毛の「彼女」の姿があった。
「警備部隊公安部が、なぜこんなところにいる!」
「あなたの不穏な動きはマークしていました。そして通報により研究所情報保護特権法違反及び警備部隊内規違反が認められたためあなたを強制確保いたします」
宵月はすぐそばの兵に目配せをした。兵が銃器を構えようと腕を上げるのとその彼が悲鳴を上げるのはほぼ同時だった。兵の腕が糸の切れた人形のようになって血を垂らしている。
「今のは狙撃兵による威嚇射撃です、次は別角度から脳天を狙います」
宵月が観念したように両手を組んで頭の上に置く。
「連行しなさい」
無駄のない動きで手錠をかけ、連行していくその姿を僕は這いつくばってみているだけだった。
ため息をついて「彼女」が自分に手を差し出す。
「あなたのそばって本当、仕事が増えてお手柄も舞い込むわ」
「湯布院」
「まだ碧って呼んでくれないのね」
厳しい顔に笑顔で答える、その能天気な物言いに腹が立った。
「なんでもっと早く来なかったんだよ! もっと早く来れば、お前が早く来れば!」
八つ当たりだってわかっている、それは僕自身がよくわかっている。
「立ちなさい」
「おいおい、あのマイクロウェーブ照射をガッツリくらった人間にそんな鞭を打つなよ、SMクラブの女王様かっての」
「私は自分で立とうともしない人間を見るのが嫌いなだけよ、来栖」
湯布院は不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「あなたの通報が遅かったせいで文句言われちゃったじゃない」
頭をかきながら「そりゃ悪かったな」なんていう来栖。
そうだ、二人にはわからない。人が一人「死んだ」ことに。
湯布院の差し出した手につかまり立ちあがろうとしたけどよろめいて倒れてしまった。
何とか壁にもたれかかるように座ることはできた。けどこれはかなり重症だったのかもしれない。思った以上に体が言うことを聞いてくれなかった。
来栖の後ろにヤコが見える。彼女は今回尽力してくれたはずなのにそれを生かしきれなかった。そうだ、みんな出来うる限りのベストを尽くしてくれていた。わかっているんだ、それはわかっているんだ。それなのに僕は。
自己嫌悪が心臓まひでも起こして死ねたらどれだけ楽なことだろう。
来栖が動けない僕に代わってパワードスーツを解除していく。どうもデータ化するには損傷がひどいらしい。
来栖が僕からはぎ取ったパワードスーツを湯布院の車に積ませてくれないか頼み込んでいる。僕はそのありのままの姿でいられる二人を直視することが出来そうになかったから、眼をそむけた。
その先に泣きじゃくるヤコの姿を見るとは思わなかった。
「ヤコ、なんで君は泣いて」
「見てしまいました、ごめんなさい」
そうか、彼女と僕は思考を繋げていたから。僕の感じたことがそのままヤコに伝わっていたのか。でも僕は、いやだからこそその姿からも目を背けたかった。そう思ったときにはもう、肌にぬくもりを感じていた。
「人が、目の前で死ぬのは、悲しいです」
ヤコは僕の首にしがみ付いて僕の身体を涙で濡らしていく。
出会った時を思い出す。ぼろぼろの布きれを着ていたヤコ。いったいヤコはどんな目にあっていたのか。
ひょっとしたら彼女も大事な人を目の前で亡くしたのだろうか。だとしたら僕のせいで思い出させてしまったのかもしれない。
「違います」
ヤコは真っ赤に腫れた両目で僕の目を見る。そしてはっきり言い切った。
「彗さんは何も悪くありません」
ヤコは僕の考えていることをもう知っていると言わんばかりに。でも納得しきれないその言葉にひどく心が揺れた。
「違う」
「違いません、だから彗さんは泣いていいんです」
泣くことは甘えだ、逃げだ、そう思っているのに、それはいけないと思っているのに。
いつの間にか僕は




