暗く入り組んだ通路を照らす無数の小さい緑色の発光体。
スーパーコンピューターとそれをつなぐケーブルの群れの中を何も持たない少女と軍用のアサルトライフルを抱えた女性が走り抜ける。
少女がケーブルに足を取られ転び、女性は彼女が地面に寝転ぶ前に引き上げる。一発の発砲と同時に「ばかやろう! ここで撃つな!」という怒声、そして女性のうめき声が同時に響く。
「マトイ! 撃たれたの!?」
「大丈夫、問題ない」
そのまま何事もないように奥のスライド式のドアの前に走り、カードキーを通す。8桁の暗証番号をメモも見ないで入力。迎え入れる自動ドア。彼女たちの背後から迫る無数の足音。
「奥に走って!」
急に明るくなった部屋。短い輝く銀髪の少女は赤い瞳の目を細めて言われた通りに部屋の奥に走る。
長い栗毛の女性は弾切れのアサルトライフルを部屋の中央に放り投げ、冷静な黒い瞳で開閉装置に白い小箱を設置する。
「伏せて!」
女性は少女のもとに向かいつつ扉から飛び抜きスイッチを押す。
爆音とともに吹き飛んだ開閉装置。しばらく自動ドアは開くことがないだろう。
「マトイ……やっぱり撃たれて」
「いい? よく聞いてヤコ」
女性の左肩が血で真っ赤に染まっている。今までの厳し目の口調からは嘘のように優しい、子供をあやすような言葉。
「あなたはここからなら逃げられるわよね」
彼女が指差したのは外部ネット回線との接続端子。少女はそれを聞いてすべてを察したのか泣きそうな表情を浮かべる。
「ダメだよ! そんなことしたらマトイが! それに一緒に逃げるって!」
「私が甘かったの、ごめんね」
血で濡れていない右腕で抱き寄せ額に口付ける。
「ごめんね、こんな時にあなたを人間として否定するようなこと言ってしまって」
「そんなことないよ! だから二人で助かる方法を」
女性は彼女の言葉に首を振る。
「間に合わないわ」
自動ドアから顔をのぞかせた巨大な丸ノコ。あのペースだと扉が切断されるまでに一分と猶予はないだろう。
「外に出ればあなたを人間として見てくれる人がきっといる。幸せにね」
少女は泣きじゃくりながら女性の名前を耳元で叫び続ける。
「早く――――行きなさい!」
また厳しい口調に戻ったマトイは魔法のように消えていく少女、ヤコを言葉とは裏腹の笑顔で見送る。
「本当に世話の焼ける子」
突入する警備員部隊。
「さて、私はどんなモノ扱いされるのかしら」