天蓋付きベッド
「……すごい熱」
突然、そんな声と共にひやっと冷たいものが額に当てられた。推測するまでもなく、それは少年の手だろう。結構長い時間この場所に放置されていたんだろうなー、なんて少し心配してしまうよ。
同時に少年の手に汗がついてしまうー、と思ったけど。優しく触れられた手を拒むことなんてできなくて。その優しく冷たい手が心地よくて――気づいたら、目を閉じていた。
(あー……このまま、眠ってしまいたい)
だが、こんな危険な場所で眠っていられない。そう考えていた矢先、微かにだが草を掻き分けるとうな音が聞こえた。
だんだん大きくなってきていることから、こちらへと近づいてきていることが分かる。
「……どうやら、魔物じゃないようだぞ。オイラは一旦戻るっ」
どこに戻るんだ。なんて今はどうでもいいことを考えてしまった。
でも、魔物じゃないという言葉にホッとして、緊張の糸が緩んでしまった。なんか、意識が薄れていっているような……。
いやいや待て私。魔物じゃないからって、安心はできないぞ。魔物以外にも危険なものって、沢山あると思うんだ、うん。
色々な危険の可能性を残したまま意識を失ってたまるかぁぁぁ!!
思ったところでどうにか出来る訳もなかった。
重い風邪、下手したら肺炎になりかねない症状に勝てるはずもなく。意識を完全に手放してしまう瞬間、少年とは異なる、性別不明な声が聞こえた気がした――。
ふっと意識が浮上していく感覚は、なんとも不思議であった。
まぁ、寝て起きる度感じるんだから、その不思議はいつも感じているわけで。特別なものではなかった。
なんてどうでもいいことは置いといて。
「……ここ何処さ」
開けたくないと拒む瞼を無理矢理開けると、目に入ってきたのは生い茂る木々でも青空でも天井でもなかった。
「まさかの天蓋」
そう。それは、私が今寝かされているだろう眠りへと誘おうとし続けるふかふかベッドの、天蓋だった。見るのも寝るのも初めてだ。
上体をゆっくり起こしてみると、先程までのダルさは一切感じられなかった。それどころか、寝てスッキリしたのか、軽く感じる。
まだ完全に覚醒しない頭をかきむしり、ベッドの置かれた室内を見渡す。
ベッドの脇に置かれた、二つの椅子。キャビネットにテーブル。でかいガラスの扉からは、テーブルと椅子の置かれたテラスが見えた。
どこもかしこも高級そうな雰囲気を隠そうとしていない。
「んー……これはどういう状況なんだろ。金持ちにでも拾われた、のかな?」
一切の拘束がなく、こんな部屋に寝かされている状況。そうとしか思えないけど、そうとは言い切れない。
ベッドから降りて、部屋の外を散策してみる事に。私、完全なるインドア派なんだけど、こんなファンタジーな世界でそれは勿体ないと思うんだ。
それに、湧き上がる好奇心を抑えられないって理由もある。
ベッド脇に置かれていた、私がもともと履いていたブーツを身に着け、いざ部屋の外へ。なるべく音をたてないように扉を開け、顔だけ外にだし左右を確認。
「よし、誰もいないね」
人の気配を探ることが出来るので、誰もいないことは分かっていた。でも、少し離れた場所に、沢山集まっている人と、まばらに動いている気配を感じる。
何故かこの部屋周辺にはいないけれど。
部屋を出て、適当に左の廊下を進んでいく。部屋の中もそうだったけど、廊下もかなり豪華な造りをしており、高級感が半端ない。床は多分、大理石みたいにたっかい石を敷き詰めているんだろうなぁ。
静かな廊下に、コツコツと私の足音だけが響く。
一応今、十数人くらいの人が集まっている場所に向かっているんだけど……中々遠いな。その人たちが一番近いんだけど、それでも遠い。
テラスと窓の外を見たら分かるんだけど、ここは二階。集団の気配は一階から感じる。ひたすら廊下を歩き続けているんだけど……階段が見つからない。
「……何分くらい歩いたんだろ、私。扉ばっかでつまんないなぁ」
なんの部屋なのか見当もつかないが、開けることはしない。だって、誰かのプライベートな部屋かもしれないじゃない。
インドア派がいきなり外に出て扉だけを目にしていると、飽きてくる。どうしようかなぁ、と考えながらも歩き続ける事数十分。
「や、やっと見つけた」
病み上がりの私に何たる仕打ち。
何故人を尋ねる為にこんなに歩き廻されなくてはいけないんだ。しかも、見つけたのは一階へと降りる階段。つまり、まだ人のいる場所へは辿り着いていないと言う事。
「……勘弁してくれ」
「そこまで。少しの間休憩を与える。十分に体を休め、午後からの訓練に臨むよう」
おろ。やっと人のいる場所へと辿り着けたようです。
休憩という言葉の後に、複数の人の声も聞こえた。どうやら何かの団体のようです。無難に考えれば、この城っぽい建物の騎士団とかかな。
あ、因みに私検索しておりません。ここがどこなのか。だって、大体歩いてしまえばここがどこだか簡単に予想はつくし、さ。
至る所に刻まれた一つの紋章とかも見れば。




