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転生、転性  作者: 影宮 広嗣
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悪魔のユーベル



 うん。そうだよね。気がしただけで、見てない。つまり、気のせい!

 そう、気のせいさ! 私は別にでっかい猪みたいな魔物っぽいものなんて見てないからぁぁぁ!


 いきなり言葉を途切れさせた私を、訝しげに見つめてくる少年。あ、可愛い……なんて考えている間も、少年の背後にチラチラ姿を見せる猪さん。どうやらこちらの様子を窺っているようです。

 はいっ、見間違いじゃありませんでしたー。ここに来てフラグ回収とか!!


 心の中で否定しても現実が捻じ曲がる訳もなく。一先ずここから退散した方が良さそうだ、とずっとしゃがみ込んでいた身体をゆっくりと立たせる。

 え、何でゆっくりかって? そりゃ……いきなり立ったら貧血起こしそうな身体なんだもの。ゆっくり立っても少し眩暈を覚えているんだよ!?


「ぷ――プギャアァァァァァァァアアァァァ!!」


 少年に忠告をしようと口を開いた私の声は、こちらに物凄い勢いで突っ込んでくる猪さんの、耳が痛くなるような(実際痛い)叫び声に掻き消されました。

 背後の存在に気付き振り返った少年と猪さんの距離は、ほんの僅か。このままでは衝突し、少年の身体は一瞬にして砕け散ってしまうだろう。


 私の思考がこんな危機的状況に慣れているわけもなく、素早い判断が出来なかった。少年を庇うことも。

 でも、これだけは分かった。


(少年に、焦りの様子はない……つか、鳴き声がプギャーとか――笑えるんですけど)


「ッ――ユーベル!」

「ほいさっ!」


 少年の叫びと共に、ポンッと空中に現れた黒く小さい生き物。姿形が人間をベースにしていると思われる小さい生き物が、またまた小さい指をひょいっと動かした瞬間、突進してきていた猪さんが遠くへと吹き飛ばされて行きました。


 ……予想外デス。


 よくよく小さい生き物を見てみると、俗に言う悪魔のような容姿をしていた。先程も言ったように姿形は人間で、髪の毛と瞳は少年と同色。背中に蝙蝠のような黒い羽と、先の尖った同色の長い尻尾が生えている。

 身体全体の大きさは約10㎝とミニマムな感じがするけれど……吊り上がった目じりが猫のようでぶっちゃけかなり好みな子です!!


「……少年、それは」

「そ、それとはなんだ! それとは! 初対面で失礼な男だな!」


 指でさしながら少年に問いかけると、小さい悪魔のような生き物がぷりぷりと怒りだした。


「オイラは高貴なる悪魔だぞ! それに、ユーベルっていう立派な名前もあるんだ!」


 お、おおふ……ごめんユーベル。可愛いからもっと怒って!

 少年の肩に乗ってぷりぷり怒っている姿は、そりゃあもう可愛らしいもので。猪さんを倒したことにユーベルへとお礼を言っている少年もなんとも言い難いかわいらしさ。

 すみません。テイクアウト有りですか!?


「ああ、すまない。ユーベル」


 あまり怒らせすぎると嫌われてしまう。嫌われるのなんて御免だ。無表情だが感情をこめて謝ると、何故か少年が驚いたような表情を浮かべ私の方へと向いた。

 ユーベルはというと、それでいいんだとでも言う様に満足げに頷いている。


「……悪魔、だよ。怖く、ないの?」


 寧ろ可愛いですけど何か!?

 と全力真顔で言い返しそうになったけど、盛大なキャラ崩壊へとなってしまうので自重。「全く」と素っ気ない返事をしてしまった。

 私の返答に更に驚いた様子の少年。悪魔、と言うのは特別な存在なのだろうか。忌み嫌われる原因だったとか……っと、今はそういう重い内容を聞いている場合じゃない。


(魔物がいなくなったんだから、次のフラグを回収する前に森をでなくちゃ)


 ……と、思ったんだけども。それは簡単には叶わない事だった。

 魔物の登場ですっかり、でもないけど忘れていた。私、体調が物凄く優れないのよ。歩き出そうとした身体は勝手に力が抜け、その場に尻餅をついてしまう。


 いやぁ、びっくり。歩けないどころか立っていられない程体調が悪いなんて、生まれて初めてなんだもの。

 少年が背にしていた大樹に凭れ掛かるような恰好になり、顔を俯かせる。冷汗がどっと出てきて、いきなり襲ってきた寒気に身を震わせてしまった。


(あー、なんか吐きそうな程気持ち悪い……イケメンな姿で、人前で吐くなんて醜態晒さないけど。気力で……。くそ、アルトのやつ……絶対後でぶっ飛ばしてやるからねー、好みの顔以外を)


「おいおい、どーしたんだぁ? この(あん)ちゃん、すっげー具合悪そうだぞ?」


 アルトにどういう拷問を実行しようかと、鈍ってあまり働かない思考の中考えていると、上から声が降ってきた。

 おー……心配してくれるのか、ユーベル君。なんて優しい悪魔なんだ。君は天使か。


 ちっさい子に心配をかける趣味はないので、大丈夫と言いたいのだけれど……首を持ち上げる力さえ残されていない私の姿は、果たして大丈夫に見えるのか。見えないだろうなぁ。


 うぬあー……これが私じゃなかったら、弱ってるイケメンの意識がなくなるまでそっと陰から見守ってるのにぃ!

 私は死にそうになっている美形やショタっ子が大好き、と言うよりも愛しているのであって、自分がそうなる趣味は無いんだってぇ!



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