弟候補君
樹に凭れ掛かるようにして座り込み眠っていたのは、一人の少年。
見る限り、年齢は10代前半。襟足が短く両サイドが肩まである、ウルフカットのような黒髪。目は閉じているから分からないけど、肌がかなり白くてほそっこい身体つきをしている。
ほそっこいって分かったのは、纏っているボロボロの衣服からがりがりにやせ細った様が丸見えだからです。
可愛らしい寝顔とこの恰好……かなりお姉さんの目の保養です!!
「だがしかし……なんでこんなところに寝ているんだろう」
疑問に思うと同時に、想像したことがある。
もしかしたらこの少年は、ベタなことい普通と異なって忌み嫌われ、危険度の高い森に転移、若しくは連れてこられ捨てられた……なんてことないよね。あわよくば殺してくれるようにー、とか。ないよね。ね?
そんな重い過去の持ち主だったどうしよう。どう接したらいいのか分からないんですけど!?
「どどど、どうしたらっ……」
「ッ……あ……?」
「ふぁッ!?」
少年の前でおろおろ右往左往していると、声が聞こえた。いきなりのことで肩をびくつかせながら、声を出したと思われる少年へと視線を向ける。
じっと眺めていると、ふるりと瞼が小刻みに震え、長い睫が持ち上がった。
「うわ……綺麗な色」
睫の隙間から覗く瞳の色に目を奪われ、その場にしゃがみ込む。もっとよく見て見たくて、少年と目を合わせた。
今まで生きてきて(一度死んで今生き直した直後だけど)初めて見る、目を奪われるような綺麗な赤。
どんなに人を感動させる紅葉よりも、生物の中を巡る血の色よりも、一番。
「少年、君は――ッ!?」
誰なのか。何故ここにいるのか。
頭の中に浮かぶ疑問を口にしようとした時、突然少年の拳が振りかぶられ、私の顔面めがけて突き出された。つまり、殴り掛かってきたってこと。
(うぇ、ちょ、不意打ち勘弁!!)
少年の完全なる不意打ち(瞳に色に目を奪われていた私が隙だからなのがいけなかったんだけど)に驚いたのは驚いたんだけど……神並みの動体視力も持ち合わせている私には対した速さには感じず、難なく少年の拳を片手で受け止める事が出来た。
うん、内心はかなり焦ったんだけどね。
私が受け止めたことにより、もう片方の拳も飛んできたけど、それもまた同じように受け止め、両手を少年の背後にあった樹に縫い留めてやった。
これで動けまい! と思いながら目の前の、結構な至近距離にいる少年を見下ろす。
(……おお?)
至近距離。つまりかなり間近に少年がいるということ。息がかかる程近くに。そしてこの体制……。
うん、なんかこんな時に悪いんだけど、ちょっと間違ったかな。
両手を頭の上らへんで樹に縫い留めちゃダメだよね。絶対にダメだよね。いやだってさ、これ傍から見たら完全にショタっ子襲ってる青年の図、にしか見えないでしょ。
タイミング(?)がよろしい事に少年の衣服はボロボロで。蹴りが来ないようにと膝で少年の両足も押さえつけていて……至近距離の顔を見詰めている私。
(うはぁ、これかなり美味しい恰好だよねぇ……)
私が傍観者であれば、が言葉の最後に付くけれど。
やばい、これ完璧に間違った。
「ッ――離せ!」
「あ、ごめん」
いやぁ、ボロボロの衣服からチラチラ覗く肌が……とても眼福です。しかもその恰好はそそるねぇとか現実逃避で変態的なことを考えていたら、少年に睨まれてしまった。
ここは素直に離してあげよう。そうした方がいい。
もしこの状況で偶々狙ったかのように人に来られても。、凄く困るからねぇ。
両手足の拘束を解いてやると、私と大樹の間から抜け出し、少年は距離を取った。うう、こんなに子どもに警戒されるのは初めてですよ。まぁ、関わったことがそもそも皆無に等しいから必然的にそうなるのだけれど。
さっきの反撃が悪かったかなぁ……あ、もしかして変態的な視線を送ってたとか?
考えてはいたけどそんな視線をしたつもりはない……だが、そうだとすれば折角のイケメンに残念要素が加わって弄られキャラとかうざがられキャラとかになってしまうぅぅぅ!!
それだけは避けなくては……!
あ、中身が私の時点で残念要素あるじゃん、とかいうツッコミはなしの方向で。
「……少年。ここは危険区域だ。何故ここにいる」
内心かなりテンション高めだったけど、一応無表情を保っている私。
そのまま話しかけたら冷たい印象を与えちゃうよなぁ、と思いつつ少年に問いかけてみた。
少年は未だに私を警戒しているみたいだけど、ここがどこだかわかっていないようで、混乱したように周囲を見渡している。さっきの私の予想、当たっちゃったのかな?
「……」
私の問いかけに、少年は答えようとしなかった。
うーん……どうしたら仲良くなれるかなぁ。あわよくば、私の弟にしたいのだけれど。
「そんなに警戒するな。俺はただここを通りすがった時に少年を見つけ、何故ここにいるのか問いかけているだけ――!?」
どうにか警戒心を解いてもらわねば、と思い言葉を口にしている途中……少年の少し右斜め後ろに、何か見てはいけないものを見てしまった。……ような気がする。