少年、君はどなたですか
(た、立てない程の眩暈……初めての体験だね)
冷静にそう思っているけれど私、結構キツイ状態です。眩暈が治まらない。
どうしたものか、と考えていると、狭まった視界の先に何か白いものを捉えた。じっと目を凝らしてみるとそれは四つ折りにされた白い紙で、何かが書かれているのかうっすらと黒い文字が透かして見える。
手を伸ばして取れる範囲にあったので、なんとなく開いて目を通してみることに。
(何々……って読めないんだけど)
開かれたA4サイズの紙には、私の知らない文字が綴られていた。困った。非常に困った。
この世界に落ちていた紙ということは、この文字はこの世界のもの。
森に入るべからず……とか危険を知らせるものだったら読めないと困る。それどころか、これからこの世界で生きていくのに困ってしまう。
だがしかし私には脳内検索があった。のを、今思い出した。さっき使ったばかりだけど、あまりの動揺に忘れてしまっていた。てへ。
調べ上げただけで読めるようになってしまった。
「えー何々。来栖霖様。君の望んだ能力が強力過ぎて、世界を逸脱している程になってしまったので、身体を病弱にしました。病で苦しむことは数多くあれど、死ぬことは決してないので安心してください。PS.説明忘れててすみません。アルトより……っておい!」
うぉい!! 先に説明しておけよ。忘れてんなよ、こんな重要なこと!
私は病弱なイケメンやショタを見るのが好きなだけであって、病弱になりたいわけじゃないんだよぉ!
だって実際なるとキツイじゃん。苦しいじゃん!
と、少しの間アルトに対しての愚痴を零していましたが、冷静に考えてみた。
でも、チート能力の代償が病弱ってまだマシな方だよね。代償が不幸体質とか、私の将来が終わっているようなものじゃなくてよかったと一先ず安心しておこう。
ある意味不幸体質ではあるけれど。何事も前向きな考えがいいよね。
それで納得しておくことにした。眩暈の原因が分かって少しスッキリだ。
どうやら私は今まさに病弱スキルを発動してしまっているらしい。眩暈はもう収まっているけれど、なんだかさっきから悪寒と震えが止まらない。少し身体もだるい気がする。
(あぁ……滅多に風邪なんて引かない体質だったのに)
側にあった木に凭れ掛かり、どうしたものかと考える。
大した距離を歩いていないにも関わらず、息切れをしている。もう、暑いのか寒いのか分からない状態になってきていた。
回復魔法を検索してみたけれど、想像していた通りそれは怪我や体力、解毒など……とにかく病に効くようなものはないらしい。
(誰かここ通りませんかね……)
と、思ってみたけれど。人があまり来ない森に運よく人が通りかかるわけがない。いるの凶悪な魔物くらい……ってあれ。これ、死亡フラグってヤツじゃないですか? まだ回収段階に入ってないけれど、これ確実に死亡フラグですよね!?
やばい。今すぐ破壊しなければ。私はフラグ破壊者になるんだ!!
と、息巻いてみたものの、フラグなんて早々簡単に破壊したり回避出来たりするもんなわけがなく、きっとどこかで回収するんだろうなぁ、と息を整えながら遠い目をしてしまった。
「そう言えば、加速魔法使えばすぐについたんじゃ……」
ふと思い当たった魔法。自身の身体を加速させる、名前まんまの効果を持った身体強化魔法。だが、時すでに遅し。
体調が優れないのに魔法を使用しても、コントロールできる自信なんて皆無。
私の脳死んでる……いや、腐ってんのか。
次会ったら今まで本で知識を蓄えた、ありとあらゆる拷問方法で地獄を見せてやるぜ、アルト。
恨みつらみを心の中で唱えながら、ゆっくりと立ち上がり何とか街に行こうと歩みを進めた。ゆっくり、ゆっくり歩んでいるんだけど……これ、絶対今日中につかなくない?
私の最悪な現状に絶望しかけていると、不意に感じた人の気配。
くそ、気配とか殺気とか感じる力が死ぬ前にあれば……と少し思いながら私は、人の気配に近付いていくことにした。
だってだって、異世界に来たばかりで、独りきりで、しかも体調崩して弱ってる状況なんだよ? かなり心細いじゃん。人肌恋しいじゃん!?
もしその気配が悪人のものだったら、なんて考えている暇はない。きっと今の私なら、殺せはしないけど撃退するくらい軽く出来ると思うし、大丈夫でしょ。
なんとも短絡的な考えだと自分で呆れながらも歩み続け、気配のする場所に着いた。眼前には結構なでかさの樹、所謂大樹が聳え立っており、多分その後ろにいるのだと思った。
私のこの最悪な状況を一変してくれる助っ人だということを信じ、私は大樹の後ろをそっと覗き込む。
そして、目を見開いた。
「……ふぇ?」
思わず変な声が漏れてしまう。
でもでも、大樹の後ろにいた人物が、予想の範囲外だったので、仕方ない事だと思うの。うん、絶対仕方ないことだ。
取りあえず、一言いわせてもらおう。
「……少年、君はどなたですか」