異世界へ
「ッ……あ、いた……?」
光に呑み込まれていた意識がだんだんと浮上していくのがわかった。
転生した後遺症か、頭に僅かな痛みを覚える。頭に手を当てながら上体を起こし、重い瞼をゆっくりと押し上げた。
「……ここ何処」
目の前に広がる木々の群れ。右も左も前も後ろも。全てが木々で覆われている場所の中心に、私は座っていた。若干ここだけ木の無い空間となっている。
空を仰げば生い茂る葉の隙間から、微かに青色が窺うことが出来た。
自分の置かれた状況がだんだんわかってきた為、早速ここがどこなのかをアルトに貰った一つ目の能力を活用させることに。
それは"知識検索"。
あれが知りたいなぁ、なんて思うだけで勝手に脳内検索され、すぐに理解できる優れもの。因みに脳内検索にかかるこの世界の全知識は、アルトに入れてもらった。所謂神の知識検索し放題っていうチート能力のこと。
あ、そうそう。そのことに詳しい本が欲しいって思えば、本が現れる仕組みもついていて、地球で私が愛読していた漫画の続巻も出せるらしい。
本の虫であった私には、たまらない仕組みだよ。
「えーっと何々……"昏い光の森"。ギルドランクAでも滅多に足を踏み入れない程強い魔物の生息する危険区域指定の森」
ってうぉい!!
いきなりハードなとこ来ちゃったよ!? 何故危険区域に指定されてっとこに転移させちゃうかなぁ、アルトォ!
ココで強い魔物とか出てきたらどうするのよ。力はあったとしても私、つい先程まで一般ピーポーだったわけで、いきなりの殺生は無理だからね?
二次元でのグロは万々歳だったけどこれは現実なわけで……。なんかフラグを立ててしまった感が否めないけど、どうか何も出てきませんように。
因みにギルドってのは、説明しなくても分かるだろうけど、色んなとこから依頼を受けてそれを遂行するって感じの組織。世界各国に色んなギルドがある。
ランクは、強い方からZ,S,A,B,C,D,E,Fの八つある。その強い方から三番目のAランクが足を踏み入れない程だから、この森はかなりやばい事になる。
つーかさっきからこのイケボは誰ですか!?
私が思ってることと同じようなことを……え? ん?
(思ってることと同じようなことを言っているってことは……!!)
そのことに気付いた私は、まさかと思いアルトからもらった二つ目の能力、神の力を使用することに。
神の力って言うのは、神とほぼ同等の力で、その力を完璧にコントロールできるような戦闘スキルとセンスは、付属としてついているらしい。因みに魔力は体内にある潜在魔力を使わずに、空気中に漂う自然魔力を使用できるので、枯渇知らず。まぁ簡単に言ってしまえば無限ってこと。
そのおかげで人並み以上になった聴力を駆使し、水音を探り当てる。急いでそこへ向かってみると小ぶりな湖が存在していて、すぐに水面を覗き込んだ。
するとそこには――。
「え、ちょ……誰このイケメンさん」
水面から私を見つめる、アルト並のイケメンさんがいました。
襟足が横髪より若干長くて、肩より少し下まで伸びてるのかな。青みがかった黒髪で、光の角度によって深い青にも見える。目は銀色……とまではいかないかな。多分灰色。ちょっとツリ目な感じがクールな印象を与える。
体つきは華奢とまでは言えないけど、かなり細い。色なんて雪みたいに白くてきめ細かく、綺麗。なんだか鎖骨下までガバッと開いている服から覗く首筋には、黒い刺青。辿っていくとそれは左胸まで彫ってあり、なんだか狼のように見えた。
そしてそしてなんと、三つめの能力人物検索によりますと、
名前:不明
性別:男
年齢:二十歳
身長:百七十八センチ
…………男。性別が、男!!
完璧すぎる様子に完璧な性別、声。私好み過ぎてやばい。何故刺青が彫ってあるかは置いといて、かなり私好みなところを見ると、アルトがそこんとこを配慮してくれたのだろう。神様最高!
ただ少し残念なのは、中身が腐女子だってことくらいかな、うん。本当に残念。
しかし、これで私自身が男を好きになるとBLになっ……うわお、傍観者だけでなく当事者にまでなれるなんて。
私は中身が残念と思うけど、私を巻き込んだBL最高の主義です。ほとんどの人は傍観者希望なんだろうけど。まぁ、あんまり複雑な恋愛は傍観者でありたい。
だがしかし私が誰かを好きになっても、その相手も私を好きになってくれないと恋愛にならないわけで、ホッとしたようながっかりしたような気持ちになった。
「……さて、街に向かうか」
そうそう。説明すんの忘れてたけど、人物検索ってのは、人を見て知りたいって思うだけで脳内にその人の詳細が表示される能力のこと。ま、知れる限度はあるし全てを知ろうとは思わないけれど。
このまま森に居ても魔物に遭遇しそうなので、街に向かうことに。知識検索で分かったことだけど、この森の近くには結構大きな街が存在してるんだって。
検索すればすぐだけど、色んなことの情報収集は、街人に話しかけてみようと思うんだ。人見知りな私の第一歩でござんす。
自分の顔を十分という程堪能したので、スッと立ち上がろうとした。でもいざ立ち上がろうとした瞬間、クラリと視界が揺れ眩暈を覚えた。
立っていることが出来ず、その場に蹲る。