11:下水道
Japan drainage ditch
毘楼勒叉と毘楼博叉は下水道を歩いている、ジメジメして臭くて暗い、最悪な3拍子が揃った。
協力者からの提供で鬼がココに住み着いているとの情報が入った、下水道は思ったよりも広く、戦うには十分なスペースがある。
下水道のせいでいつもよりイライラしている毘楼勒叉、そしてそれを抑えなきゃいけない毘楼博叉もイライラしている。
「「あ〜、ムカつく、何で僕達がこんな事しなくちゃいけないんだよ、あの女ったらしにやらせればいいだろ」」
これだけの長文を一字一句間違えずにピッタリ合わせるシンクロ率、普段も合う事があるのだが性格が違うタメにそこまではない、ここまでのシンクロは皆無に等しい。
「毘楼博叉、帰ったら猛抗議してやろう」
「でも帰れないんだよ、帰るには終らせるしかないんだ」
「「やっぱりムカつく」」
二人の怒りは頂点に達していた、しかしシンクロ率も頂点に達している、今なら声に出さなくても意思疎通が出来るくらいに。
下水道に入って小一時間、やっと鬼が住んでいた痕跡を発見した、しかしそこには誰もいない。
毘楼勒叉と毘楼博叉はイライラしながら鬼が住んでた跡を探索してると後ろから鬼が近寄って来た、鬼は息を潜め気配を消す、二人は全く気づいていない、そして鬼は毘楼博叉に向けて拳を放った。
拳は右京、毘楼勒叉のハンドアックスに阻まれ、鬼の首元には左京、毘楼博叉のハンドアックスが突きつけられている。
「「ねぇ、君鬼だよね?僕達凄くイライラしてるんだ、君がもう少し気持ちの良い所に住んでたらサクッと殺してやろうと思ったけど辞めた、苦しみながら殺してあげるよ」」
毘楼勒叉と毘楼博叉の不気味なシンクロに鬼は身震いした、そこにいるのは神の代行人ではなく、悪魔の心を持った天使、そう簡単に死を提供するほど出来た天使ではない。
毘楼勒叉は両手に右京を持ち、毘楼博叉は両手に左京を持った、横に並ぶ二人は全く同じ、そして全く同じタイミングで地面を蹴る。
毘楼勒叉は右へ、毘楼博叉は左へ、鏡で映したように動き鬼の両サイドを固めた。
「「死へのサーカスだ、僕達のジャグリング、これくらいで死なないでね」」
鬼は毘楼博叉を見た、左京を振り上げる毘楼博叉、毘楼博叉は左京を鬼の頭に向かって投げる、鬼はそれを避けるが足元を右京がかする。
「「鬼って馬鹿だな、わざわざジャグリングだって言ったのに」」
二人は物凄い勢いでジャグリングを始める、得物が鬼の周りを飛び交う、ハンドアックスは体にかするくらいで行き交う、避けようとすれば逆に刺さる、しかし避けなければ徐々に体は斬り刻まれる。
「「アハハハ!どうしたの?死なないの?死んだ方が楽でしょ?」」
二人の笑顔は全く同じ、首の角度や口角の上げかた、えくぼの出来方までが全く同じ、笑って無い本心までも。
鬼は既に片膝をついている、しかし二人の手は止まらない。
鬼は神を恐れた、神が恐怖で屈伏させた瞬間だ。
「「そこにいるのは誰?」」
二人は同時に入口付近に右京と左京を投げる、地面に右京と左京が刺さると入口の陰から別の鬼が出てきた。
「「一人じゃなかったんだ、丁度飽きたところだしいいや、君は死んで良いよ」」
二人の右京と左京は先ほどまで遊んでいた鬼の頭に刺さる、鬼は頭にハンドアックスを刺し、痙攣しながら倒れた、それが示すは死。
二人は入口にいる鬼を不気味な笑みで睨む、鬼は無言で地面を蹴るとあっという間に二人の前まで来た、二人は軽々と避けるが地面に突き刺さった鬼の腕を見て苦笑いを浮かべた、地面はコンクリートでに殴ってもヒビすら入らない。
「なあ毘楼博叉!これ可笑しいよな!?絶対に拳がいかれるよな!?」
「鬼っていうから人間より身体能力が高くても不思議じゃないでしょ」
「…………………そっか」
二人の座談会は毘楼博叉の冷静な見解で終った、そして終わると二人は同時に得物を投げる、得物が鬼に当たると金属音と共に弾かれた、二人の頭にクエスチョンマークが浮かんでいる。
「毘楼博叉!これはどう説明する!?」
「多分各々に進化するんだよ、この鬼は体が硬くなったんじゃない?」
「…………………そっか、…………って今度は納得出来ない!コイツだって一応生物だろ、生物が‘キンッ’って音鳴らすか?」
「もううるさいな!僕に聞くなよ!僕は鬼研究家じゃないんだよ!僕も毘楼勒叉と同じ知識なの!」
今回の座談会は毘楼博叉がキレて終った、さすがの毘楼勒叉もあまりの事に黙ってる。
そして二人は双子特有のテレパシーで座談会を開いた、そして出た結果が…………。
「「どうにかなる!」」
と言って二人は思いっきり突っ込んだ、二人は同時に薙払うが鬼の体に弾かれる、二人は尻餅をつき後ろに倒れ込んでしまう。
上を見上げると鬼が拳を振り上げている、二人はお互いの足の裏を蹴り間合いを取り構えた。
鬼は毘楼博叉に拳を向ける、それを見て毘楼勒叉が飛込んだ、毘楼博叉が避けて前のめりになった鬼の後頭部を毘楼勒叉が思いっきり振り抜いた、鬼は頭からコンクリートに突っ込むと毘楼博叉が首を斬り落とそうとする、首にめり込むだけで斬れはしない。
「あぁあ〜、手が痺れるぅ」
「そっか!毘楼博叉、相手もあんなにカチカチなら右京と同じなんじゃないのか?」
「そっか!」
二人は何かを気付いたようだ、頭をコンクリートから引き抜きフラフラになりながら立ち上がる鬼を天使の笑顔で見た、鬼の首元は大きく凹んでいる、普通の敵なら首は綺麗に斬り離れているはずだ、この傷の浅さが鬼の装甲の強さを示している。
「鉄板野郎!僕達を敵に回したのを後悔させてやる」
「叩いて殴ってジャンケンポンだよ」
二人は地面を強く蹴った、鬼は毘楼勒叉を殴ろうとする、毘楼勒叉も右京の刃を背にして鬼の拳をを打った、毘楼勒叉は右京を手放しながら吹っ飛ぶ、しかし鬼の動きも一瞬止まる。
「毘楼博叉!今だ!」
「了解だよ!」
毘楼博叉は毘楼勒叉と同じように鬼の頭を打った、鬼はフラフラになりながら体制を崩すとそれを見計らって、毘楼勒叉が後頭部を打った。
毘楼勒叉はそのまま後頭部をたこ殴りにする、ガンッ!ガンッ!と大きな音を立てて叩き続ける、そして大きく振り上げて刃を戻す、両手で握り先程付けた傷の所に振り下ろした。
「ギャャャャァァァァ!」
金属を振動させたような叫び声が下水道全体に響き渡る、そして毘楼博叉が突き刺さった右京の背を左京の背で思いっきり殴る、右京はそのまま地面に突き刺さった、鬼の首はペンチで切ったように薄くなっている。
「うわぁ、何かグロ」
「いや、その前に腕が痺れるよ」
二人の腕は感覚がかなり薄くなっている、金属のように硬いということは骨格が金属に近いということ、頭蓋骨等はショックを吸収するタメにあるので、全ての衝撃を通す金属は最悪の頭蓋骨、故に叩いた事でのダメージはないが脳にダメージは与えられる。
「脳みそ揺れただろうな」
「考えるだけで酔いそう」
「毘楼博叉、帰るぞ、僕はもうそろそろ気持悪くなってきた」
「そうだね」
二人は鬼の死体二つを尻目に下水道を出ることにした、まだ痺れる手の震えを抑えながら。