第6話:俺と魔王と仮神と
魔界に行く事が不幸な人生を変える方法。
その回答で見事に固まった徹司だったが、ようやく思考停止が終わると、壊れたロボットの様に首を動かしてふんぞり返るサタンに問いかけた。
「・・・俺が?」
「そう」
「・・・魔界に?」
「そう」
「・・・行くの?」
「そう」
「・・・なんで?」
「そう・・・じゃなかった、ああもう、めんどくさいな!いいか?お前の不幸の運命、それはあくまで人間界での運命だ。魔界に行かなければ分からんが、魔界での運命はこちらの運命とは大体違う。つまり、お前が魔界で生活するならかなりの高確率で不幸のない一般的な人生を送れるという事だ」
「それは本当か!?」
徹司は思わぬ話に勢いよく食いついた。
なんせ別世界へと行けば、不幸な運命が無くなると言うのだ。
だが、冷静に考えれば目の前の小さい魔王を名乗る少女の話でしかない上に、にわかには信じがたい。
確かめる術などないのだ、実際に行ってみる以外には。
「あら、魔界に行きたくなったんじゃないのか?ん?」
ここぞとばかりにサタンは楽しそうに徹司を問い詰める。
サタンは徹司のどうしたらいいか分からずに悶える様な顔を期待していたが、徹司は真剣な表情で考え込んでいた。
その様子にサタンはつまらなそうに顔をしかめる。
「な、なぁ、その魔界はどうやって行くんだ?こっちに帰ってこれるのか?」
「魔界に戻るのは私の力を使えば簡単だ。ただ、戻ってくるのはそう簡単な事じゃない」
「難しいのか」
「うむ、まず移動する手段は2つある。こっち側の人間に呼ばれてくる方法と、自分から行く方法だ。前者は色々な契約もあるし、向こうの住人でもないお前には不可能だ。となると、後者しかないがこれもかなりきつい。例えるなら・・・ドラゴンから卵を奪い取ってくるくらい難しい」
「ドラゴンから卵なんて言われて分かるか!しかも死ぬレベルじゃないのか、それ!?って本当にいるのかよ、ドラゴン」
高速の3連続突っ込みにもサタンは動じず、理解した徹司に追い打ちをかける様に続けた。
「ほう、こっちの住人にしては理解が早いな。まぁ、ハッキリ言って死ぬかもしれん。その位、こっちに戻るのは難しいという事だ。どうする?魔界に行きたいか?」
「う、う~ん・・・」
改めて言われたが徹司は迷っていた。
こっちに戻れるなら観光気分で向こうに行ってみたかったが、それは難しいとサタンは言う。
とはいえ、こっちの世界で徹司には未練があまりない。
徹司の脳内ではサタンを信じて魔界に行ってみようという考えとこのまま残るという考えが拮抗していた。
「すぐには決められないぞ、そんなの」
「一晩の時間はくれてやる、正ちゃんの運もそれぐらいは持つだろう。それでお前が行かないと決めたならこの話はなしだ、いいな?」
そう言うとサタンは振り返り、部屋から普通に出ていった。
残された徹司はとりあえず、シャワーを浴びて濡れた体を温めてはみたが、その間もずっと考えはまとまらない。
備え付けのバスルームから湯上りのガウンを着こんで出るとそのままベッドの上に倒れこむが、やはり頭の中は常識からは信じられないような話で一杯だった。
何せ、サタンの力は本物なのだ。
最新技術を用いても使う事などできない様な魔法や能力には言葉のない絶大な説得力があった。
魔界があると言われても信じられない側よりは信じられる側に徹司は立っていた。
とは言っても、向こうの文化レベルはサタンを見ていてもかなり低いようではある。
剣と魔法の世界。
そんな世界である可能性も非常に高い。
「・・・どうしろってんだよ」
今まで暮らしてきた日常の不運な世界と全く知らないおそらく常識の通じない世界。
どちらにも魅力はあるし、マイナスな面もある。
アッサリと決める事など徹司には出来なかった。
「人生を決める決断を朝までに、か。悩まない訳がないだろ」
重いため息を吐き出して目を閉じる徹司。
「あら、そんなに悩むなら行かなくていいですわよ?」
「そうは言っても不幸が無くなるのは魅力的だ」
「そうなんですか?それは困りましたね」
「困る・・・え?」
またいつの間にかサタンが現れたのだと徹司は思っていた。
だが、その困るというのに疑問を覚え、よく聞いてみれば知っている声、口調ではなかった。
慌てて起き上がって声の方を振り向くと、部屋の隅に白いゴスロリ服を着た少女が立っていた。
その瞳は金色に輝き、垂れさがった金髪は腰にまで伸びて綺麗に切り揃えられている。
徹司と目があった少女は可愛らしく微笑んで見せるが、徹司はというと軽いデジャビュを見た気がした。
なぜなら、サタンとは対極の色使いだが、その姿はサタンとほぼ同じ姿だったからだ。
この時点で徹司は嫌な予感しかしていなかった。
とにかく、この得体の知れない相手を確かめようと、軽い頭痛を覚えながら徹司は噤んだ口を開いた。
「・・・あの、どちらさま?」
「あら、魔王から私の事は聞いてないんですか?」
「いや全く・・・もしかして、天使とか?」
言ってしまってから馬鹿な事を言ったと徹司は後悔した。
魔王の知り合いであり、あっちが黒なら白いこっちは魔王とは対極の者ではないかと思っての発言だった。
だが、少女は頭をかしげながら徹司を見返していた。
どうやら違っていたらしい。
徹司の発言でその部屋の空気は発言しづらい雰囲気が広がっていたが、口ごもる徹司に対して彼女はおっとりとした口調で徹司へと返した。
「いえいえ、違いますよ」
「・・・あ、ああ、そうだよね。ははっ、ごめんね、天使とか言って」
「神です」
その瞬間、徹司の笑い顔は引きつった顔へと変わり、そのまま凍りついた。
「・・・・・・・・・・・・え?」
「だから、神ですよ」
「・・・・・・えっと、ちょっと待ってて下さい」
自称神様にその場にいるよう手で指示すると、徹司は部屋に備え付けられたトイレの中へと駆け込み、そして思った。
どうしよう、また変なのがきたあああああああああぁぁぁ!!
頭を抱えて壁にもたれかかった徹司は落ちつこうと深呼吸を始めたが、まるで遮るようにドアがノックされる。
「神を変だなんて失礼ですよ」
心を読むのは標準スキルなのか、こいつら。
さすがにサタンの時以上に驚きは少ないが、その代わりに自称神様もおそらく本物らしい事が決定的だった。
結局、トイレに籠った所で無駄だと分かった徹司はトイレから出る。
すると、目の前に無邪気に笑顔を浮かべる神様がいたため、不意打ち気味に顔を合わせた徹司は頬をほんのり赤くしながら顔を逸らす。
「そ、それで、神様が何の用だ?もしかして、俺を助けてくれるとか?」
「残念ですがそれはないです」
笑顔のままキッパリ否定した神様に徹司は言葉もない。
ただ、肩を落として落胆するのみだ。
自称神様はその様子に慌ててフォローするように続きを話した。
「で、ですが、貴方は世界にとって必要な存在。魔界に言ってもらっては困るんです」
「それで止めに来たと?神様自ら?」
「ええ、本来なら天使にでも言って止めさせるんですが、今はまだ仮の神である私にその権限がなく・・・」
そう言うと言葉をきる様に神様は重いため息をつく。
その表情はそれなりの苦労をしているのか、とても苦々しい苦労人の顔だった。
仮の神ってどういう事だ?
苦労人の自称神様が自分は仮だと言い切った事に徹司は疑問を覚える。
少なくとも神様に車の仮免許の様な制度があるなんて聞いた事などないからだ。
「実はまだ神になる途中なんです」
また心を読んで回答が返ってきたが、徹司はそんなことより内容が気になった。
「途中?世代交代でもしてるのか?」
「ちょっと違います。先代の神、つまり現神が退役を宣言した時点で次の神候補達が色々な儀式を執り行い、その結果が一番優秀な者が神になるんです」
「神様の世界も試験制かよ・・・。で、君が一番になったと?」
「ええ、まぁ。ただ、実際に神になるにはまだ時間がかかるんです。神が執り行うべき事を学ぶ期間、その間は仮の神として色々な事を代理で行うんです」
「研修期間もある訳か。神の世界ってのも大変そうだな」
「分かってくれます?全くそうなんです」
疲れた様にもう一度ため息をついた仮神は今にも愚痴りそうだったが、不意に何をしに来たのか思い出し徹司に向き直る。
「って、私の事はどうでもいいんです!とにかく、貴方が魔界に行きさえしなければいいんです!」
「あ、そう言えば、サタンの方はどうなんだ?アイツ、魔王って言ってたけど本当か?」
「え?あ、ああ、魔王も同じように交代しているはずですが、向こうは王族が世襲制でやっていると聞いた事がありますね。じゃなくて、そんなことより!」
「あ~、やっぱりそうか。あんな糞生意気な奴が魔王になれるのはおかしいと思った。大方、世間知らずのお嬢様って奴じゃないのか?」
「えっと、定期交流会で何度か会った事はありますけど、彼女は昔から我儘です。その上、いじめっ子だから何度泣かされた事か・・・」
昔を思い出し、またため息をつく苦労人。
簡単だな、この神様。
流されやすい仮の神様に徹司は呆れるが、その一方で自分が重要な存在であると言われた事が疑問だった。
なぜ、こんな不幸塗れな自分が重要なのかと。
そんな考えている間に過去にトリップしていた仮神は今に戻ってきたらしく、少し怒ったような表情で徹司に食ってかかる。
「そんなことより約束してください!私は魔界に行かないと!はい!」
手を差し出し、繰り返すよう要求してきた仮神。
それに対して徹司は頬を掻きながら、一言返す。
「なぁ、なんで俺が世界にとって必要な存在なんだ?」
「え?えっと、それは、その・・・」
途端に勢いを無くし、口ごもる仮神。
どうやら言えないような秘密があるらしく、彼女は徹司からも視線を外す。
「内容によっては行かないでもない」
一瞬、彼女の表情が晴れたように明るくなったが、あくまで一瞬だった。
それだけ話してはいけない事であるともとれる。
神様が秘密にするなんて一体何なんだ?
「私が教えてやろうか?」
突然、部屋の中に声が響く。
と同時に、クローゼットの扉が豪快に開き、服のかかっていないクローゼットの中にサタンは立っていた。
なぜか不機嫌らしく顔が引きつっている。
「ヒッ!」
徹司としては慣れた登場だったが、仮神はいきなり現れたいじめっ子に驚きながら顔が青ざめていく。
サタンは何処となく声をかけ辛い様子だが、徹司は呆れたようにため息をつきながら言った。
「お前、何時からいたんだ?」
「・・・そうだな、そいつがここに来てからだ」
「ほぼ、最初からじゃねぇか!いるんならさっさと出てこいや!」
「いやいや、頃合いを見計らっていたら色々と面白い話をしてくれるのでな。確か、『糞生意気な世間知らずのお嬢様』だとか、『我儘ないじめっ子』だとかな」
そこまで聞くと徹司の顔からも血の気が失せていく。
サタンの不機嫌さの理由が自分達の発言によるものだと理解したからだ。
「あ、いや、あのな」
弁明しようとした徹司をサタンは睨みつける。
まるで黙れと言っているかのような威圧感を全身から放っている。
仮神など既にベッドの下へと潜り込んで震えていた。
「言っておくが下手な弁明は命にかかわると思え。私に嘘が通じないのは知っているな?」
「・・・」
「さて、それを踏まえて何か言う事は?」
「・・・ないです」
「ほう、それじゃ後で罰を与えてやるから楽しみにしていろ」
楽しげに言うサタンに徹司は言葉もない。
コイツの言う罰って・・・。
想像するだけろくでもない事しか思い浮かばず、自然と徹司は身震いする。
何しろ、徹司を殺そうとして巨大な雷の魔法を使ったりする奴であり、それでいて自分が楽しければ良いという様な奴だ。
「それはそれとして、来るとは思っていたがお前がくるとは、な!」
ベッドの下に潜り込んでいた仮神をサタンは指先を強く振るだけで引っ張りだす。
仁王立ちするサタンの前に今にも泣き出しそうな潤んだ瞳の仮神は動かされ、そこでサタンと目があった途端、怯えた表情で目尻に涙が浮かぶ。
これが神様と魔王、か。
人間代表としてここにいる徹司からすれば絶句する光景だ。
何しろ、神様(予定)が魔王にいじめられているのだから。
神の信者からすればこの世の終わりが来たと誤解されててもおかしくない。
とは言っても、見た目はそんな事など考えられるはずもない程にほのぼのとしていた。
「わ、私に、何をする気ですかぁ~!?」
「別に。お前が神になるなら魔界と天界で協定がある以上、互いに手出しすることはできんからな」
そう言って興味がない様に仮神に背を向けるサタン。
仮神は安堵の表情を浮かべて強張った肩を撫で下ろすが、一番後ろに立っていた徹司は見ていた。
サタンが口の端を釣りあげてどす黒い笑いを浮かべるのを。
・・・こいつ、手出す気満々じゃねぇか!?
可愛らしい悪人顔を浮かべるサタンに徹司は恐怖しか感じはしない。
「さて、それはそれとして、貴様が魔界に連れて行かれると困る話だったか?」
「そうだった。どういう事なんだ?」
「それはだな「わ~!言っちゃ駄目です!」うるさい」
サタンが手をかざすと仮神の口にまるでマスクの様に薄く光る膜がかかる。
その膜により、仮神の発言は強制的に止められているのか、仮神が何かを叫んでいてもまるで聞こえはしない。
すぐにマスクを外そうとした仮神だったが、手でつまむとまるでゴムのように伸びて剥がせない。
「お前の存在は「もが~~っ!!!」ええい、邪魔だ!」
苛立ったサタンが指を振ると、仮神はバスルームの中へと飛んでいき、中へ入ると同時にその扉は閉められた。
閉じ込められた仮神は外に出ようとするが、ドアは強固に閉じられており、ドアノブは回らない。
ここから出すように何度もドアを叩くが、サタンはそんな事など知らない様に徹司しか見ていない。
無視するつもりのようだが、徹司はそんな状況に呆れていた。
「あ~・・・あのさ、協定とやらで手出しできないんじゃなかったか?」
「何を言う。今のはただの挨拶みたいなもんだ、そうコミュニケーションとやらだ」
どこかでコミュニケーションという言葉を覚えたらしい。
うまく言ったつもりでサタンは得意気だったが、徹司はさらに呆れていた。
「口を塞いだり、閉じ込めるのがコミュニケーションって。・・・絶対嘘だろ?」
「さぁてな。それよりお前の存在は」
誤魔化すように話を本線に戻そうとしたサタンだが、その目論見は突然のドアの爆発によって遮られた。
何が起こったのかと、2人は視線をバスルームへと向けるとそこからゆっくりと仮神が現れた。
だが、その目は虚ろで、どうやってか口を塞いでいたマスクも取れている。
そして、気が抜けている様な顔でサタンを見ると、顔を俯けると消えそうな声で呟く。
「も・・・、も・・・」
「も?」
「もう怒りました!積年の恨み、今晴らさせてもらいます!」
仮神が叫んだ途端、仮神の体をボンヤリと光る膜の様なものが包み込み、辺りに突風が吹き荒れる。
怒りが溜まりに溜まっていたのか、厳しい顔つきでサタンを睨みつけた。
「うわっ!」
徹司は吹き飛ばされそうなほど強い風に慌ててベッドへとしがみ付く。
サタンはというと、風の影響などない様に面白そうな表情を浮かべながら仮神と対峙していた。
「ほう、怒ったか。全く、神様になろうなんて奴がそんな程度で怒ってたら役は務まらんぞ?」
「うるさい!貴方が私にやったことからすればこれは正当な行為です。ええ、間違いなく。だから、素直に殴られなさい!」
「神様が殴るって・・・。それにそういう事言うと・・・」
今にも吹き飛ばされそうな徹司だが、呆れながらサタンを見る。
すると、やはりサタンは楽しげな顔で自身にも仮神と同じようなうす黒い膜を身に纏う。
どうやらヤル気らしい。
あーあー、やっちゃった・・・。
徹司はほぼ確実にめんどくさい事になりそうなのを実感していた。
「面白い!さぁ、かかってこい!返り討ちにしてやる!」
「やっぱりか」
まだ1日程度の付き合いだが、予想通りの結果に徹司はため息をついて頭を項垂れる。
その間に2人の姿が消えると吹き荒れていた風もなくなり、徹司はベッドから離れた。
「・・・どこに行ったんだ、あいつ等?」
ただの人間である徹司には分からない事かもしれないが、答えはあっさりと分かった。
外から落雷の様な激しい音が聞こえてきたたためだ。
今は雨が降ってもいないし、ましてや曇ってもいない。
慌てて徹司は窓を開けて外を見ると、屋敷とほぼ同等の広大な広さを誇る中庭で2人は戦っていた。
仮神は手から光る球体を作り出して投げつけ、逆にサタンは黒い球体を作り出して投げつける。
互いの球体がちょうど2人の中間で合わさると爆発を起こして相殺される。
爆発の規模はそこまででかくはないが、周りの花壇や植物が焦げている所から見て、人1人なら殺す事も出来てしまいそうな威力だ。
「あいつ等、殺す気か!?」
すぐに止めるべきだと徹司は何度も止める様に叫んでみたが、2人は聞く耳を持たないのか止まらない。
お互いに球体を出しながら相手に投げつけ続ける。
「くそ!」
徹司はかけ出し、2人の戦う場所へと急いだ。
1階にまでどうにか降りると中庭への道を探していたが、ふとその視界に倒れているメイドの姿が映った。
慌てて駆け寄った徹司は声をかけて何度か揺さぶってみたが、眼を開きはしない。
と言っても、死んでいる訳ではなく寝息の様に呼吸は正常だった。
疑問に思う徹司だが、その先、更にその先にも倒れているメイドの姿を見て何となく納得した。
どっちがやったかは分からないが、強制的に魔法で眠らせているのだろう。
2人の異常な姿をみられる心配がなくなったのに徹司は安心するものの、肝心な戦闘はまだ続いているため、また聞こえた爆音の様な音に徹司は音の方へと駆けだした。
中庭への重厚な扉を見つけた徹司は勢いよくその扉を開いたが、目に飛び込んできた景色に思わず固まった。
「な・・・んだ、こりゃ」
自室から見ていた時は綺麗な中庭が今や、戦争の被害を受けたように木や花は焼け、至る所に配置されていた美術品は砕け、更に地面には幾つも穴が開いている。
そこまでやってもまだ終わっていないらしく、徹司は2人が球体を投げ合う姿を見つけた。
「おい!止めろ!」
叫びながら2人の間に割って入る徹司。
言っても聞こえなかったが、さすがに目で見れば両者の動きは止まった。
「馬鹿者!避けろ!」
咄嗟にサタンは放とうとしていた球体を消す。
だが、サタンより先に放っていた仮神のいくつもの球体が徹司へと向かって飛ぶ。
その瞬間、徹司の前にサタンが現れ、徹司を守る様に身を呈して止めようと立った。
「くそ!」
それに気付いた徹司はサタンの体を抱きしめ、驚いているサタンを余所に体を反転させて、球体へと背中を向ける。
衝撃に備えるようサタンを抱きしめる腕に力が入る。
球体が徹司へと襲いかかる直前、ちょうど爆発でぐらついていた神殿の様な巨大な柱が倒れた。
まるで徹司を守るかのように倒れた柱は徹司と球体の間に割って入り、球体の爆発を全て受け切る。
全ての球体が無くなった時に柱は完全に砕けていたが、徹司の体には柱の粉塵が振りかかるだけで被害はない。
どうやら助かったらしい事に徹司はため息をついて、いつの間にか使っていた『奇跡』を切った。
「やれやれ」
「お、おい、何がやれやれだ!1歩間違えばお前が死んでいたんだぞ!?」
抱きしめられたまま、顔を赤くしながらも怒るサタン。
だが、徹司はサタンを放しながら困った様に頬を掻いた。
「んな事言われても、お前が受け止めようとしたから体が勝手に動いたんだ。助かったんだし、いいだろ?」
「よ、良くない!お前は死ぬが、私なら障壁があるから怪我で済んだんだ!それをお前は『奇跡』まで使って」
「気にすんなよ」
疲れているようだが笑って言った徹司の横顔にサタンの心臓は大きく脈打った。
横顔から視線を外す事が出来ず、既に赤かった頬を更に赤く染めていく。
死んでくれた方が都合のいいサタンだが、今はそんなことよりも徹司に助けられた事で頭の中は一杯だった。
私を助けた・・・?ふ、ふん、見事な忠誠心じゃない!そ、そうよ、うん・・・。
そんなサタンを知らずに徹司は立ちあがり、元がどうだったかも分からないほど滅茶苦茶な庭と絶望に打ちひしがれる仮神にどうしようと頭を痛める。
「ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
ブツブツと謝罪の言葉を呟く仮神は目に涙が滲み、体はガタガタと震えている。
「おい、大丈夫か?」
怪我がないか尋ねた徹司だが、その姿を見た途端、仮神はその場に土下座した。
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
必死な姿で人間に対して土下座する仮神だが、その体は何かの恐怖に怯えているように震えていた。
謝るだけでしかない仮神に徹司は困惑するしかない。
「お、おい、大丈夫なのか?」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
「どうなってんだこりゃ?」
「おそらく、彼女の親である前神の躾のせいだろう。前神の娘であるため、厳しい英才教育を受けてつらい毎日だと昔ぼやいていたからな」
後ろでそう言うサタンへと徹司が顔を向けると、サタンは頬を赤くしながら顔を背けた。
どこの世界でも似たような感じなのかと徹司は呆れる。
いまだに誰にでもなく謝り続ける仮神の両肩を掴んで起こすと、涙の滲む眼と眼を合わせて言った。
「しっかりしろ!誰も傷ついてないし、物が壊れただけだ!そんな事で謝ってたら神様は務まらないだろ!」
「で、でも、私、協定を破って」
「黙ってればいい」
「そんな事・・・」
「黙っとけば誰にも分からないだろ?サタンも黙ってるというし」
そう言うと2人の視線がサタンに集まり、サタンは渋々頷いた。
「ほら見ろ。いいか、何も無かった。何も無かったんだ、それでいいだろ?」
「うう、ありがとうございます、徹司さん」
恐怖から流す涙ではなく、笑顔で安堵の涙を流す仮神に徹司は落ち着いたと一息ついた。
だが、中庭の惨状だけは言葉でどうにかなるものではなく、寝ている屋敷の主人たちに起きた時の言い訳を自然と考えている徹司だった。
徹司の残りカウント:463秒
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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