第6話
朝、サラディアの人々が動き出す頃、工房の雑用の者たちはせっせと薪を工房に運んでいく。その中にボルスもいた。たくさんの薪を抱えて走る足取りはしっかりとしていた。
「ん?」
ボルスは足を止める。その前でデンサスが細い路地に入っていった。その横顔はいつになく真剣であった。そろりと歩いていき、デンサスが入っていった路地をのぞく。
「・・・となる。頼んだぞ」
デンサスの声がかすかに聞こえる。話している相手は、建物に隠れてしまって姿が見えない。
「わかった」
相手は短く答える。二人の雰囲気は深刻な話でもしているかのように重かった。
(デンサス・・・?)
何よりも気になったのは、デンサスの表情だった。いつものような朗らかで、明るいものとは全く違い、厳しく威厳さえ伴っていた。
ふと、デンサスがこちらを見た。ボルスは反射的に顔を引っ込める。
「バレバレだぞ、ボルス」
苦笑いをしながらボルスは顔を出した。そこにはいつものように笑うデンサスがいた。話していた相手も建物の影から顔を出していたが、暗くて良く見えなかった。
「また今度な」
相手に別れを言って、路地から出る。
「人の話を盗み聞きするなんて、やるねぇ」
半分持つよ、と言ってボルスの持っている薪を数本取る。
「悪かった。好奇心に勝てなかった」
二人は共に工房へと走る。
「誰と話していたんだ?」
ボルスが何気なく聞くと、デンサスは少し考えるような顔をした。
「なんていうのかな・・・。・・仲間、かな?よく助けてくれるんだ」
そう言って笑う。その笑顔は自然で、暖かい笑顔だった。
―本当に信頼しているんだな。
そう、ふと思った。デンサスの横顔を見る。
いままで、そのように自然に仲間と呼べる人がいただろうか。サラディアからどこでも見えるサラ城は、自分が生まれた場所である。自分はあの場所で王子として育てられた。城にいる人々の目には、ボルスは王子にしか映っていなかった。同じ年の貴族の子供とはよそよそしい関係であり、その間には身分という隔たりがあった。笑い合ったりして、気兼ねなく話せるような人は、サラ城にはいなかった。
「仲間・・か」
「何たそがれてんだよ。お前も俺の仲間だろ?」
デンサスが当たり前に言う言葉に、ボルスは笑う。
「そうだな!」
二人は工房に着く。
「おはよう!」
準備をしていた職人達が二人に声をかける。
「おはようございます!」
ここには、そんな人達がたくさんいる。そして、本当に信頼できる「仲間」が、今自分の隣にいる。城にいた頃は何もしなくて済むような不自由ない生活だったが、ボルスは今までで過ごした中で、この辛いことのいっぱいある今が一番楽しいと素直に思えた。
「あれがボルス・・・ねぇ」
そんな様子を遠くで見ている者がいた。ウエーブがかった真っ赤な髪が風で揺れた。
「これは、おもしろそうだねぇ」
中心世界イベルアの補佐官、ラドンは口の中で転がしていたキャンディを噛み砕いた。そして、面白そうに目を細めた。