第2話
サラ王国。それは世界の三分の二を占める超大国である。サラ王国が建国される際に多くの国がその国と連携し、今ではサラ王国の州となっている。そして、現国王ダウリュエスが治める今、まさにサラ王国は最盛期を迎えていた。
山に囲まれた土地にあるサラ王国の首都サラディアは活気に満ち溢れて、それを見守るようにサラ王国の象徴であるサラ城が建っていた。
「・・・え?」
そのサラ城の中で、第三王子ボルスは父親の国王ダウリュエスの言葉に素っ頓狂な声を出した。
国王ダウリュエスは表情を変えずにもう一度繰り返す。
「城を出ていくのだ」
ボルスは繰り返された言葉の意味が未だによく分からなかった。
「サラディアの鍛冶工房でしばらく働いてこい。何か用があったらこちらから呼ぶ。それまでは城に入ることを禁じる」
ダウリュエスは威厳のある瞳でボルスを見据える。ボルスは透き通る空色の瞳を微かに左右に動かす。
「それは・・私をここから追放するということですか・・・?」
「・・・そういうことになる。鍛冶工房の長には了解をとっている。そこで働いていれば安全だろう」
「え・・いや・・でも」
もはや言葉が出なかった。自分の生まれた所であるこの城から追い出されるという事実に、冷や汗が止まらなかった。
「明日、鍛冶工房で新入りが集団で入る。お前もその時に行ってもらおう。用件はそれだけだ」
退室しろ――そう言った後はそれ以上何も言わず、ダウリュエスは仕事を始めた。ボルスは未だに動揺したまま、とりあえず部屋から出る。
バタン――と静かに扉を閉める。ドアノブを掴んでいた手を離すと、その手にはうっすらと汗が出ていた。
(そんな・・。いきなり・・。しかも明日から・・?!)
どうしよう・・・。今更ながら言われた事の重大さを理解し始め、混乱した。
(と、とりあえず部屋に戻ろう)
ふらふらと、少し方針した状態で歩き始めた。
ボルスは、サラ国王家クワイエット家の第三王子として生まれた。生まれた直後に母親である王妃は他界してしまったが、ボルスが生まれてから一六年間、世界の各地で作物は豊富に採れ、魚介類は大漁でなかった年は無いため、人々から好印象を持たれていた。だが…――
部屋までの道を歩いていると、前方から数人の騎士と話し合いながらリオン第一王子が歩いてきた。
ボルスは即座に道を開けて、頭を下げた。リオンはそこで足を止める。
「明日、私がお前を送っていく」
「あ、有難うございます…」
会話の中に、ぎこちない雰囲気が流れる。
「すぐに準備をしておけ。…工房では失礼のないようにするのだぞ」
表情を変えずに淡々と述べて、そのまま歩いていった。騎士たちはボルスに敬礼せず、軽く一礼してそのまま後についていった。
「……」
騎士たちの態度が、王子に対する態度ではないことは、ボルスもわかっている。だが、それに対して反論できないのが事実だ。
サラ王国には王子が三人居る。第一王子のリオン、第二王子のエリュー、そして第三王子のボルスだ。リオンは軍部において才能を発揮しており、サラ王国のすべての軍を統括している。エリューは豊かな知識を使って各州の外交を行なっており、今はサラディアと海を隔てた商業都市スティヴを治めている。そのような二人の兄たちの中で、ボルスにはこれといってできることが無い。むしろ、できないほうが多いのである。
そんなボルスは、国の中でも“出来損ない”と揶揄されて居るのである。
「…はぁ…」
そのことが分かっているのだが、自分にできることが見つからない。ボルスはため息をついて歩き始めた。
(多分、こんなんだから城を出て工房に働きに行かせられるのだろうな)
長い廊下を歩いて行く。外では鳥たちがのんきに美しい声でさえずっている。
(準備かぁ・・・)
何を持っていくか、頭の中で巡らしながら自分の部屋に入る。広い部屋の中に入り、扉を閉めた。その時、ボルスは重大なことに気づいた。
「何を持っていけばいいんだろう……」