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喰斬護境トウテツブレイド~暴食神・饕餮と契約した俺は妖怪を喰らう刀を振るう~  作者: 藤臣倫悟


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十二話 孤独と自由

「貴様は何故そんなにも他人を護ろうとする?」


 支部からの帰宅途中、再び影に潜った饕餮が悠一に尋ねる。

 悠一は支部の二人に孤影のことを話していなかった。

 昔幽魔被害に遭ったことがある、とぼかして伝えていた。饕餮も支部で勧誘された際はまだ起きていたので聞いてはいただろう。


「前にも言っただろ――」

「幽魔に襲われたことがあるのは知っている。余が聞きたいのは何故そこからあの願いに行き着いたかだ」


 悠一は饕餮がそんなことを聞くとは思わなかった。

 互いに利用し合うために契約を結んだとはいえ、鬼との初戦闘から現在に至るまで片時も離れずに過ごしている。

 時間にすればたった数日。

 だが、他の誰よりも長く一緒にいる気がした。


「俺は昔、この目のせいで孤独だった。幽魔が見えるって言っても周りから信じてもらえなくて、嘘つき扱いされてた。そんな俺を信じてくれたやつが、幽魔に殺された」

「目だけじゃ何もできない。俺は俺を認めてくれる人を、受け入れてくれる人を護れる力が欲しくてお前と契約を結んだんだ」


 饕餮は考え込んでいるようで、しばらく黙っていた。

 弱者の願いと評した契約者の望みの背景を垣間見て何を思ったのか、影に潜んでいて推し量ることは出来ない。


「……自身の存在理由を他人に求めるなぞ、弱者の考えだ。強者に孤独は存在しない、あるとすればそれは自由だ。存在理由を他者に求めなくても一人で生きていける」

「確かに、俺は弱い」

「けどそれは淋しい考え方じゃないか? 強かろうが弱かろうが、誰かと一緒に居たっていいと思うけどな」

「……強者でもないのに理解したような口を利くな」


「悪かった」と謝罪する悠一だったが、自分のことを聞かれたこともあり、必然、饕餮のことが気になっていた。

 今までは完全復活が目標だと語っていた饕餮だったが、その先に一体何を望むのか。

 少し歩くスピードを落として、饕餮に語りかけようとする。

 家に着いて人型になってしまったら答えてくれないような気がしていた。


「そういう饕餮は復活して何がしたいんだ?」

「余がすることは変わらん。気の向くままに蹂躙し、喰らい続けるだけだ」

「それだけか?」

「それ以上に必要か?」

 

 簡潔で断言するような口ぶり。

 何かを隠そうとしてあえて分かりやすい答えを口にしていることを悠一はなんとなく察したが、掘り下げるのはやめておくことにした。

 他人の心の奥に踏み入ることが出来るほど、悠一は肝が据わっていなかった。


「……匂うな」

「幽魔か」

「二体いるようだが、近付いてくるのは一体だけだ」


 ぬるい夜風が吹いたかと思うと、目の前に大きめの猿のような幽魔が現われた。

 何かに怯えているように忙しなく周囲を見回し、左腕は肩から下が丸ごと無くなっている。


「なんか様子が変じゃないか?」

「おおかた、縄張り争いにでも負けて逃げてきたのだろう。ないとは思うが、見逃そうなどという甘えた考えを持ってはいないだろうな?」


 猿の幽魔は悠一の姿を見つけると、威嚇するように顔を歪ませて金切り声をあげた。

 不快感を伴う甲高い鳴き声が耳朶を打った。


「向こうは俺たちを敵だと思ってるみたいだし、そんな甘いこと考えるほど馬鹿じゃない」

「ふむ。……ならば今回は貴様一人で倒してみろ。模擬戦の成果とやらを余に示せ」

「わかった。お前に契約者として認めてもらえるように頑張るよ」


 悠一は影から刀を引き上げ、眼前の敵に向けて構える。

 模擬戦の反省を活かし、得意な戦い方――防御に主体を置いた戦いをするために相手の出方を窺う。


「ギィーッ」


 鬼の幽魔や残留思念の塊とも違う、小細工無しの理性を無くしたような吶喊。

 悠一は学校での戦いを思い出し、自分なりに結界の形をイメージする。

 頭の中の想像を現実に出力するような神経を使う作業だったが、結界の展開に成功した。


 鬼の透明な壁や、饕餮の格子状の壁とも違う、アスファルトに似た色と質感の壁が幽魔の突進を受け止める。


「猿相手に猿真似とはな。だが、余を経由せずに余の力を扱ったことは褒めてやる」


 壁に激突し、頭部を押さえて飛び退く幽魔。

 悠一が展開した結界は急造品もいいところであり、濁流を押し留めた饕餮の結界に比べて耐久力は低い。

 現に一回攻撃を凌いだだけでヒビが入り壊れかけていた。


「そう何度も展開できるほどの余裕はないぞ。次はどうする?」

「さっきのでお前の能力のコツは掴めた気がする。今度はあの学校で戦った奴の力を使う」


 だが、模擬戦で消耗し、能力を扱い慣れていない悠一にあの時の廊下の壁ごと迫ってくると錯覚させるような大技は使えない。

 再び悠一はイメージする。

 

 ――相手は一体なんだ。そんなに規模の大きい技は必要ない。

 一回下がられて距離が空いた以上、遠距離攻撃が使えるこっちの有利は大きい。

 さっきの動きを見るに、あの猿はスピードを活かすタイプだ。けど、今は何かから逃げてきた様子で判断力は失っている。

 なら――。


 「ふんっ!」


 悠一は刀に自らの生命力を糧にした赤黒い水を纏わせる。

 濁流というにはあまりにも心もとない量だが、それで十分だった。

 刀を幽魔に向けて振ると、刀の軌跡に合わせて水が飛んでいく。


「飛ぶ斬撃ってフィクションではよく見るけど、まさか自分が使うことになるとは」


 幽魔は悠一の繰り出す斬撃をなんとか避け、突然遠距離攻撃をしてきた相手を睨みつける。

 悠一はその敵意を受け流し、ひたすら斬撃を繰り出して幽魔の意識を逆なでし続けた。

 狙いはアバウト、威力もまちまち。

 ただ、近付かなければジリ貧だということに相手が気付き再び冷静さを失って突っ込んで来てくれるまで攻撃の手をやめない。

 自分の得意な間合いで戦わざるを得なくする。自分の強みを押し付ける戦闘スタイルだった。


「ギ、ィ……ギャァー!」


 もう我慢ならないとばかりに、鬱陶しい攻撃を繰り返す悠一に向かって再び吶喊する幽魔。

 自分が命に挑発されて乗ってしまったように、余裕のない時ほど心は揺れやすいと考えた悠一の作戦勝ちだった。


「今までに比べて勝ちに飢えた戦い方なのは評価してやろう」

「そう言ってくれて助かるよ」


 跳び上がって悠一目がけて鋭い爪を振り下ろそうとする幽魔の右腕を飛ぶ斬撃が斬り落とす。

 本体に直撃したのはさっきの一撃が初めてだったが、攻撃対象を絞った分、威力は高く、消耗は少なくて済むようだ。

 両腕を失い、地面に落下する幽魔。


「終わりだ」


 振り下ろした刀が、猿の幽魔を真っ二つに断った。

 これからも慣れることはない不快な感触と水音の後、分かたれた幽魔の身体が地面に落ちた。

 

「土壇場で編み出した技だけど結構いいかもな、これ」

「遠距離の獲物でも攻撃できるのは悪くはないな」


 影の中に幽魔の死体を飲み込みつつ、契約者の成長に少しだけ同意を示す饕餮。


「俺も少しはやれるようになっただろ?」

「まだまだあの小娘には遠く及ばんがな。……もう一体も去ったようだ。早く安全な拠点に帰るべきだろう」

「確かに安全だけど、俺はいつになったら自分のベッドで寝れるようになるんだ?」

「あそこはもう余の物だ」

 

 二人は悠一の自宅に向けて再び歩み始める。

 少しずつだが、バディとしての道を歩み始めていた。


「力を失ったとはいえ、あのような人間一人に絆されかけているとはな」


 そんな二人の様子を、物陰から観察する小さな影が一つ。

 猿の幽魔を本体に献上すべく捕らえようとしていた分体の冷ややかな視線が饕餮に注がれていた。

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