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喰斬護境トウテツブレイド~暴食神・饕餮と契約した俺は妖怪を喰らう刀を振るう~  作者: 藤臣倫悟


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十話 悠一と命の模擬戦

「舎人。お前今日はやけに食うな。そんなに腹減ってたのか?」


 昼休み。

 悠一と耕太の二人は購買にパンを買いに来ていた。

 悠一の腕の中にはパンが三個。これまでは一個、多くても二個で済ませていたので、確かに珍しい。


「いつも平気で三個以上食ってるお前にも同じこと思ってたよ俺は。運動……っていうか筋トレ始めたからだと思う」

「それだけではない」


 影の中から声がした。

 悠一が高校にいる間はほとんど話しかけてこない饕餮が、悠一の受けている影響について話し始めた。


「余が貴様の影響で人型の身体を得たように、貴様もまた余の影響を受けている。此度はそれが食欲の増大という形で現れたのだろうな」

「なるほど、それだけなら訓練し始めたってこともあるし良いことだな。変に食が細くて体を壊すより全然いい」

「食欲にのみ影響を及ぼすほど余の力は都合のいいものではないぞ。精々気を付けるがよい」

「それってどういう……」


 悠一の問いに饕餮は答えない。

 脳裏を掠めるのは初めて刀を握った時に感じたあの暴力的な衝動。

 魅入られてはいけない。

 人の道を外れる力に飲み込まれるわけにはいかないと今一度決心した。


「二人ともそんなところで立ち話してどうしたん? 早くしないと時間なくなっちゃうよ」


 現れたのはこはると命。

 二人もまた購買でパンを買った帰りだった。

 初日こそ悠一に絡んでいた命だったが、数日経った今ではすっかり女子グループに混ざっており、登校時に出会って以降こはると仲良くしているらしい。


「いや舎人がパンを多く買ってるのが珍しいって話をしてたんだけど――」

 

 悠一と耕太は顔を見合わせた。

 こはるはいつも通りパン一個だけだったので、決してこはるに何か異常があったわけではない。


「あたし奈良ではずっとお弁当作ってもらってたからさぁ、購買でパンを買うのがちょっとした憧れだったんだよね」


 命の手には――五個のパンがあった。

 そのどれもが焼きそばパン、カレーパンなどの総菜パンであり、一度に食べるとなればかなり腹に溜まるだろう。


「そりゃよかった。俺たちは三組で食うから、それじゃ」


 そう言って悠一と耕太は教室に引っ込む。

 命はこはるのいる一組で食べるようだ。

 いくら運動量が多いとはいえ、常日頃からあの量を食べて体型を維持できているのならとんでもない代謝の良さだ。


「そういえば前にハンバーガー食った時もかなりの量を食べてた気がするな」

「……! お前まさか、あの時放課後デートしたのか!? 筋トレし始めたのもモテるためなんじゃ」


 うっかり放課後も命と一緒にいたことを話してしまったがために、昼食中はずっと取り調べを受けているかのような質問の嵐に揉まれる悠一だった。


 ◇


 放課後の支部の地下、唯一戦闘行為が許可されている訓練場にて、悠一と命は訓練前のウォームアップを終えていた。


「トネリン、模擬戦やらない?」

「ルールは?」


 出来るだけ早く経験を積みたい悠一にとってはありがたい誘いだった。

 ルールを説明しようとする命だったが、話を聞きつけた泰正が訓練場に現れる。

 

「俺が審判をしよう。命ちゃんは格闘主体だし、対して悠一君は刀を使う。なら勝利条件はそれぞれに見合ったものにしないとね……命ちゃんは刀を奪うか拘束したら勝ち、悠一君は急所に刀を触れさせたら勝ちでいこう。もちろん寸止めだ。危なかったら俺が制止する。あと、鬼火とか幽魔の能力使うのは無しね、純粋な技量勝負ってことで」


 命は準備万端、既に境衣を身にまとい戦闘態勢を整えている。

 悠一もまた、饕餮に刀を出してもらうが――。


「流石に二対一は不公平だからね。饕餮には観戦してもらうとしよう。人の身体の動かし方も学べて、悠一君本来の力量も知れる、お得だろ?」

「よかろう。我が契約者がどれほどマシになったのか、見物させてもらおう」


 そう言って饕餮は影から飛び出し、泰正の隣に立って二人の姿を観察する。

 悠一としては初めての饕餮が影に居ない、アドバイスを受けられない状態の戦闘が始まる。

 

 ――饕餮にいつか飯を奢ってやるなんて大口を叩いたんだ。一人でも戦えるところを見せなきゃ。

 

「それでは……始め!」


 悠一が刀を構えると同時に、命が距離を詰めてくる。

 今まで何回も見てきた。身体能力の高さを活かしたステップ。

 しかし、黙って接近を許すほど悠一も成長してないわけではない。


 刀を水平に薙ぎ、牽制する。

 風を切る音とともに命が後ろに飛び退いた。


 徒手に対して刀のリーチは明らかに長い。

 どんなに近付いて来ようとも、先ほどのように反撃に気を付けて牽制すれば痛手を負うことはない。


 ここ数日で悠一が考えた、守りを重視した戦法だった。

 だが、攻めとなるとそうもいかない。


 何度踏み込んで斬り付けても、命はその脚力を活かして軽々と攻撃を避けた。

 時には反撃として蹴りや足払い、接近した悠一に掴みかかろうとするなどの多彩な動きで悠一の攻めのテンポを崩す。


「はぁ、はぁ、はぁ――」


 守りはそれなりだったが、攻撃についてはまだまだ拙攻といえるレベル。

 攻撃へと転じた瞬間に無駄な動きが増え、徒に体力を浪費してしまう。

 

「防御は出来てるけど、そっから先――反撃がまだまだみたいだね。手と刀じゃ違うだろうけど、お手本を見せてあげる」


 命は余裕を崩さない。

 その理不尽ともいえる力量差に、微かな苛立ちが募っていた。

 

「……だったら、そのお手本とやらを見せてくれよ」


 売り言葉に買い言葉。

 まんまと命の挑発に乗せられてしまった悠一は、残りの力を振り絞って命に接近し、刀を振り下ろす。


「たわけが……」


 饕餮が呟く。

 強くならなければいけないという焦りと、初任務達成で生まれたプライド、命との力量差に対する自身への怒り。

 それらが、悠一の長所でもあり短所でもある「考えすぎる癖」を邪魔していた。


 ――このまま終わるわけにはいかない。


「うおおおッ!」


 迷いのある一太刀は、命を捉えることはなかった。

 命の宣言通り悠一は腕を押さえられていた。

 刀の峰を掴まれ、腕が引っ張られる。


 初めて命と戦った時と似た、滑らかな動き。

 体を悠一の下に入れ、腕を支点にして投げ飛ばされる。

 

「挑発に乗るなんて、らしくないね」

「うわっ!」


 大の字に倒れ伏し、視界に見えるのは訓練場の天井だけ。

 負けを実感した瞬間、挑発に乗せられた自分が馬鹿馬鹿しくなってきていた。


「勝負はあったみたいだね。命ちゃんの勝ちだ」


 視界の隅に饕餮が現れる。

 その目は、未熟な契約者に対して侮蔑の色を含んでいた。


「やはりまだ弱いな、貴様は。冷静さを失い、自分の戦い方すら忘れるとは」


 ――俺は饕餮の力だけじゃなく、助言も貰わないと落ち着いて立ち回ることも出来ないのか。

 

「もう一度、もう一度やらせてください」

「いいね。今度はちゃんと落ち着いて立ち回ってみてよ」

「一旦休憩してからね。集中力が欠けてると危ないから」


 乗り気な命を泰正が制し、休憩時間へと入る。

 侮蔑の視線を向けていた饕餮もまた、やる気を見せた悠一を見て静観する構えを見せた。


「強くなる気があるのなら、それでよい――余を失望させるなよ」

ここまで読んでいただきありがとうございます。

十話まで来ました。

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