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9. 普段の光景が、


「――でもさぁ、その分武術はほんと凄いよね。あたしなんか全然駄目で…」

しかし、今の周囲の雰囲気なんぞ知ってか知らずか、大きな溜息とともに今度はリカが肩を落とす。

彼女(リカ)が呟いたように、メイは魔術の進歩が全く見られない代わりに剣術や槍術、弓術といった武術の類の修練にも真剣に取り組んでいる。その実力は講師達を含めた学院内でも一頭地を抜くとまで言われるほどであり、更には模擬戦で土をつけられたことは未だにない。言ってしまえば全勝無敗だ。

…流石は、魔術を扱うことが”大前提”の学院の入学条件を軽く無視した者、か…。

「まぁ…わたしにはそれぐらいしかできないからね。暇を持て余す気はないよ」

それほどの実力を持ちながら、メイにはまるで妥協を見せる様子がなかった。それどころかより一層自己研鑽に励むようになったように思える。少々手を抜いたところで誰も彼女を打ち負かすことなど到底できないと思うのだが…。

「うわぁ、努力家ですねぇ」

どこにも過信や過度な謙遜もない、純粋な向上心からくる彼女(メイ)の微笑みに、茶化すようなおどけた態度でそんな評価をするリカ。…だが、そんなリカにもメイがため息混じりに言い返す。

「…リカだって、魔術に関してはそうでしょ?」

自分(メイ)とは逆に、リカは武術の成績がすこぶる悪い。体力もなく、軽い運動だけですぐにへばる。しかし、魔術に関することなら講師達にも引けをとらない。実際に彼女はこの学年の主席の座に位置しているのだ。まるで自分は努力家(そう)ではないと他人事扱いしているのには違和感を覚える。メイにそう指摘されたリカはどことなく恥ずかしそうに、けれど悪い気もしていない様子で、

「んまぁ、あたしだって魔術だけだし」

二人は顔を見合わせ”似た者同士”とおどけあう。各々の分野で特出した成績を収め、冗談交じりでも天才だと崇められる彼女達。だがその実良い結果がでているだけで特別なことは何もしていない。他と何等変わらず努力を重ねているだけだ。

――と、そんな二人の元に一人の男子学生が訪れる。彼は和気藹々としているメイとリカの間に割って入ることを微かに躊躇っていたようだったがすぐに深呼吸で気分を切り替えて、

「…よぉ、二人共」

「うん?…あ、レン君」

二人が呼びかけに応えるように振り返ると、そこにいたのは今朝にも話題に挙がったメイと仲の良いという”レン”その人だった。どことなく気まずそうに眼を泳がせている彼を確認したメイは自然に頬を緩ませ、リカがきょとんと首を傾げながら彼に訊ねる。

「どしたの?集合でもかかった?」

「いや、じゃなくてな…」

一旦講師からの号令でもかかったのか?リカはそう思ったのだがどうも違うらしい。彼は相変わらず言葉が見つからないのかあちこちに視線を散らしている。そうして暫しの間黙りこくる彼を、二人は不思議そうに眺めていた。

すると、ようやく彼が重々しく口を開く。少しずつ、慎重に言葉を選ぶように。

「その…メイ、調子はどうだ…?」

たったそれだけの言葉足らずだったが、言わんとしていることは伝わる。彼女(メイ)を知る者の一人として、彼なりの心配しているのだろう。…なかなか魔術を扱えないでいる彼女を。

「――うん、ぼちぼち、だよ」

その聞き慣れた質問に、メイも普段と変わらない答えを返す。いつかは違う返答ができればという願望と、それが今ではない落胆を感じながら。

「そうか…」

すると、彼もいつもと同じように沈んだ声とやるせない表情のままで肩を落とす。…かと思えば大きく息を吐いて頭を掻き、突然声色を無理に高いものにして、

「…ったく、昔からだよなぁそれ。なんでだ?」

途端に軽口を叩くように振る舞いだした。しかしそれに大して戸惑う様子も見せず、メイも同じような調子で口を尖らせて、

「わたしだって知りたいよ。それを知るためにもここに来たんだし」

「んで、今の今まで手掛かりなし、か」

「むぅ…今年こそは突き止めるから」

レンがわざとらしく未だ成果が得られていないことを強調し、対してメイもむっと剥れて言い返す。…そして僅かに睨み合った後、二人は同時に吹き出し破顔する。

「はいはい、期待してるぞ」

「あっ、それ絶対思ってないでしょ!」

…その後も軽口を叩き合う二人。その様子は今朝の彼女(リカ)達のように、気の措けない仲であることをあからさまに示していた。

二人の邪魔をしてはいけない。今の彼等の雰囲気を崩してはいけないような気がして、リカはその場から段々と距離をおく。


――あぁ、やっぱり二人は仲良いじゃん。

と、遠巻きに眺めているリカの胸の内に、何処か言い知れぬ感覚が騒めく。…何故だろう?自分にもミオという幼馴染がいるのに…。

「――おう!二人とも…って、なんだ?夫婦喧嘩か?」

そこに長らく質問攻めで拘束されていたミオがようやく解放され合流した。かと思えばにやりと含み笑いを見せ、完全に二人で茶々を入れ合っているメイとレンを揶揄うような台詞と共にぐいぐいと割って入ってきた。

するとメイとレンはぴたりと口論を止め、一瞬のうちにミオの方へ振り向いて、

「「そんなのじゃない!」」

「本当かぁ?息ぴったりだぞ?」

正に阿吽の呼吸といった否定文句。そんなもの見せられては余計に二人の関係を疑いたくなる。ミオがそうにやにやと二人に生暖かい眼を向けていると、更にリカが加わるようにして愉快そうな表情になり、

「そうそう。これからも末永く…って感じ?」

くすくすと肩を揺らすリカと、そんな彼女(リカ)に同意するようにけらけら笑い出すミオ。そして、笑う二人に”的外れなことを言うな”と抗議するメイとレン。

いつの間にか集まってきていた他学生も彼等を取り囲むようにして冷やかしの野次を飛ばす。



――そんないつもの光景が、今日も続く筈だった。

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