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5. ”二人”の関係


「――あ、またお前か!リカ!」

ミオは暫くはぼけっとしたままリカを見つめていたが、自分の身に一体何が起こったのか、自分が何をされたのか気付いた途端に不機嫌そうに声を荒げる。しかしリカも引き下がる気はさらさらないようで、それに応えるように喧嘩腰に、

「だってこうでもしないと起きないじゃん!」

「あぁん!?」

あぁ、まぁた始まった…。二人ともこうなってしまうと絶対突き進もうとするんだから…。

「まぁまぁ…」

寝起きで気が立ち張り合うミオと、毎度の如く世話の焼ける彼女に(へそ)を曲げるリカ。そして、例に習って始まったいがみ合いをやはり制しようとするメイ。…この二人の意地の張り合いにも最初は随分と戸惑ったものだったが、一年近く経った今では最早見慣れた光景となってしまった。それが良いことかどうかの分別はつかないが、二人を宥める方法もなんとなくだが解ってきたことは幸いだろう。取り敢えず、このまま放っておくと本当に収集がつかなくなるので二人を落ち着かせる。

「ほら二人とも。早くしないと食堂混んじゃうよ?」

「――はぁ、わかったよ」

「なら早く準備する。じゃないと先に行っちゃうぞ」

いきり立ってはみたがそう(たしな)められ、まぁ確かにそれ程腹を立てるようなことでもないか、とミオは引き下がる。リカはまだ少々高圧的に催促してくるが、すぐにメイが再び間に入ったためにむすっと不機嫌そうな顔を浮かべるだけに留めて素直に身支度を始めた。

「じゃ、準備できたら言ってね」

「ん」

その場で寝巻を脱ぎ捨てようとする彼女を間仕切りの向こうに半ば強引に押しやると、リカの口から大きな溜息がこぼれる。…まったく、彼女のああいった奔放さはどうにかならないものだろうか…?

「はぁ…」

「ふふふっ…」

しかしリカの物憂げな気分とは対照的な明るい声が彼女の耳に入る。ふとそれが気になりそちらの方を見上げると、メイがくすくすと小さく肩を震わせて忍び笑いをしていた。

…はたして、どこに可笑しい部分があったんだろう…?

「…どしたの」

メイに笑っていることに対してか、なんだか不服そうに眉を細めて彼女へと視線を向けるリカ。それに気付いたメイは、しかし浮かべた笑みを戻すどころかむしろ更に破顔させて、

「え?二人とも仲良いなって」

そんな彼女の無垢な表情は、ついついへそを曲げているリカにも悪態を躊躇わせる。加えて彼女等二人の関係を純粋に褒められたことが少し照れ臭いらしく、頬を人差し指で軽く掻きながら、

「んま、そりゃ物心ついたときから一緒だからね」

と仄かに口角を上げて見せる。

ミオと片時も離れることもなく昼夜を共にしていれば、きっと誰もが嫌でもこうなるだろう。親しき仲にも礼儀ありという言葉があるが、あまりに親密になると礼儀など在ってもなくても変わらない。彼女とはそんな腐れ縁だから、とリカは呆れ気味に、しかしどこか誇らしげに表情を綻ばせた。

リカの見せた穏やかで懐かしむような顔に、改めてメイは彼女達二人の関係性の深さを感じる。そしてどこか遠くを眺めるように、目を細めて呟いた。

「……羨ましいなぁ…」

彼女の故郷は辺鄙で地図にも載らないような小さな村だ。そこには幼い者は殆どおらず、ましてや彼女と同年代の友人だけが丁度良くいる筈もない。だから、彼女等二人のような関係というのがやはり憧れだった。そんなメイにとってリカとミオの二人のような関係が羨望の対象になることは半ば自然なことで、彼女達二人に限らず仲の良さそうな他の者達にも憧れの眼差しを向けていることもしばしば見受けられる。

周囲の皆には幼い頃からの友人がいるというのに、彼女の態度はまるで自分には一切そんな相手がいないと言い切るようなものだ。けれど、リカはそんな彼女に対して含みのある笑みを浮かべ、

「あれ?でもレンとは仲良いよね?」

と、とある男性名を上げる。それは、彼女達と同じ組に振り分けられている男子学生のことだ。彼とメイは元々故郷を同じくする幼馴染らしく、入学初日に再会を喜び合う声を同教室の全員が聞いていた。それが、大陸中から限られた者だけが集まる学院で、しかもその誰もが新天地への期待と不安からの緊張に苛まれている中でどれだけ目立っていたかは想像に難くないだろう。

「それは…そうなんだけど…、彼とはずっと一緒だったわけじゃないからね」

彼、レンとはとても仲は良い。それを否定するつもりはない。…だが、二人が学院(ここ)で再会するまでには十年近くの時が経っている。その顔を合わせなかった期間が長いために、微妙な距離が二人の間にできてしまった……と。所謂幼馴染だと言うにはいささか語弊が生じるだろう。だから皆のような友人関係だとははっきりとは言えない。メイはあくまでそう苦笑していた。

「ふぅん。――でも、そんな風には見えなかったけどなぁ…」

しかしリカの主張では二人の間には違和感のようなものは感じず、むしろ自分とミオ以上に自然に振る舞っていた。それこそ、ずっと一緒に過ごしていてお互いの事をよく理解しているかのように。

「えっ、そうだった?」

「うん、そう見えたけど?」

意外そうにメイは目を丸くし、リカもそれ以外考えられないというようなにやにやとした表情で頷く。…まったくもう、メイはとぼけているのか無自覚なのか…。

「うし、準備終わったぞ」

ふと背後から声が聞こえ、二人が振り向くとそこには軽い身支度を終えたミオが。彼女はにしし、と気風の良い笑顔を浮かべながら輪に加わる。

「あ、きたきた。遅いぞ?」

「わりぃわりぃ。流石に眼が冴えたわ」

茶化すように肘で小突くリカと、完全に覚醒した様子でそれに苦笑して応えるミオ。その様子をメイは微笑ましく思い、そして和やかな言い争いが再び始まりそうな二人に向かって微笑みかけた。

「それじゃあ行こっか」

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