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4. 三人目の親友


 感慨に浸っていたメイは、ふと言葉を漏らして宙を見上げる。あからさまに何か含みのありそうな彼女の行動を隣のリカが気にならない筈もなく、首を傾げながらメイの顔を覗き込む。

「ん?なぁに?」

「……今日ってさ、訓練場集合じゃなかったっけ?」

曖昧な記憶から探り出すように頭を捻り、”そんな注意事項があった”ような…、とメイが口にする。そしてそれにつられるかのように一瞬リカも思考を巡らせる。……そう言えば確かにそうだったような…、

「――あ」

そうだった、思い出した。今日は屋外での講義から始まるんだった。開始前に集合しておかなければいけないと言われていた記憶がふと蘇る。

しかし、そのためにいつもよりも早く寮を出る必要があるとはいえ、講義が始まるまでにはまだ時間はある。訓練場もそこまで離れていることもなく、まだ余裕は充分にあるだろう。二人は顔を見合わせて確認しあう。

「どうする?」

「…戻ろうか」

だが彼女達は散歩を早々に切り上げて、もう寮に戻ることにしたらしい。そう急く必要性はない筈なのだが…。

「早いとこミオも起こさないと」

「そうだね。…ミオったら、全っ然起きないんだから!」

「いっつもぎりぎりで慌てるもんね」

けれど、彼女達にはそうする理由があった。時間にある程度のゆとりをもたせる必要が存在していた。

すっかり色彩も復元された丘から離れ、二人は整地のされた林道へ行く。その先で木の葉の隙間から徐々に姿を現すのは、自らも含めた女学生達が生活する女子寮。ぽつぽつとすれ違う学生の人数から鑑みるに、どうやら殆どの寮生は目を覚ましてはいるらしい。が、そんなことが”彼女”に関係するわけもなく二人の部屋に戻ると…、

「……やっぱりねぇ」

案の定遅刻癖の彼女は寝ていた。いつものように明るい橙茶色の短髪に大胆な寝癖をつけ、派手な寝相に(いびき)をかきながら。

「ミオ、ミ~オ!もう朝だよ。起きて!」

「んが…、ぐぅ」

リカはわざとらしく大きい溜息を吐き、ミオの肩を荒っぽく揺する。その肩を中心にゆさゆさとミオの頭は左右に振れ、その揺れ幅は見ているだけでも平衡感覚を失いそうだ。

しかしこんなにも揺らされているというのに彼女は余程の深い眠りについているようで、返ってくる反応らしきものは若干寝苦しそうにする微かな呻きだけ。それもすぐに脱力して無防備な寝顔に戻ってしまう。リカがどれだけ起こそうと尽力しても、ミオは寝返りを打つ程度で起きる気配は微塵もなかった。今はまだ遅刻するほどに切羽詰まっているわけでもないのだが、これまでの経験上、余裕を持てる程度の時間を残して彼女が目覚めたことはない。

さて、どうしようか…と、二人は目を見合わせ、不満そうに顔を顰めるリカにメイは苦笑して首を傾げる。

やはりまだ起こさなくてもいいのでは…?

そんな目配せを送るメイだが、それに対してリカは普段からの悪癖に流石に我慢がならないらしく、

「はぁ……もうっ…!」

と地団駄を踏んで怒りを露わにする。…どうやら、もう”起こす”選択肢以外が頭にないらしい。

「こうなったら…!」

彼女が膨れっ面のまま掌を顔の前で上に向けて何やら集中を始める。すると彼女の掌に淡く青白い妙光が浮かび上がり、それが幾何学的で複雑な模様――魔法陣を描き出す。

「えっ?リカ?」

明らかに不穏な雰囲気を纏う彼女にメイは動揺が隠せない。何をする気か訊ねようとするが、それをリカが意に介す気配もまるで見られない。…あぁ、これは相当頭にきてるな…。

魔法陣の中心に引き寄せられる様に、彼女の掌の上に空気中に散っていた水分が集まり凝縮して小さな一つの水の塊が出現する。その水球は彼女が集中を続けている間にも更に成長を続け、そのままそれが握り拳ほどにまで膨れ上がる。

――すると、

「てぇいっ!」

その水球を、ミオの顔にめがけて投げるように放った。

「ぎゃっ!冷たっ!」

ぱしゃ、という音を立ててミオの顔に飛び散る水。深い井戸底から引き揚げたばかりかのように一瞬で彼女から体温を奪い去る。

その水飛沫に倣うように、驚き慌てたミオはベッドから勢いよく飛び跳ね、どたばたと大きな音を立てて転げ落ちた。余程効果があったのか、ミオはすっかり冴えた目をして一体自身に何が起こったのかを理解できずに困惑している。

今度は突然彼女の視界が何かに覆われ真っ暗になる。まだ状況も把握できていない彼女が当然混乱しないはずもなく、

「うおっ!?なんだ!?」

自分が頭から大きな布を被っているだけとは思えないほどに慌てふためくミオ。冷静さを欠いて両手を大きく振り回しているその姿のなんと滑稽なことか…。

「―ふふっ…!ミオ、慌てすぎ」

「んあ…?」

何処からかくすくすと笑う声がする。聞き覚えのあるそれをきっかけにミオは落ちつきを若干でも取り戻して、ようやく現状の自分へと意識を向け始めた。

…髪や顔が濡れている…。それに、自分に覆い被さっているこれの香りは、よく天日干しされた乾いた布みたいだ…。――まさか…?

そしてミオは、徐に顔の布に手を掛ける。そしてやっと、呆れた表情でこちらを見下ろすリカと目が合った。…かと思うと彼女は不機嫌そうな様子も隠さずに言い放った。

「もう、やっと起きた。ほら、早く」

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