94.リーン
私たちはルシファー様のお屋敷に向かって黒馬と牛に乗っている。
ブルワにタツキとタフが愛乗り、私はチョコ、サナエがカーリスでレイキは姫に乗っている。
(おい、愛乗り言うな!)
てへっ。
何気に姫が早い。パカパカ走る黒馬に負けない速さで走る。爆走する牛…シュールだ。
そしてすぐに丘上の屋敷に着いた。
門のところにいた人に声をかければ私の頭上を3度見してから屋敷に走って行った。
すぐにルシファー様が出て来た。
「来てくれたんだね!中に入って」
私の頭を見て
「門番には頭に鳥を乗せた女の子たちのグループが来るって伝えてたんだ」
朗らかに言われた。私だけ憮然としてレイキは相変わらず吹き出すし、タツキとサナエは笑いを堪えていてタフはやっぱり私を撫でる。
そしてリーンの部屋に着くとベットではなくソファに座っていた。服も寝巻きじゃなくてシャツにズボンだ。
ワンチャン女子の僕っ子と思ってけど、撃沈だよ。
(くっワンチャン僕っ子って…結婚申し込まれてただろ!)
レイキの念話だ。これは全員に聞こえる。
タフも
(ねー?諦めて、シーちゃん)
ガックリだよ。
『ガビョーンじゃないのか?』
マンティ、だから古いって。
『ガチョーンか?』
より古くなったよ。
「おはよう、みんな」
目線が私の頭上に固定されてますけど?
「「「おはよう!」」」
「リーンはここしばらく体調が良くてね」
「そうなんだね、良かった」
「うん!シエルのお陰かな」
「鳥たちに癒されたからだよ」
ふわふわと笑うリーンは普通に可愛い。
タツキが懐からムササビ親子を取り出す。リーンは大きな目を開いて
「うわぁ」
と言った。確かに頬に赤味がさしていて調子は良さそうだ。ふかふかなムササビたちを手にして悶絶していた。
分かるよ、ビロードみたいな手触りの背中とふかふかのお腹。最高だよね。
アーモンドみたいな大きな黒目は潤んでるみたいで。
でもどこに放すんだろ?
ルシファー様が
「ふふっどこに放つんだって思ったかな?こちらへ…」
うわぁ…森だ。
家の中に森がある。凄いな…。
で、なんで私はリーンと手を繋いでるのかな?
当たり前みたいにするりと手を握られて、そのまま部屋を移動した。
そこは温室。普通に小さな森。ルシファー様とリーンが共にドヤ顔をしている。うん、可愛い。
「さすがはエルフ、植物と生きるもの…か」
リーンの耳はあまり尖ってない。ルシファー様は横というよりは斜め上に尖っている。お顔は作り物みたいに整っている。もちろん、リーンも人形みたいに可愛らしい。
「僕も手伝ったんだよ!」
手をぎゅっと握ってドヤる。可愛いぞ?
「凄いね…魔力も滑らかに流れてるね」
「うん!」
ムササビを放つと大きな木に開いた穴を確認してするんと入った。そして小さな顔を出すと、子供をお腹に張り付けて木を上り穴に入れた。
巣穴まで用意していたんだ。
リーンは満足気に笑う。
「戻ろう…」
少し疲れたのか、笑顔に元気がない。ずっと寝てたなら仕方ないだろう。
だからってまた私ごと抱き上げるのは何で?ルシファー様は細身なのに軽々とリーンと私を抱き上げて運んだ。
ソファに並んで腰を下ろすと、お茶とお菓子が出て来た。
リーンがもたれ掛かっているので、カップを持って口元に持って行くと手を添えてコクリと飲む。
お菓子は焼き菓子で、適度な大きさに割って口元に持って行くとそのまま私の手から食べた。もぐもぐして私を見る。お替わりだね。
とそんな風にお茶とお菓子を食べた。素朴な味だけどナッツかな?香ばしくてなかなか美味しかった。
食べ終わるとリーンがウトウトし始めたので、レイキに目配せをしたら抱き上げて添い寝した。
リーンとレイキも心地よく感じるか、確認だ。リーンの温もりで私まで眠くなって来た。ふわぁ…。
目が覚めるとベットに寝ていた。何で?
リーンが私の腰に抱きついて寝ている。リーンの奥にはレイキだ。あれ…ソファでお茶とお菓子を食べて…寝たのかな。
にしてはおかしい。だって疲れるほど動いてないのに。そして気がつく。リーンが食べてたから油断したと。
(シーちゃん、目が覚めた?)
(タフ、私…)
(ごめん、知ったけど少し寝てて欲しくて)
(タツキとサナエは?)
(寝てないよ、ごく簡易な眠り薬だから)
(教えてくれたらいいのに)
(ルシファー様と話がしたくて)
(起きていい?)
(もちろん、こっちにおいで)
リーンの手を解いて…解い、苦戦してたらタフが手伝ってくれた。体を起こすとタフに抱えられてベットから出る。タツキもサナエも顔色が悪い。
ルシファー様は貴族だ。もしかして…?タフを見上げれば頷いた。
「大丈夫だ、すぐには問題ない」
「直ぐには?」
「詳しい話はまた夜に」
ルシファー様は私を見て穏やかに笑うと
「安心して。リーンが慕う人を売るようなことはしない」
信じるしかないんだろう。だからって眠らさなくても。
少しして目を覚ましたレイキと共に屋敷を後にした。
帰り道は静かだ。
届けるだけだったのもあってね。
町にはお昼前には着いたから、タフと別れて市場にご飯を食べに行った。リリたちは宿の馬房に預けて。
私はまた水餃子だ。みんなも思い思いの食事を食べる。
そして、食べ終わるとタツキが
「公園で少し話をしていいか?」
頷いて移動した。
公園の端で芝生に座る。
タツキが沈黙を破って話し始めた。
「どうやら探されている」
やっぱりか。転移から1ヶ月と10日ほどか。流石に王都にいないことに気が付いたのかも。
名前は誤魔化しておいて良かった。一見して転移者とは分からないはず。
「誰に?」
レイキが聞く。それはそうだよね、王様だと思ってるけど、違う可能性はある。
「王宮から領地持ちの各貴族に問合せだそうだ」
やっぱりか。
「商店にも連絡がいってるようだ」
「リーブランにも?」
頷くタツキ。
みんなで顔を見合わせる。ルシファー様の話はそれなのか?
「ルシファー様から尋ねられた」
そうなのか。ルシファー様はその問合せに何て答えたんだろ。
「どうやらブブカ殿からもルシファー様に話があったらしい」
レイノルドに迷惑を掛けてないといいけど。
タツキは私を見て
「それは大丈夫だ。ルシファー様もブブカ殿も問合せの尋ね人に心当たりはないと返しているし、実際に完全には当て嵌まらない。あくまでも可能性として聞かれただけだ。もちろん、レイノルドもだ」
ひとまず良かった。私たちに当て嵌まらない問合せ?気になるけど、なるべく早くここを出ないといけないのでは?
「バーキンに頼んだ装備や剣、杖についてはリーブラン商会に運んでもらうことも考えている」
それしかないかも。オークションが終わり次第、ここは出て早く国境を越えないと。
「タフはギルマスに来てるだろう問合せの様子を聞きに行った」
なるほど。
「商業ギルドと農業ギルドは大丈夫だ。リーブラン商会がすでに動いている。尋ね人は「黒髪黒目の冒険者4人で、1人は銀髪」だとさ」
「それだけ?」
タツキは頷く。確かに微妙に当て嵌まらない。でも聞く人によっては私たちだと分かるかもしれない。だからか。
バーキンのおじさんの日記も気になるけど、仕方ないか。
「急いでヤールカに入らないとね」
「そうだな。俺たちのことかは不明だが、間違いないだろう。どうせ俺たちのことなんて碌に覚えてなかったんだな」
「そうだろうな。でも追われてるのは多分、シエルと俺だ」
アンナさんの日記を読む限りはそうだね。
「最悪、俺たちと離れることも視野に」
「それはない!俺たちはパーティーだ。なにより、同郷の仲間じゃないか」
タツキの言葉は有り難いと思う。反面、迷惑を掛けたくない気持ちと彼らだけでは不安なんだろうという気持ちと。色々とない混ぜだ。
「もちろん、積極的に離れようとは思っていない。最悪の場合だ。追われているとして、シエルと俺とタフがいたらほとんどのことは何とでもなる。キツイ言い方かもしれないが、3人の方が身軽なんだ」
タツキもサナエもきっと分かってるんだろう。従魔の戦力的にも圧倒的にレイキと私が強い。タフもいれば尚更だ。しかも追われているならば、それはレイキと私。
「ブルワをサナエに。タツキは1人で乗りこなせるようになったらチョコかカーリスを。黒馬は1頭いればこちらは足りる。何かあった時に、また合流する為の場所も決めておこう。ずっと離れようと思ってないけど、追っ手が迫ったら躊躇はしないで。追われてるのは誰か、考えたら分かるでしょ」
タツキとサナエは手を繋いで頷いた。
「俺は1人で馬に乗れるよう頑張るぞ」
「それがいいよ」
それからは各自、荷物の点検や携帯食の分配。食材や調味料も分けて、買いたいものは今のうちにということで色々と購入した。この後は季節が変わる。冬服まで買ってたよ。目立たないやつね。
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