93.ムササビの捕獲とその後
みんなが見上げる。あ、いた!
木の穴から顔を出してるのは間違いなくムササビだ。大きな黒目が可愛い。
そういえば、捕獲の方法は?
(ルーに蜘蛛の糸を張って貰えばいい)
なるほど。
「サナエ、ルーに蜘蛛の糸を張って欲しい」
「捕獲のためね?」
「うん」
サナエは肩にいるルーに話しかけている。
スルスルとルーは木に登ると周りに糸を張り巡らせた。
そのタイミングで師匠が私の頭から飛んで、ムササビの巣に近づく。ムササビは慌てて飛び出した。2匹来たね!
そして案の定、ルーの糸に絡め取られた。すかさずルーが糸ごとムササビを運んで来てサナエがそっと捕獲した。
レイキが即席で作った籠に入れて終わり。でも巣の中にベビーちゃんいるんじゃないのかな?
と思ったらタフが木に登って巣の中を覗き込み、また降りて来た。
「シーちゃん、子供がいる。手伝って」
タフに抱えられて木に登る。巣穴は小さくて、私の手ならギリギリ入る。
手を入れるとふかっとした手触り。そっと掴んで取り出す。全部で3匹。腕に抱えるとタフがゆっくりと木を降りた。サナエが抱える番の元に運ぶとお腹の中に包んだ。
ムササビまで捕獲完了した。
帰るのかと思ったらタフが
「シーちゃん来て」
また抱えられて別の木に行く。巣穴だ。でも親は出かけてるだけじゃないの?
「弱ってる。帰ってこないんだと思うよ」
私はそっと巣穴に手を入れる。ふかっとした感じはおなじ。でも小さい。そっと取り出すと2匹。胸に抱いて戻る。その子たちはくったりとしている。
ラビがぷもんと鳴くと淡く光った。
体を起こすと私を見て必死に口を開ける。
えっとどうしたら?
(虫とかの昆虫を与えればいい)
…無理!都会っ子は虫苦手。首を振ると師匠が飛び立ってしばらくして戻って来た。口に大きなミミズを咥えて。
「キャー!」
目を回して倒れた…無理、だから。
目の前でシエルが倒れた。師匠が運んで来た特大のミミズ(約20cm)が目の前にぶら下がり、手に抱えた鳥たちの上に落ちて、というかシエルの手にのって。
悲鳴をあげて、倒れた。
いや、倒れてよかったかもな。可愛いムササビの子供がミミズを食いちぎるのを間近で見なくて済んだから。
俺でも少し気持ち悪いくらいだからな。タツキも青ざめている。サナエは大丈夫かと思えば
「まぁ、大きなミミズ」
まったく平気だった。
もちろん、タフは平気な顔で倒れたシエルを抱えながらムササビがミミズを貪るのを見ている。さすがだな。
「シーちゃんは虫、ダメなんだねぇ」
困ったようにタフが呟く。
「どうすんだ?」
「んーシーちゃんはムササビ好きそうだなって思ったんだけど。放っておけば他の鳥にやられるか、死んでたしね」
「虫以外は食べるのか?」
「木の実とかなら食べるかも?でも子供だから」
タフの視線が師匠を見る。
「くわっ」と鳴くと飛んで行った。少しして咥えて来たのは果物か、木苺みたいなやつだ。
ムササビの子供たちはパクパクと食べた。良かった。
タフは師匠が飛んで行った方に走って行って、するとシエルのローブに隠れて居たヒナたちがタフにくっついて行った。
戻って来たタフの手にはたくさんの木苺。しかも、腰には木苺の木があった。ヒナたちも口元が赤い。
「これでシーちゃんが気絶しなくて済む」
とそんな事があり、シエルはタフが抱えてブルワに乗って町に向かった。
途中、シエルが気が付いたので、遅いお昼ご飯を食べる。堅パンにハムやチーズ、野菜を乗せたカナッペだ。マンティや他の魔獣たちにはオーク肉を焼いて。
食事が終わると午後3時。それから1時間で町に戻って依頼達成の報告をした。
はぁ、師匠が大きなミミズを運んで来てそれをムササビの子供に投下。私の手の上でうにょるミミズ。無理だった。気がつくとタフに抱えられてブルワに乗ってた。
お昼を食べて町に戻って。依頼達成の報告をして帰る予定だったのに、なんでこうなった。
目の前にはお腹が出たおじさん。既視感が。
やっぱり依頼者はルシファー様。でもね、ムササビならさらにたくさん木がいるんじゃない?
そう持って居た時もあったよ、と少し後で思うんだけどこの時はまだ知らなかった。
「さすが蒼の氷柱だ!」
まさかの子供までいるからね。
「報酬は弾みますぞ!」
「ここで渡せばいいのか?」
と聞けば
「環境の確認が必要なので、屋敷に届けてもらいますぞ」
ですよね?
リーンの儚い顔が目に浮かんだ。レイキとくっついて貰えれば検証出来るのか。
「今からでも…」
「我々は魔獣がいますので」
明日、向かうことになった。まぁ、仕方ないか。って事で宿に帰る。
食事は手抜きでワイバーンステーキだよ。シンプルに塩と胡椒。焼き加減はレイキが鑑定で完璧なミディアムレアに。キリッとな。
やっぱり脂身と赤みのバランスが絶妙。いつもより沢山食べたよ!マンティたちに持って行った。やっぱり大好評。美味しいもんね。
部屋に戻ると、みんなでマイヤーを出る時期について相談。
「防具やらはやっぱり時間かかるよな」
「バーキン1人だからな」
「バーキンの紹介とかで誰かに頼んだりは出来ないのか?」
「どうだろうな…相談だな」
「バーキンのプライドもあるだろうしな」
確かに、任された仕事を他の人に回してって言われたら嫌だよね。でも、バーキンにはおじさんであるマコト・ツルヤさんの日記を見せて欲しいし。圧倒的に時間が足りない。
「明日、屋敷にムササビを届ける前にバーキンの工房に行こう」
という事でお風呂に入って寝た。
翌朝、なんかおでこと目があったかい。そう思って目を開けたら目の前がクリーム色。何?
触るとふかっとした。あぁ、ムササビの子供か。私の目とおでこにお腹がのってる。そらあったかいわな。
そっと退ける。いや、鼻と口に乗られなくて良かった。
胸元のあーちゃんが口元をペロリと舐める。
首元をもふって匂いを嗅いで深呼吸。さてと、起きるか。
タフが背後で
「しーちゃん?」
「おはよう」
「おはよう…」
起きて着替えると居間にむかう。タツキがコーヒーを飲んでいた。そう、こちらの世界にもあったんだよコーヒーが。ザリザリしてるけど間違いなくコーヒー。上澄を飲む感じ。
「2人ともおはよう」
「おはよう、タツキ私にもコーヒー」
「おう、タフも飲むか?」
首を振った。苦くてまずいそうだ。慣れないとね?私は姫牛乳と姫牛乳から作った練乳を入れて飲む。うん、美味しい。
タフが見つめるのでカップを差し出せばコクリと飲んで、ゴクゴク飲んだ。飲み干した。
ジトッとタフを見る。
「凄いよ、シーちゃん。美味しかった」
タツキが笑いながらお替わりを入れてくれた。ちゃんとタフの分も。そこに姫牛乳と姫練乳を投入。
はぁ沁みるな…。
さて、朝食だね。
お魚好きなタフの為に、もちろん私も食べたいからね。サケのホイル焼ききのこ添えと白ごはんにお味噌汁、お漬物だ。
タツキもサナエも感動して目が潤んでいたよ。美味しいよね、ホイル焼き。
あ、ホイルは魔法通信でお取り寄せだ。ここだけの秘密だよ?
食べ終わると馬房にお肉とお魚を差し入れ。
鳥さんやムササビさんは部屋の中にいる。鳥さんにはお野菜のカケラ、ムササビさんには木苺。
片付けをして宿を出発した。バーキンを訪ねるのだ。
ひっそりとした路地の中で、各工房からは元気な音が響く。
バーキンは奥の工房にいたけど、しばらくすると汗を拭きながら出て来た。
「やぁ、いらっしゃい」
「作業中に悪いな」
「大丈夫、一段落したから」
そこで納期の話とマコトさんの話を切り出す。
バーキンは頷いて
「僕も少し気になってたんだ。明日のオークションで競り落とせたら…そうだな、また相談になるけど。僕としてはある提案があってね…?」
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