90.王宮にて
誤字報告ありがとうございます…
とても助かります
時間はシエルたちが王宮を去った時まで遡る。
ハイランダー王国の王宮にて
「無職たちは出て行ったか?」
「はい」
聞いたのは現王のハイランダー21世。応えたのは内務大臣。
「色々とたかられましたが。とは言っても端金と古い本ですからな、痛くも痒くもありませぬ」
「異世界の荷物はちと惜しかったが、余り警戒されてもな」
「左様にござりますれば」
「数ヶ月もすれば、ボロボロになるだろう。王宮で働けると声をかければ飛びつく筈だ。それまではせいぜい好きにさせとけ」
「はっ!」
「残った者も…ハズレじゃのう。星5がいないとは。はぁ、情けない」
「前回の召喚よりあまり時間もありませんでした。チカラが足りなかったのでしょう。賢者は星4と不可思議ですが…星5と発表したら良いのでは?」
「そうであるな、鑑定石も万能ではない。星なし…2人は儲けものか?」
「そうですな、星5がいないのであれば…或いは化けるかと」
「小さい女児は顔はなかなか良かった。異世界人の遺伝子を残す為に…ふふっ育てるのもありかのぉ?」
「そうですね、神秘的な黒目も魅力的ですが、あの色はなかなか…。手元に置きたい者たちも多いでしょう」
「ふっ、ワシも味見くらいするかの。ほっほっほ」
内務大臣は王の元を辞して王宮にある自身の部屋へと歩く。
ここハイランダー王国では昔から異世界人の召喚をしている。昔々はまだ世界が混沌としている時代で、力を欲して勇者召喚を行ったのが始まりと言われていた。
その後は飢饉や疫病で聖女を欲し、国の運営が軌道にのると繁栄のために賢者を、戦争となれば剣聖を、と次々に召喚をした。
と言っても、召喚するのにはある程度期間を空ける必要がある。
召喚の儀式には多大な魔力と労力が必要だからだ。
前回の召喚より30年とかつてない速さで召喚を行ったのが良くなかったのか。
人数も少なく、星のランクは全体的に低かった。ただ、星なしだけは扱いが難しい。
クズジョブだと思われていた星なしが過去に大きな功績をあげたことがある。それ以来、星なしは王宮で飼い殺すと決まっていたからだ。
もっとも最後までクズで終わることの方が多く、さらに短命だ。出奔して戻らなかったものもいる。
過去の資料を見ると、どうやら星の数が多いほど短命になる傾向がある。だから星なしは要注意なのだ。
しかし、今回の星なしは明らかに今までと違う。自ら荷物を持って出て行った者は過去にいないのだ。
とはいえどうせ短命で、クズの可能性が高い。警戒されている様子なので、しばらく好きにさせておこう。
こちらの世界の人間と比べると圧倒的に戦闘力がなく、すぐに身包み剥がされるだろうが。
見目の良さと上品さで噂くらいにはなるだろう。
その時はそう考えていた。消息が掴めなくて焦るのはまだかなり先の話だ。
私はユナ。35才独身、ニートで彼氏なしの大橋由奈としてぐだぐだと親の脛を齧りながら生きてきた。たまには外に出なさい、と言われて何となく電車に乗っていたら床が光った。
もしかして、異世界?!大好きなラノベに出てくるみたいな美少女になって、チート能力で無双とか?!
3日ほどお風呂に入ってなくて股が痒い気もするけど、新しく生きるチャンスじゃない?
光が収まると、これは…ヤッター!
ここは王宮ね。勇者召喚かしら?なら私は聖女?最高の気分で周りを見回すとあれ、人が多い。なんで…?
しかも、明らかに私より若くて可愛い子がいる。胸には立派な双子山が鎮座。チッ…しかも、明らかに子供って感じの儚い美少女までいた。
私の容姿無双計画が!
でも、どうやら私は若返っている。そっとスマホの待機画面で見たら明らかに若い。やったわ、きっと10代後半。
周りの男子や多分、王子は私に色目を使う。分かるわ!経験は皆無でも、ラノベならそれこそ何万回と読んだから。だから自信を持ってウインクしたら、ウインクが返ってきた。ふふっ私、ここで生き直すの!
その後はジョブの鑑定があって、私は星3の治癒魔法だった。星3はちょうど真ん中(後で説明された)だけど、治療系のジョブは重宝されるの。やったわ!
しかも、私より可愛い2人は星3の氷魔法とまさかの星なし。笑ったわ!やっぱり私が主人公なのよ。
途中で挟んだ休憩で、お菓子をつまんで紅茶を飲む。あら、意外と美味しい?
ふふっ気分もいいし、落ちこぼれで固まったテーブルにマウント取りに行くかしら。
ちょっと嫌味を言っただけで俯いてしまったわ。ふふっ私の勝ちね。
王子様も私に声を掛けたわ。ついでに可愛い子にも声を掛けてたけど…私だけを見てよ!
早速腰を抱かれて…うふっもしかして未来の王妃?私はあちらの世界にいたから、きっと勉強だってできるし余裕よ。
これから私の時代が来るわ。
落ちこぼれ以外にはライバルらしい子はいない。女子がいるけど彼氏付き。しかも見た目はそれなりに可愛いけど、大人しそう。大丈夫、私が1番よ!
王子様もあちらの世界では見かけないような金髪のイケメン。楽しい生活が待ってるわ!
なんでこんな事に?
王子といい感じになって、僕のレディなんて言われて。請われるままに体を重ねて。安泰だと思っていたのに…。
私の治癒魔法は全く上達しなかった。
治癒の魔法ははじめは小さな切り傷。それから上達するごとに大きなケガ、骨折と進む。聖女じゃ無いから欠損を治したりは出来ない。
病気も然り。熱冷ましや咳などの軽いものから内臓や脳の病気、疫病なんかも上達するとある程度は症状を緩和出来る。
なのに…私の治癒は薄皮一枚、擦り傷の表面だけ治す。中が治らないのに表面だけ塞がって。講師なんていなくて、見様見真似で治れ!と心で唱えながら。
頼りない光、治らない傷。
だんだんと周りの扱いが粗雑になって、とうとう王宮を出て町の治癒院に派遣される事に。そこは住み込みで、食事も出なければ給料も僅か。魔法の使い方は弟子になって10年以上経たないと教えてもらえない。
私以外はそれなりにジョブが形になって、紛争地帯に遠征に行っている。私と違って活躍してパレードで顔も売れる。貴族が取り込みに行って贅沢も出来て。
私にもいたけど、適当に夜の相手をさせられただけで遠ざけられた。
なんでこんな事に?
ジョブが上手く使えないだけじゃなくて、普通の魔法すら束つかない。賢者のキモオに聞いてもニヤニヤするだけで教えてくれなかった。
治癒院の人たちはみんな簡単な魔法なら使えている。何が違うの?
そして、ついに今日。治癒院を追い出された。
「待って、行くところがないの…せめて雑用だけでも」
「雑用なら他の人がしっかりとやってくれてる。ジョブばかりに目がいって他を疎かにするくらいなら、ジョブが無くても良く働く人を雇うさ。冒険者に暴言を吐いたんだ、王都ではもう仕事なんて無いぞ!」
少ない荷物ごと追い出されて途方に暮れた。町を歩いていると
「よお、シケタ面してんな!飲もうぜ?」
臭くて汚い冒険者ごときが偉そうに。肩に回された手を叩くと
「何だよ、慰めてやってんのに!」
強面の冒険者に囲まれた。嫌だ、怖い。逃げようとして周りを見ていたら、こちらを窺っている男性と目が合う。凄い、イケメンだ。
「た、助けて!」
そのイケメンは肩をすくめると私に向かって歩いてきた。やっぱり私には運がある。
その人が冒険者に声を掛けてくれた。良かった。
イケメンは私に笑いかけると
「おいで?」
と手を差し出す。離すもんかという勢いで抱き付くと、そっと手を抜くイケメン。
その出会いは恋の予感、そう思っていた。
本当の地獄が始まるとも知らずに。
若くて可愛い子はサナエ
美少女はシエル
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