89.年の功
カニクリームコロッケから何故か年の話になり、レイキとサナエも今のタフに近い年だったと分かってタフはとても嬉しそうだった。
「なんか俺だけおじさんじゃなくて少し嬉しいぞ」
見た目はタツキと変わらないのにね?エルフの血って凄いや。
その後はみんなで馬房に向かった。なんと言っても姫牛乳とリリの卵を使ったコロッケだからね?共食いじゃないよね…?
「姫、王子!ほらご飯だよ」
レイキが満面の笑みで姫と王子に寄り添う。大きな口でパクリ。
「んもーぅ…」
「んもんも…」
パクパク食べてる。ふふっ可愛いなぁ。プランプランするしっぽを見てると楽しい。
リリにはタツキが
「リリ、いつも美味しい卵をありがとう」
と小さな頭を撫でながらお皿を差し出す。
リリも凄い勢いで食べてるね。共食いじゃなくて良かった。ふわふわのお尻が可愛い。そっと羽を撫でるとふかふかだ。
名残惜しいけど黒馬のチョコとカーリスにブルワにもあげないとね!
「ひひひん(早く!)」
「ひひん(早くぅ)」
「ひひひひひん(はよ)」
ただいま!
それぞれにお皿に持ったコロッケとキャベツを出す。
大きな口でパクりと食べて咀嚼する。
「ひひひん(美味い!)」
「ひひん(美味しい)」
「ひひひひひん(…)」
みんなも喜んでくれて良かったよ。
馬房から部屋に戻ると、後はお風呂に入って寝るだけ。今日もサナエときゃっきゃうふふしてお風呂に入り、タフに抱きしめられて寝た。
ふわぁ、相変わらずタフの温もりとあーちゃんのまふまふにラビのふわふわ。良く眠れるわ。
あの体調不良が嘘みたいに。
「シーちゃん、起きてる?」
「うん」
首に顔を埋めて
「リーンの事?」
「うん…」
沈黙が落ちる。
「同じだと感じるけど…彼は違う。それに…シーちゃんのそばは心地良いって」
それは私も思った。彼はこちらの世界で生まれた。なのに何故?と。あの心地良さも。
「うん、リーンは魔力不全症だって。タフのお母さんは違ったの?」
「魔力不全症という病名は聞いたことがない」
「新しい病名なのか、いわゆる総称なのか」
「総称?」
「えっと、魔力に関する病気をまとめてそう呼んでるかなって」
「あぁ、魔力循環不全症とか魔力欠乏症、魔力供給過多症などをまとめてか。リーンの症状は魔力循環不全に近いけど」
「魔力は多いのに上手く巡らないって。なら魔力循環不全と魔力供給過多の併発とか?」
「あり得るかもな。上手く回らない魔力が自身を傷つけるなら、あるいは…」
「こちらの世界では人の体の仕組みはどこまで解明されてるの?」
「体の仕組み?」
「体組織というか、細胞とか諸々。病気の発生の理由?とか」
「あーそういう意味なら解明されてないだろうな。サイボーとか分からん」
「そうか…」
「シーちゃん、起きて!」
体を起こすと私を膝の間に入れて、本を取り出した。
アンナの日記…
表紙にそう書いてあった。日本語で。笑っちゃだめだよね?アンネの日記…のもじりかな。
「一緒に読んで欲しい」
みんなと読むべきかと考えたけど、タフの真剣な目が読んで欲しいと訴えていたから。頷いた。タフの長い指が本の頁を捲る。
―5月8日
突然の異世界転移。混乱する。ジョブの判定で⭐︎なしと言われて明らかに下に見るような、冷たい対応をされた。⭐︎なしは私ともう1人。私には彼のジョブが見えるのに、自分のジョブ見えるのに…。
私とその人は2人だけ他の人と隔離された―
そんな書き出しで始まる日記。
その後は私たちと似た感じで王宮を出る。もっとも追い出される前に自発的に出た私たちと違って、アンナさんたちは文字通り追い出されたようだ。
私は小さな声でタフの為にその日記を音読する。
追い出された後は王都でひとまず暮らし始めたとある。それでも知識がない為にかなり苦労したようだ。
なんとか冒険者になり、拙いながらも仕事をして日銭を稼いでいたとか。
そんな折、王様から
「王宮で働かせてやる」
と言われて、勤めるようになったとか。ただ、扱いは酷くて拘束時間は長いのに給料は安くて苦労したみたいだ。
そんな中、たまたま運んでいた機密文書を見てしまい、ハイランダー王国の陰謀を知ることになる。
陰謀の内容については何も書かれていない。
それからはもう1人の⭐︎なし転移者と一部の⭐︎3転移者と共に王宮から逃げることを決め、準備を進めた。
そして転移から1年経ってようやく王宮から逃げ出した。
それはまさに逃亡で、どうやら機密文書や宝石などの貴重品も持って逃げ出したみたいだ。何ヶ月とまともに給料も貰えてなかったみたいだからある意味、当然の対価だろう。
それからは私たちと同じようにノースナリス、ミドルナリス、サウナリスと進み、マイヤー経由でヤールカ国に移り住んだようだ。
ハイランダー王国とヤールカは隣国ではあるけど、仲が悪く、というか一方的にハイランダーがヤールカを嫌っていて、だから都合が良かったみたい。
一緒に逃げ出した6人でパーティーを組んで、半年ほどは穏やかに暮らしていた。それでもハイランダー王国から追っ手が来た。
ただの⭐︎なしの筈のアンナさんともう1人の⭐︎なしの2人を狙って。
そこでアンナさんは気が付いたようだ。⭐︎なしについて、王国は何かを知っていると。
その追っ手がキッカケで仲違いし、アンナさんはもう1人の⭐︎なし転移者と帝国を目指し、帝国に入国したところで別れた。
その理由は書かれていないけど、分かるような気がする。追われていたのなら尚更、分散した方がいいと思ったんだろう。
そしてゾッとした。王国は⭐︎なしのことを知っている。ならば、わざと外に出して苦労させて王宮に呼び戻してただ働きさせようとしたとか。
⭐︎なしについて何処まで知ってるのか分からないけど、私とレイキはとても危険な立場にあるんだと思い知らされた。
「シーちゃん…」
私の頬を撫でながらタフが声をかけてきた。あ、思考に落ちてた。
「何?」
「多分、シーちゃんとレイキは別れないよね。そして僕もだよ。1人にはしないから」
振り向いてタフに抱き付く。そう、タフのお母さんはきっと追われている2人は離れた方がいいと思ったんだろう。だから1人でなんとか暮らして、でも結果、幸せに生きた。短い時間だったかもしれないけど。
私と同じくらい若く転移したアンナさん。だからタフは自然と私に寄り添ってくれる。
「そうだね、多分…私とレイキは離れてはいけないと思う」
「うん、きっとね。2人のジョブは詳しく知らないけど…明らかに格が違う」
「うん…」
ぎゅっと抱きしめると
「大丈夫、俺は味方。ずっとずっとそばにいるから」
「くすっその言葉だけ聞くと熱烈なプロポーズなのにね?」
「あ、ほんとだ!ははっ…シーちゃんとなら結婚してもいいけど。まだ成人してないからダメだよ?」
「そんな気もないくせに」
「んー本当に構わないんだけど…」
肩をすくめた。私には無理だよ。
「今はここまでにしようか」
日記はおよそ20頁ほど呼んで終わりにした。まだそれなりの頁が残っているし。
着替えて居間に向かう。まだみんなは起きてこないから、朝食でも作ろう。
粉を溶いて卵と牛乳と砂糖を入れて混ぜ混ぜ。
付け合わせのハムとかレタス、茹でカリコリーを添えて。みんなが起きてきたら焼くかな。
少ししたら順番にタツキ、サナエ、レイキが起きてきた。なので、コンロにかけて焼く。
「甘い匂い…」
タフとタツキが手元を覗き込む。サナエはお皿に付け合わせを盛って、レイキは机を拭いている。
甘い匂い…堪らないよね?
何かと言うと、ワッフル。
レイキにミスリルで作って貰った。タフに見せたら憮然としてたけど知らない。だって沢山あるし?
「匂いがたまらない」
「久しぶり!」
「家でワッフルか、いいな」
「早く食おう」
それぞれの感想頂きました。
「頂きます!」
「「「「頂きます!」」」」
パクリ、おうっ甘くて美味しい。姫牛乳から作った練乳もいい味だ。そこにハムとかの塩味が入る。ヤバいな、止まらないぞ。
パクパクとみんなも無言で食べ進む。
ひとしきり食べると
「シーちゃん美味かった!」
「あぁ、朝のワッフルも美味いな」
「すごく美味しかった。ハムの塩味がね…」
「美味いよな、また作ってくれ」
「もちろん、レイキが作った道具だからね」
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