86.病気の子2
どうしよう…私は混乱している。
ラビが鳴いたので、顔を上げたら色素の薄い可愛らしい子が青ざめて目を瞑った。
慌ててラビを回収して受け止めようとして…倒れそうになってレイキに背後から支えられた。そして何故か私ごとレイキが抱き上げて、屋敷に向かう。
なんでこうなったの…?
色々と関わり合いたくないのに。でもこの症状は私がこの間、寝込んだのに酷似している。この子の色は間違いなくこっちの色。でもタフもいわゆる2世だから、同じと考えたら分かる。ただ、あの病気は転移者独特のものだと思っていたのに…。単なる気のせいで、普通に病気なのか。
考えている間にベットに寝かされる。
いや、なんでやねん!私にしがみ付くように倒れた子は意識がない。意識がないのに私にしがみ付いた手を離さない。離れないから私ごとベットに寝かされた。
色々とおかしいと思う。
助けを求めてレイキを見たけど、首を振られた。タフを見たけど肩をすくめられた。
目の前の子は私と同じか少し下くらい。
淡い色彩と長いまつ毛と華奢な体。儚い美少女。庇護欲をそそる見た目ではあるし、助けを求めてる子を放り出したいわけじゃない。
ただ、他人と密着していることも同性とはいえ同じベットに入っていることも違和感しかない。私は人との距離感を詰めるのが苦手だ。
今のパーティーメンバーやタフは特別だ。サナエは同性だし、変に距離感を詰めない。細やかな心遣いが出来る子だから苦じゃない。
タツキとは同世代の気やすさと、手つなぎをしていたことで抱っこも特に違和感がなかった。
レイキはやっぱりとても気遣いの出来る子で、レイキ自体も人とは距離がある。だから心地よい。
タフはこちらの感覚を全無視してガンガン距離を詰めてくるけど、イケメンの所以か…嫌な感じはしない。
無遠慮に見えて弁えてる辺りが悔しいけど憎めない。だから平気。
だからこのメンバーはある意味、かなり異例なことに距離が近くても大丈夫だ。
でも、いくら今の私の同世代であっても知らない子。だから凄く緊張するし、居心地が悪い。
レイキが私から離そうとしてくれたけど、がっちりホールドされてる。眠るのに謎だ。
でもね、もう仕方ない。諦めて寝よう。ふかふかの布団に子供体温でぬくぬく。
目を瞑るとスッと眠りに落ちた。
シエルは目を瞑ると寝たようだ。儚い2人の子どもはそれだけで絵になる。
そのシエルと子供を見ながら彼は語り出した。
「この子の母親はすでに故人で、まだ7才の頃に死別したんです。私はご覧の通りエルフで、若く見えるので..
後妻をどうかと周りから言われましてね。でもそんな気にもなれず、この子もいますし」
そこで言葉を切った。誰に向かってというよりは独り言のように。
「8才の頃からでしょうか、熱を出して寝込むことが増えました。元々体は弱かったんですが....あ、この子はリーンと言います。生まれつき体が弱くて。今も、寝たり起きたりの生活です」
シエルの症状に似ている。リーン、どちらとも取れる名前だな。
「この子の母親はマリナと言います。神秘的な黒い目に茶色い髪の女性でした...」
タフがピクリとした。
「いつくで?」
タフが聞くと憂い顔を上げて
「39才でした。結婚に頷いてくれなくてね。私は結婚しないと何度も断られて。101回目のプロポーズでやっと、です。渡してあった指輪を自らの薬指にはめて、私に会いに来てくれました。白いワンピースを着て」
ん?どこかで聞いたようなストーリー。
いや、まんま10◯回目のプロポーズじゃないか!指輪じゃなくてナットだったかもしれないが。そこは誤差だろう。
いや、今はそんな話じゃなくて、だ。危ない、シリアスな話なのに吹き出しそうになった。
チラッとタツキを見たら凄い顔をしてた。やっぱり知ってるよな...。
(僕は死にましぇーん...)
ぐほっ、誰だっ!てシエル、寝てないんかい!薄目を開けて俺を見るな。全く勘弁してくれ。
(迷わないで セイ イエ〜♪ )
だから歌うな!
はぁ油断するとこれだから…
(名前しか知らない…)
だよな、俺らの世代だと。ただな、俺の仲間にはドラマオタクがいてな。トレンディドラマを総なめした奴がいるんだ。見てもいない俺に切々と訴えられたんだ。
だから見てもないのにあらすじを知ってる不思議だ。
あいつ、元気かなぁ?
おっと思考が逸れたぜ。
「素敵な馴れ初めだな」
タフがポツリと呟く。きっとタフのお母さんも結婚することに悩んだんだろう。彼の横顔はとても憂いていて、目を惹きつけられる。
シエルが依頼人を見る。
「リーンちゃんは…ずっと1人で育ててるの?」
シエルの言葉を聞いて依頼人は少し変な顔をしたが
「そうだな、使用人以外は私だけだ。あ、今更だな。私はルシファーと言うんだ」
顔に似合う名前だな、と思ったら
「ルシファー・シングリウム。ここマイヤーを治める伯爵家の当主だよ」
特大の爆弾を投下された。
ピキリと音がしたかと思うほど、シエルの顔が強張った。それを見たルシファー様は勘違いしたらしく
「私が一緒に寝かせたのだ。責任を取れなどと言わないから安心しなさい」
そっちもあったか。
シエルが固まったのは貴族と聞いたからだが、まぁ誤魔化せたか。いや、待て。ヤバいだろ。同衾してるぞ。
シエルを見る。やっぱり気が付いていないな。
(シエル、リーン様は…)
「ん…あれ?うわぁっ…」
目を覚ましたリーン様がシエルとベットに入ってるのを見て驚いた。目をまん丸にしてから状況を確認して真っ赤になった。そうだろうな、リーン様は両腕でしっかりがっしりとシエルをホールドしてるんだから。
体は密着している筈だ。そう言う反応になるよな。
「あ、あの…」
シエルはリーン様を見て、おでこを合わせた。リーン様が固まってさらに赤くなった。
あちゃー、シエルもたいがい天然だからな…。
「熱はないみたい」
その声を聞いてまた赤くなったリーン様。
「な、名前…は?」
「シエル」
その耳心地の良い声に顔を赤くしたまま
「僕と結婚して」
シエルはキョトンとした。やっぱり気が付いていないな、これは。タフを見るとため息を吐いた。
「えっ…?」
「無意識とは言え、未婚の女性と同じベットに入って抱きしめた。僕が責任を取らなくては」
シエルはまだポカンとしている。
(僕っこ?平ら仲間じゃないの…?)
ぐほっ、やめてくれ。先に平ら仲間持ってくるのか。全く、相変わらずだな。自分のことには疎い。
レイノルドやライルの好意にも全く気が付いて無かったしな。やれやれ、だ。
「突然言われたらシエル殿が驚くであろう。体のこともあるし、まずは体を丈夫にして。それからだ」
リーン様は
「そうですね、父上」
と言った。
「シエル殿…僕はあなたを娶りたい」
直球だな、おい。
「シーちゃんにはもう候補がいるよ!」
タフがそう言って俺の肩を叩いた。えっ、俺か?!
(話合わせて!)
タフから念話が来た。先に言ってくれよ!
ほら、シエルの目もまん丸だ。驚くよな?急に言われたら。
「彼がね?」
俺は動揺を隠して頷く。
タツキとサナエは色々と追いついていないようだ。
(少女じゃない…)
(男の子…リーン…)
気持ちは分かるがな、明らかに男子だろう。タフも分かってたし。まぁシエルはルシファー様すら平ら仲間かも?とか言ってたし当てにならないが。
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