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星なし転移者と仲間たち〜逃亡中〜  作者: 綾瀬 律
マイヤーに向けて

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84.人工の湖

 私はタツキと手を繋いで最後尾を歩いている。私の後ろに続くヒナたちがいるのでね、先頭だと不便だから。

 よちよちと私に付いて歩くヒナたち。

 可愛ゆし…。


 門のところで笑われながら通過。入った門とは逆だ。おじさんは馬車に乗ってる。私たちはのんびり歩き…のつもりだったけど、距離があると言うので私たちの馬車を走らせることにした。

 黒馬を見て鳥さんがビビらないかな?と心配したけど大丈夫だった。

 馬の背中にも飛んで乗って、ご満悦な子もいる。


 ほとんどの子は馬車に乗り込んだ。

 例の荷台と普通の馬車を連結したあれ。で、私はヒナたちと荷台に座っている。ヒナたちはめいめい好きなことをしている。なのに、私の頭に鎮座する子は瞑想してるみたいに動かない。

 名前つけるなら師匠とか賢者だね!


(ぐはっ…師匠)

(賢者なり…)

 はい、レイキの吹き出しとサナエの呟きいただきました!


 ペシッ


 タツキに叩かれた。

 へへっ。


 ちなみに御者台にはレイキだ。

 サナエは馬車の中、タフは馬車の上、タツキは私の隣。

 この馬車を見ておじさんは驚いていたけど、今日中に移動させたいみたいで触れずに出発した。


 馬車で1時間すると、丘の上にお屋敷が見えた。お屋敷だ…凄い。

 まぁあのおじさんは従者?が2人と護衛4人いたからね。然もありなん、かな。

 あんまり関わりたくなかったなぁ、と思いつつ。


 で、着いた。

 お屋敷の裏手に湖があって、なかなか広くていい感じ。でも周りに木はないから、昆虫とか鳥さんの餌がない。しかも、敵から身を守れない。困ったなぁ。


 頭の上を見る。完璧なバランス感覚で見上げた私を見下ろす。

『これは無理…』

 だよね?どうするかなぁ。

 タツキを見る。頷くと

「木がないから…これでは天敵に見つかったら全滅だ」

 おじさんは驚いて

「そんな、どうしたら…」

 絶句してる。いやいや、考えたら分かるでしょ?


「木が育つまでは難しいな…」

 でもこの子たちどうする?水がないとダメだし。こんなに沢山いるし。

 チラッとタフを見る。首を振る。だよね?


「木はどれほどあれば…?」

 おじさんが聞く。頭上を見ると

『湖の周囲4分の1を覆うくらいは最低でも…』

 タツキを見ると

「凡そ、湖の周囲4分1を覆えるほどは無いと、隠れるにも昆虫を食べるのにも、な」


 顎に手を当てて考えたおじさんは、そのままスタスタと湖畔に向かった。ズボンのポケットから種を出すと(ポケットに種なんや?)、パラパラと撒いて地面に手をつく。



 ニョキニョキ



 はっ、えっ?えぇ…マジか。

 木がにょっきりと生えた。背の高い木に下草、お花まで。えっと、凄い!

 内包魔力は感じてたけど、ぼっこりお腹からは想像できない…ぽっこり、ぽっこりはどこ?!


 ぽっこりお腹のおじさんはいなくて、地面に手を付いた緑の髪の細い男性(多分)がいた。長い髪は腰まで伸びて、見るからなほっそり。

 突如出来た森を見て満足そうに頷くと立ち上がった。


 ほうけた私と違ってタツキ、レイキ、タフ、サナエは臨戦体制だ。私の頭の上の鳥さんは全く動じず、瞑想継続中。その温度差にプチパニックだ。どちらの反応が正解なんだろう?

 1人で焦っていると、元ぽっこりお腹おじさんがこちらを見た。


 若い、な。多分…20才前後かな。

 緑の長い髪に緑の目、尖った耳。白くてなめらかな肌にほっそりした体。胸は…平だ。でも私という事例もあるし、ワンチャン女子かも。私の仲間かもしれない!

 思わず拳を握った。仲間か、否か。


(ごふっ、おい!真面目な時に何がワンチャン仲間だ!)


 いやね、つい。珍しくタツキのツッコミだ。


「誰だ?」

 タツキが声をかける。その推定平ら仲間は

「依頼主だが?」

 冷静に返す推定平ら仲間。


(おい、平ら仲間とか言うな!気になって集中できないだろ!!)


 今度はレイキだ。


(平ら仲間…入れないヤツ)


 サナエさんは無理ですね、ハイ。


「さっきの姿は?」

「色々と面倒だからな」

 うん?バーバは知ってるのかな。

「ギルマスは知ってるのか?」

「あぁ、バーバだけは知ってるぞ」

 あーもう、後で16文キークッだ、バーバめ。知っててかい。何か言ってくれたらいいのに。


「エルフか…」

 推定平ら仲間は

「君も、同族の血が入ってるな…」

 タフは肩をすくめる。

「騒がれるから、だけの理由か?他にも隠してるなら、このまま帰るぞ!」

「病弱な子がいるのは本当だ。弱みになりかねんからな。隠していた。それ以外には何も無い」

 タフはじっと見てから

「分かった」


 まぁね、頭の上の子がどっしりしてるし、大丈夫でしょ。頭上を見上げて

『いい感じだよね?』

『良き…さぁみんな、入るよー』

 私の頭から飛んで湖に着水。次々と鳥さんたちが湖へ、そしてヒナちゃんも続く。

 湖の中は大丈夫かな?


(澄んだ水…まだ少ないが水草も少しある)


 魔法通信さんが答えてくれた。

 でもやっぱり前の湖の水はあった方がいいよね?


(必要、ここはプランクトンが少ない)


 どうしたら…。とレイキを見れば頷く。何が?キョトンとしていると


(あちらの湖と水だけ繋げたらいいんだろ?)


 出来るの?えっ、マジ凄い。チートだ…。尊敬の眼差しでレイキを見たら…


(ぐはっ…やめろ。逆に怖い)



 失礼な!私のお目目まん丸な期待の眼差しを。


(お目目まん丸…)


 サナエさん、何か?


(自分で言うんや…)


 けほっ、鋭いツッコミ頂きました…しょんぼり。

 さり気なく私の前に庇うように立っていたレイキとタフに頭をよしよしされた。


「残念だが…平ら仲間は、男子だな」

 ボソッとレイキ。タフはぐりんとこちらを見て

「平ら仲間?!」

 目線が顔から少し下がって明らかに笑うのを堪える顔をする。

 大きな声で言わないで!思わずタフの背中をバンバン叩いた。恥ずかしい。

「俺はシーちゃんが平らで良かったよ?」

 フォローになってないから!もう。


 推定平ら仲間は変な顔をして

「ここには人を呼んだことがない。会ってやってくれないか」

 私は深入りしたくなくて全力で拒否したいと思った。反面、元気付けたい気持ちもあって反応できなかった。

 でも我らがリーダーはやっぱりリーダーで

「もちろんだ!」

 と答えていた。


 タツキはきっと正しい。

 でもやっぱりそれでいいの?と思ってしまう。ここはまだハイランダー王国だから。


(悪いな、シエル。子どもって聞いたらな。何だかしてやりたいって思ったんだ)


 タツキは正真正銘のおとんだからな、私みたいに子供がいないおかんもどきとは違うんだろう。その事に自分で傷付く。


「子供のいない人はキツくて嫌だな」

「理解がなくて困る」

「所詮はな、子無しだろ」


 そんな揶揄は何度もあった。

 子育て世帯に優しい会社を謳うのはいい。人材を確保するためにも必要だろう。でも、急に休まれたときのフォローは()()()()()()()()()()()()。仕方ないと言う人は、自分が振られる側じゃない。自分の仕事と他人のフォロー、新人の育成に全体の統括。やることは沢山あるのに、当たり前みたいに言われるのが悔しかった。


「子供いないし、休まないでしょ!」

 休む事に罪悪感を持たされるようなことは何度もあった。風邪をひいて休もうと電話をしたら

「◯◯さん休みだし、困るよ」

 言いようのない憤り。


 ふと、それを思い出してしまった。今は関係ないのに、所詮子供も産めない奴には分からないと言われているようで。ダメだ、やっぱりトラウマは消えていない。

 俯いて手を硬く握る。

 タツキは何も悪くない、私が、私の心が頑なで狭いから。


 ふわりと誰かに抱きしめられた。

 レイキ…?

(体の力を抜いて、俺に寄りかかれ)

 52才の自分がそれを拒否しようとする。体を強張らせると

(13だ!今は13で、俺より年下だ)

 あっ…。前の世界に引きずられる私をレイキが呼び戻してくれた。体の力を抜く。


「俺たちはここで鳥たちの様子を見てる」

 良かった。今は会いたくないから…。





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