83.番の鳥
5人で依頼を受けて近くの湖に向かっている。そこにいる茶色い水鳥の捕獲。しかも番で。
捕獲だから殺さない。生捕りだ。大丈夫なのかなぁ、鳥さん。マンティ見て大混乱になりそう。
魔法通信さんによると、水鳥は魔獣じゃない。普通の動物だ。捕獲したらどうするのかは不明。鴨なら食用にはなるんだろうけどね?
ふとあちらの世界で季節になると鴨の親子の引っ越しを特集していたことを思い出す。そして、改めて平和だったんだなって思う。
野生の鴨の親子、その引っ越しを追いかけてテレビで放送するんだから。余裕がなくて平和じゃないと出来ない。
ほわほわの子供がてけてけ歩く姿は可愛かったなぁ、今日見れたらいいのに。
それをフラグと言うんだと、改めて思った。
はぁ、どうしてこうなった…。
予定通りの薬草採取と鳥の番を確保した。そこまでは予定通りだ。で、私たちの周りにはたくさんの鳥の雛。
タフの頭の上や肩に、タツキのカバンの中やポーチに、レイキの腕の中と背中に、サナエの胸の上に。
そして、私の周囲にこんもりと…。振り返れば私の後ろに列をなす雛。
はぁとため息を吐いた。タフはもう顔が固まって無言だし、レイキは笑いを堪えてお腹をぷるぷるさせてるし。
サナエとタツキは嬉しそうだけど、ね。
湖に向かうといたんだよ、茶色い水鳥が。それはもう湖面を埋め尽くすほどに。予想と違う。
広い湖に子育て中の鴨親子がちらほら、だと思ったんだけどな。これはいかに?
呆然と見ていたらやっぱりごちゃ混ぜ過ぎてケンカが勃発。あちこちで羽や赤が舞う。血、かな。
どうするのが正解か分からずに見ていると、タツキが動いた。まずは手前にいた番とその子共を確保。依頼達成だね?
すると救世主と思われたのか全方位から鴨が子連れでタツキに群がる。
今度はサナエがタツキの救出に向かい、群がられた。タフを見る。
「何が正解なの?これ」
「まぁ眺めてるだけ、かな。いつものことだろうし、人が介入するのもな」
すでに介入してる現実をどうしたら?
少し諦め顔でタツキが湖に近づくと、一斉にタフに駆け寄る親子。あれかな?生存本能でタフが強いって分かったのかな…ふぁいと!
と思っていたよ、私は。なのに…列をなして私の後ろにてけてけついて来る鴨親子。
タフをジトっと見る。う、目を逸らした。もう…。
群がられそうになるとタフは私の方に戻って来た。いや、やめて?
遅かったか、既に私を抱えて湖から離れる。そして…いい具合に湖から鴨が減っていた。
着いて来た鴨たちはガアガアと鳴く。責任取れって言われてそう。タフを見ると
「シーちゃんはもふいの好きだよね?」
…言うに事欠いてそれか?
もう仕方ないな。
「ただではダメだよ!抜け羽の献上を要求する!」
ガァガァとまた凄い声が聞こえて…ドサッと抜け羽が目の前に山となった。
…なんで?
『蓄えだよー!』
目の前の一際大きくてきれいな色の鴨が喋る。
なんと、蓄えとは。
「どこに蓄えてたの?」
「羽の間ー」
「凄い!」
『えへへっ』
(ぶはっ…おい、気にするとこはそこかよ!)
レイキは安定の吹き出し。
(蓄え…)
サナエの呟きもセットだね!
うんうん頷いていたらタツキにペシリと肩を叩かれた。
「元凶はタツキだよ?」
「うっ…」
「で、どうするの?」
「羽も貰ったし…な」
確かに。
って事でワイワイガヤガヤと鴨を連れて薬草採取。
それがね、鴨が嘴で取ってくれる。とても上手に。頭を撫でると胸を張る。可愛い。
適度に昆虫なんかも食べてて満足そう。でもね…多すぎる。鴨肉は欲しいけど愛着が沸いてしまってしめられない。
『お肉も献上するー』
えっと体は大丈夫なの?
『大丈夫だよー!脱皮じゃなくて脱肉?するから』
よく分からないけどありがと?
そしてゾロゾロ引き連れて町に戻った。凄く凄く注目された。頭にも肩にも、後ろから茶色い鳥に小さなほわほわの雛。もちろん、盗もうとする人もいる。
なのに、ほわほわの雛がキックしてた。私は何も見えない…キックとか見えなかったし、された人が吹っ飛ばされたのも見えてない。
タフの手を握りしめて前を見て歩く。
ギルドに入ると職員が
「ふはっ…ぐっけほっ」
リアルに吹き出した。
「マジか…」
誰かのつぶやきがこだまする。やめて?その痛い子を見るみたいな目は。
で、私たちはバーバさんの前に座っている。
16文キークッ!
(ごふっおいこら!)
タツキのツボだね?
(ジャイアント…)
サナエの呟きも完璧だよ。
「お前らな…はぁ。限度って知らんのか?あ?なぁなんで番の採取が群れごと引き取るになるんだよ!」
知らないもん。タツキとタフが悪い。
だから何で私なの!むう。
バーバさんのお膝抱っこで頭をぐりぐりされている私。解せぬ。
目の前でレイキはリアルにお腹を抱えて爆笑してるし。私の頭の上にはあの大きな鳥さんが鎮座してる。もう目を瞑って瞑想中だよ。
バーバに撫でられても傾く事なく鎮座。すごい平衡感覚だね?
「ぐほっ…」
レイキをジトっと見る。
「で、どうすんだよこれは…」
「ね?」
と私が言えば、チラッと見てため息を吐かれた。
そこに扉がノックされる。
「ギルマス!連絡取れました。それがその…」
「来てやったぞい!!」
立派なお腹のおじさんが入って来た。咄嗟に俯く。なんとなく装いがね、警戒感を煽る。
「せめて言伝を…ほら、小さな子がこわがってる」
つい驚いてバーバに抱きついた私を指して言う。
「お、それはすまなんだなぁ。大丈夫、ワシは怖くない
ぞ?」
顔を覗き込まれて引いた。
「ぬ?これはまた…」
そっと頭を撫でると
「で、何だ?」
身なりのいい人にバーバさんが声を掛ける。
「茶色い水鳥の件じゃな。いや、しかし壮観よのぉ」
バーバはその紳士を見て
「それなりに偉いお方で、依頼主だ」
「希望は番であるが、それなりに引き取ろう」
えっと引き取ってくれるの?でもお肉とかにするなら…。
「ふふっ安心せい。静養地に放し飼いにしてな、そこの湖で繁殖させたいじゃ。食べはせん」
バーバを見上げる。
「体の弱いお子さんがいるんだ。その子はここから少し離れた場所で暮らしてて。そこに作った湖に放ちたいんだろう」
人工だとこの子たちのエサが無いかも。頭を上を見る。
『見ないと分からないけど…エサが無いかも…』
鴨だけにね!?
(ぐふっ、おい…やめろ!)
めんごめんご。
(めんご…)
サナエの呟きも威力増しましだね!
パコン
鴨に頭を羽で叩かれた。
さーせん?
「バーバさん、人工の湖だと鳥たちのエサがないかもしれない」
鴨だけにね!
タツキが歯を食いしばる。
(おいっ!)
ごめんて、ついね。
「何ですと?」
「鳥は水中でエサを食べてる筈だ。小魚とか」
おじさんとバーバさんはあっという顔をする。
「ど、どうしたら?」
私は頭の上を見る。
『湖の水があれば…』
小魚はプランクトンとか藻を、食べるよね?確かに水だな。プランクトンか、うーん。分からん。
「湖の水を入れて…しばらく様子見だな」
『私たちはシエルの魔力があれば大丈夫!』
でも私はそばに居られないし…?
『遊びに来て!』
それだけでいいの?
『湖に馴染めるように頑張るから』
それね、分かったよ。
おじさまとバーバさんも頷いた。
そして鴨たちは雛も含めて譲渡される…筈だった。そう、予定は未定。
『私はあんたの魔力がないとね?』
大きな鳥さんに言われ、腹の出たおじさんにも
「湖まで頼む」
と言われた。やむをえまい。って事でまた大移動。
町中ではヒソヒソと囁かれたよ。私の頭に鎮座する鳥さんを見て
「ボスを従えてるぞ!」
「小さいのに凄いな」
「ほわほわだー」
「1匹くらい盗める!」
などなど。盗めると言った人がすぐ後に近くの壁に激突したのとか知らないよ?
「がぁがぁがー!」
「「「がぁー!」」」
勝どきのような声が鳥さんからしたとかも知らないよーっと。
怖いのでこの子たちのことを魔法通信さんで聞いてない。なんか知らない方がいい事もあるからね。
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