79.スライムが…
そんな時、レイキと同時にあるものを見た。
「「あっ!」」
同時に駆け出すと膝を着く。小さな窪みに体を隠すように震えている。
「見たか?」「見たよ」
レイキはそっとかがむと
「大丈夫だから、出ておいで…」
手を差し出す。
ひょこっと音がするような感じで窪みから体が半分覗く。
やっぱり。
なおもレイキが手をそっと差し出すとつんつん突いた。
レイキはぴくっとしたけど動かずにいる。
そして体を完全に窪みから出してレイキの手に乗った。なんと奥からも出てきた。
…たくさんいるね?わらわらと後から後からやって来る。
どうしよう、たくさんいた。
膝を着いて固まっている私たちに気が付いたタツキが近寄ってきた。
「どうした2人とも…はぁ?」
そうなるよね。
タフを見上げるとにっこり笑った。
はぁなんでこうなった…。
「それは俺の台詞、なんでこうなる?ねぇシーちゃん。ものすごく珍しいんだよ!」
それはまぁそうかもね。
だってさ、私とレイキのお膝に乗ってるのは小さなスライムたち。
ふわふわした綿みたいな子とか青と透明の千鳥格子柄とか透明に水色のメッシュ柄、はては透明にピンクの花柄まで。
私たちが見つけたのは透明に白のメッシュ柄の子。
そしたら後ろから千鳥格子ちゃんとか花柄ちゃんが出てきた。
綿みたいな子も出てきて、そしたら銀色と金色の子まで。
うわぁってじっと見ていたら
(綿:雪スライム 千鳥格子:格子スライム メッシュ:メッシュスライム 花柄:花柄スライム 金:ゴールデンスライム 銀:ミスリルスライム)
と見えた。いや、私は何も見えてないよ…(棒読み)
「ぐほっ…」
レイキのリアル吹き出しに反応できない。なんでこうなるの?
『みんな僕たちが見えないんだよー』
『だよー』
『見つけてくれてー』
『くれてー』
『おいしい魔力もー』
『魔力もー』
『くれたの!』
『くれたの!』
いつ、だれが…魔力を?
『小さい子ー』
『チビっこー』
『優しい魔力ー』
『ふわぁって』
『くれたよー』
『くれたのー』
…そっと後ろを振り返る。ちびっこって誰?
ぐりんと頭を前に戻される。
「シーちゃん以外にいる?」
足元のあーちゃんを見る。肩の上のラビも見る。
器用に首を振った。なぜ?!
「ほら、もう小さい子なんてシーちゃんしかいない」
首元のマーブルを見る。ふるふる震えた。さらに触指をだして器用に横に振る。
いつそんな芸を覚えたの?偉いね…。
って違う!そうじゃなくって。
背後からも冷気が…レイキじゃなく冷気。
「ぶほぉっ、だから不意打ちはやめろって!」
「シエル…この子たちは?」
振り返る。サナエが笑顔だ。わちょーいってぽよんにダイブできない感じの笑顔。
可愛い子の笑顔って怖い、目がマジな感じ。
「うふっ可愛い子って?シエルの方が可愛いよ…?で、この子たちは?」
絶対零度ってこんな感じ?
「見えてね?」
「見えたのね?」
「レイキが見つけてね?」
「レイキが?」
うんうん頷く。
「魔力は?」
さぁ?まったく身に覚えがございません。
ふぅとサナエがため息を吐く。
「目立ちたくないのに?」
不可抗力?
「マンティコアとか、普通と違う黒馬とか…」
「…」
そっとレイキの袖を掴む。もう泣きそうだ。
『ママをいじめないでー!』
あーちゃん…
『いじめないでー』
ラビ…
『『やりすぎなのはママの運命なの!』』
…やり過ぎてないよ?
『いじめないでー』
『僕たち見つけてほしかったの』
『だから、ごめんなさい…さみしかったから』
『役に立ちたくて…ごめんなさい』
「ごめんね、見つけたのが私で。連れていけないんだ…」
スライムたちはきゅうと小さくなってからしおしおと洞窟の窪みに戻り始めた。
「えっ、そんなつもりじゃ。もう、連れて行くよ!」
サナエが声をかける。
くるっとこちらを向く(多分)とすすすーっとサナエに群がった。
なんか違和感を感じた。サナエの冷気は本物で、怖かった。私の手をレイキが握る。レイキも何か違和感を感じてるみたいだ。
「シエル、その…ごめん」
振り返るとスライムに埋もれたサナエがいた。
「なんか、目立ちたくないのに、またって思ってしまって」
レイキの手を握る。それは私のせいなの…?
「サナエは心配してるんだよ!」
タツキが言う。そんな感じじゃなかった。レイキが手を強く握り返してくれる。しばらく沈黙が落ちる。
「先に帰ってくれ」
レイキがサナエとタツキに言う。私は俯いたまま顔を上げない。
わらわらとスライムたちは私の元に来る。
「連れて帰れないよ…ごめんね」
そっと撫でるとぷるぷる震える。こんな状態で連れて帰っても仕方ない。
「シエル、違っ…」
「先に帰れ」
レイキが抑えた声で重ねて言った。サナエとタツキは何か言いたそうにしてたけど、そのまま帰って行った。私はマンティを呼ぶ。
嫌そうな顔をしたけど、サナエたちに着いて行ってくれた。
「ふう…まぁなんだ、今まで衝突しなかったのがな…表面化したな」
「…」
タフの言う通りなんだろう。きっと。でも…やっぱり飲み込めない思いはある。
「スライムは連れてくぞ?俺が責任を持って」
みんな勝手だ。
「マーブルの時、散々嫌そうな顔をされた…」
「そ、それは…いや、ごめん」
私が好き好んでやってるんじゃないのに。
「ごめんな、シエル。今回のは完全に巻き込まれだよな。俺なのに…」
「あー取り敢えず、今回は俺が連れて帰るからな!で、せっかく妖精たちが案内してくれたんだ。高純度のミスリル、貰おうぜ!」
「いいのか?」
「管理外の鉱山だからな!普段は隠蔽してるみたいだし、問題ない」
ということで、気分を変えて採取だ。
『ダメだったー?』
『ここのスライムたちは人が大好きで』
『人に会えて嬉しかったんだよ…』
『ごめんなさい…』
「みんなは悪くないよ!こっちの事情でごめんね」
「そうだぞ!凄く嬉しいからなっ」
『ほんと?』
『ほんと??』
「「ほんとだよ!!」」
『やったー』
『良かったー』
『手伝う!』
賑やかに採取って、自分で採れるならレイキの手伝いいらなかった?
『さっき魔力を補充したからだよ!』
『そうだよー』
なんかルールがあるのかね。
で、あっちのは水晶かな?
『水晶だよー』
『天然だやー』
『アメジストもあるよー』
なぬっ?
ここ掘れわんわん!
ドカンッ
うほーい、あざまーす!
「これはまたきれいだな…。シーちゃんに似合う!」
銀と紫は合うよね!
たくさん採りました、ありがとう。妖精たちと元の鉱山に戻る。必要な普通の鉱物を採って帰ろう。
スライムはタフの肩とか頭に沢山いる。
ちょうどマンティが戻ったので、そこからは普通に採取をして、普通に…
ドカン
バコン
ズズン
普通に…マンティ!
鉱山を壊す気かな、君は。
翼をはためかせてドヤってるマンティ…可愛い。よし、許そう。
こうして、荷馬車に大量の鉱物を載せて帰路についた。
馬は黒馬なので、鉱物が載ろうが全く関係なく進む。もちろん、レイキが風魔法で浮かせてるしね。
「シーちゃん、彼女は多分…とても焦ってたんだよ」
タフを見る。
「シーちゃんが体調を崩して、でも自分は何も出来なくて。だからってね、さっきのは無いけど…。俺も同じような反応したから。心配でさ、ついね?」
小さな子じゃ無いのに。
「まぁ自分勝手だよな、シーちゃんに当たってるみたいで。きっとシーちゃんとレイキならなんとでも出来る。それが余計に悲しいというか、さ」
私には分からない思いだ。何も感じてない訳じゃないし、色々考えてるのに。スライムだけを捉えて好き勝手にやってると思われたのなら悲しい。
使い勝手のいいジョブはそれだけ周りとの軋轢を生みやすい。確かに、今までが順調過ぎたんだろう。難しいな、色々と。
馬車を返す必要もあるからと、冒険者ギルドに向かう。
当然ながら、ミスリルの発見は大きな騒動になった。まぁ全面的にタフが引き受けてくれたけどね?
私とレイキは後で手を繋いで大人しくしてたし。それと発見の功労として金一封が貰えたのは嬉しい誤算かな。
そのまま、必要な分の買取をしてバーキンの元に向かう。注文はしてあったからね。
私の体調不良とタフ、バーキンのこととは昨日の夜にみんなと話し合った。
衝撃を受けたのはタツキとサナエ。ひと足先に私とレイキは知っていたし、タフは私たち異世界人を探していたから。それはバーキンも同じ。
その話を聞いて、思うところがあったのか。だとしても、早死にするのは間違いなく私とレイキ。所詮は自分の事じゃない。それに、早死にと言っても数年後じゃない。
悶々と考えていたらバーキンの工房に着いた。
扉は閉まっていたから外から叩く。
「いらっしゃい」
扉を開けてバーキンが顔を出した。奥の部屋には乱れたソファと女性の足。
「おじゃまだった?」
「もう終わったから大丈夫!」
朗らかになんて事言うんだよ、もう。
奥の扉を閉めて工房に戻ると
「鉱物採れた?」
と聞く。頷いてカバンから取り出すとバーキンの目がまん丸になって固まった。
「はぁぁ、ほんとシエルは期待を裏切らないね」
私じゃないし。
「超高純度のミスリルじゃないか…これはもう、はぁ」
ため息を吐かれた。
他にも必要な鉱物を預けて宿に戻る。でも途中で足が止まる。
「シーちゃん?」
「シエル…?」
足が動かない。
「レイキ、今日は俺とシーちゃんは別の宿に泊まるから」
「なら俺も!」
「じゃあ宿を決めてから、伝言を頼む」
「分かった」
こうして私たちは私が魔法通信で調べたそれなりに高級な宿に3人一部屋で泊まることにした。レイキは心配かけないようにと宿に向かおうとしたら、宿の人が伝言を頼まれてくれた。良かった、ちょっと今は無理だ。
*****
タツキと鉱山から徒歩で戻る。さほど町から遠くないから、大丈夫だけど…。
「はぁ…」
ため息が出る。私、何やってんだろう。あれは完全な八つ当たりだ。今回はシエルが引き寄せた訳じゃないし、妖精たちの感謝で。
たまたま変わったスライムが沢山いただけ。まぁ妖精が見えたのは鑑定があるからだけど、だとしてもアレはない。なんであんなに怒ったのか自分でも分からない。
分かるのはシエルが固まってしまったことと、レイキが怒った事。きっとシエルはなんでって思った筈。さらにまたなのって思って、と言ってしまった。
口から出た言葉は戻らない。シエル…最後まで顔を上げなかった。
でも、歩く私たちの後ろからマンティが付いてきた。とっても面倒くさそうに。きっとシエルが頼んでくれたんだ。私はなんて酷いことを。
マーブルを見つけた時のタフより酷かった。嬉しそうに私に擦り寄ってきたスライム。なのに、シエルは連れて帰れないって…なんであんな事を私は言ったんだろ。
足を止めた私の背中をタツキがそっと撫でる。
「私、酷いことを…」
「そうだな、シエルは今回何もしていない」
「あんな言い方…」
「ふぅ、元には戻せない。いつかはくることだったんだろうな」
「でも…あんな言い方」
「したのはサナエだぞ?」
「そう、よね…。自分で言っておいて何を今更、よね」
「自分で考えて、シエルと向き合え。まぁ俺もレイキから見たら同じなんだろう」
レイキは口数が多くない。それでもシエルの異変に早く気がついて、彼なりに考えた筈だ。シエルと同じ⭐︎6ならレイキだって同じなんだから。
私は怖かったのかも、置いていかれるのが。でも、あの態度はない。はぁこの世界にちーこはいない。人に頼るんじゃなくて自分で解決しなきゃ!
顔を叩いて前を向く。話し合わなきゃね、というか言い訳をするだけなんだけど。また笑い合えるよね?
その夜、シエルもレイキもタフも帰ってこないと連絡があった。私は崩れ落ちて泣いたけど、タツキは慰めてくれなかった。
覆水盆に返らず…
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