76.バーキンに会う
私はタフの腕から抜け出すと、あーちゃんとラビと共に部屋を出た。
向かうのは馬房。マンティを連れて行く。
何があっても安全だからね!でも、昨日一日寝込んでたから、ご飯どうしてたかな。
心配もあってね。様子見しつつ。
私に気が付いたマンティの起きる気配。中を覗くと伸びをしながら大欠伸だ。
『もう良いのか?』
何が…?
『魔力が乱れておったからな』
「離れてても分かるの?」
『当たり前じゃろ、我は聖獣ぞ?』
「凄いね、マンティ…」
頭を撫でると嬉しそうに目が細まる。
「お腹空いてない?」
『お前の仲間が持って来てくれてな、少しは食べたぞ!でもお前が作るものじゃ無いと魔力がなぁ…』
「作り置きだけど…」
ポーチからほかほかのステーキを取り出す。
あ、こら…あーちゃん。お腹空いたよね?リリも姫と王子も、何故か馬たちもやって来たのでドンッと出した。
私はエオンのコーンスープを飲む。ふーふーコクン…沁みるね。ふーふーしながら飲み切る。
今はこれで充分かな。
みんなも満足したみたい。
「マンティ、乗せて行って欲しいところがある」
『工房か?』
「何で分かるの?」
『聖獣だからの』
謎だけどまぁお願いするか。
マンティに跨る。
「なるべく低くゆっくり飛んでね?」
『分かっておる!』
腕にあーちゃん、肩の上にラビを乗せて出発だ。
「場所は分かる?南のね…」
『分かる!お前に触れてれば記憶が読める』
「お願いだよ」
まだ夜が明けない時間。東の空がほんのりと色づき始めている。シンとした空気の中、活動し始める人たちの気配。私は、朝のこういう時間が好きだ。
マンティは家の少し上をゆっくりと飛ぶ。そのきれいな翼で悠々と。なのに風を感じない。
『当たり前じゃな!』
不思議な感覚だ。夜に溶けそうな…穏やかな気持ち。
やがて高度を落とし、間違いなくあの工房の前に辿り着いた。そしてバーキンは起きていた。
工房の扉が開く。
「来るかなって思ってた…」
自信なさげに微笑むバーキン。
「こんな夜明け前に?」
ふふっと笑う。そしてマンティを見て
「凄い!ライオンだ…あ、どうぞ」
中に入れてくれる。
奥に進むとちょっとした休憩スペースだ。
「ここは休憩スペースで、上には住居があるよ」
バーキンはラフな格好をしている。私はもちろん着込んでるよ!
「今日、いやもう昨日か…君の仲間が来たよ!」
仲間が?タフじゃないな。
ふと周りを見回す。これは…えっと。レイキの魔力?
ぶわっと顔が熱くなる。
「あはっ可愛いね。君はグスタフさんの家族?」
「…」
近づいて来たバーキンが私のフードを取る。マンティやラビが反応しないなら、大丈夫なんだろう。
「!!!」
驚いている。何でだろう?
口に手を当てて私を見たバーキンは涙を流した。
えっとどうしたら?
マンティを見ると、後ろ脚で耳を掻いて欠伸をした。興味ないらしい。
あーちゃんは、寝てるね。ラビは…丸い毛玉になってるね。
「なんて儚くて美しい…」
サッと跪くと
「僕に君を守らせて…」
「…」
どう反応したら?
手の甲にキスされる。
「そんな可愛い顔を見せてくれたお礼をしないと。上に来て…あぁ何もしないから。いや、ほんとはしたいけど…嫌われたくないし」
彼に着いて行く。そこで、鍛治師は気性も荒いけど夜の方もなかなかな人が多いと聞いた。というか、そういうスキルにはそちらの欲も高める効果があるんだとか。
「僕自体はそんなにね、気持ちとしては…だけどさ。やっぱり体がね。だから夜にこの辺は歩いちゃダメだよ?売ってる女や男に、普通の人だと攫われるから。でね…分かるよね?君はそんな特徴的な見た目だし。鍛治の神様は女神で、銀髪なんだよ」
絶対に夜はここを歩かないと決めた。怖過ぎる。
「しかもさ、鍛治師が多いからね、趣味趣向も様々で。小さな子が好きな変態も多いし。シエルは小さなってほどじゃ無いけど、やっぱりね?」
もう恐怖しかない。
「バーキンはその…」
「僕はオールラウンダーかな。もちろんシエルが望めば抱いてあげるよ!」
「…遠慮しとく」
「だよね?そう思った」
部屋に着くとあるものが目に止まる。
まさか…?
「やっぱり気がついた?」
目が覚めるとシーちゃんがいなかった。慌てて部屋を出る。ここにもいない。まだ体調は安定していない筈。なのに?
宿を出て裏手の馬房を除く。やっぱり…マンティがいない。何処に?
行きそうな場所の心当たりなんて無い。でも知ってる場所、と言うか知ってる人は1人だけだ。
ならば、と出掛けようとして珍しくレイキが起きて来た。
「シエルは?」
首を振る。
「行こう」
レイキも可能性が1つだと分かったんだろう。そして、彼のまとう魔力は…。
チラッとこちらを見ると
「彼のスキルは凄いな…鍛治関連のスキルは夜にも強いらしい」
あぁそう言えば聞いたことがある。一種の高揚感というか、やり切った感は興奮と紙一重で。こちらの欲が高まると。
本人の意思とは関係のない欲求なんだと。
ただ、それとレイキが結び付かない。そっちの方は淡白だと感じていたが。
「シエルが倒れた不安とか…そういうものを見透かされた感じだな。癒し系のスキルまで持ってる」
「レイキのは鑑定だな?」
「タフも、だろ?」
「そうだね。今更だよね?シーちゃんはとことん俺に興味がなくて…気が付いて無いけど」
「興味がないというよりも、警戒してない、かな。俺は警戒してたから見てた。その違いだ。普通に警戒心は強いくせに、甘いんだよ」
「あー分かるかも。シーちゃんて強がりなくせに素直だよね」
「だから守らないとなんだよ」
「そうだね…。レイキは、レイキを信じていい?信じてくれる?何もかも話す必要は無いけど、信じてくれないと助けられない」
「ふう、信じるさ。シエルを心配する様子は本物だ。それさえ分かれば信じる」
「シーちゃんのことばかりだね。自分はいいのか?」
「自分のことは自分で納得できる。でも、シエルの事はそうじゃ無い」
「守りたいから?」
レイキは真っ直ぐにこちらを見ると
「守られてるから、かな」
「ふはっ…確かに。僕もシーちゃんに守られてる」
「アイツは人の気持ちに敏感だからな…無意識だろうが」
「だから目が離せない」
「一緒に守ってくれるか?」
「もちろん、レイキも守る。それが俺の生きて来た意味だから」
「頼りにしてるぞ」
拳を触れ合わせる。
工房に着いた。そしてまるで来ることが分かっていたみたいにドアが開く。
「おはよう2人共。シエルならマンティコアの翼に包まれて寝てるよ」
やっぱりただの鍛治師じゃなかったか。
コイツは多分、マコト・ツルヤの関係者だ。俺に文字の意味を教えてくれた彼の。
2階の居住スペースに上がると、ソファにマンティが横たわり、その翼から髪の毛が見えた。
上着は椅子に畳まれて置いてあるが、服は着てるな。少しだけ焦った。
その髪の毛を撫でる。マンティの背中を撫でると
『大丈夫だ、よく寝ておる』
「守ってくれたんだね!」
『守護者だからな』
ホッとした。
「バーキン」
「何もしてないよ?僕はただ…叔父さんの力になりたくてね。君、だよね。叔父さんに文字を教えてもらったのは」
「そうだ」
「読みたいものが、いや。知りたいことを知る為、かな」
バーキンは棚から箱を取り出すと、中から本を取り出した。洋皮の表紙だ。渡される。
俺はレイキと共にその頁をめくり、中を見た。
これは…。
「日本語…」
ポツリと溢れたレイキの言葉。それは…何故か胸がドキドキした。
眠るシエルの髪を触る。俺は…見つけられたのか?本当に。
*読んでくださる皆さんにお願いです*
面白い、続きが読みたいと思って貰えましたらいいね、やブックマーク、↓の☆から評価をよろしくお願いします♪
モチベーションになります!