75.グスタフの気持ち2
シーちゃんが起き上がらない。寝てるにしてはね、しっかり眠れたって言ってたのに。
様子を見るとやっぱりおかしい。だから抱き上げれば熱がある。
悪寒がした。これは…亡くなる数年前から母さんがなっていた症状に似ている。
熱を出して寝込む。しばらくすると何もなかったみたいに元気になる。
読めない母さんの日記の中で、よく出てくる言葉を解析した。母さんと同郷と思われる人たちは口を閉ざしたけど、文字を教えて欲しいと言う願いを聞いてくれた人がいた。教えてもらったのは知りたかった単語。
そして分かったこと。
それは書き残してたのは治療法。母さんの症状を治療出来る方法。
そしてその他に何度も出て来た単語は
「後悔」
「遅すぎた」
「愛してる」
だった。
母さんは自分の症状の治療法を知っている。でも間に合わなかった。だから助けてあげてと俺に日記を託した。
鑑定は後天的には生えないスキルだ。
俺は母さんから何故か譲り受けた。そして空間拡張カバン。
ある時、容量がおかしいと気がつく。そこで頭に浮かぶ表示が2種類あると分かった。
(****)
と表された方は多分、時間停止。
それは亜空間に繋がる。父親から聞いたことがある。エルフは空間魔法が得意な人が多く、個人の空間、いわゆる亜空間を持っていると。
母さんはそれを俺に託した。その中には薬の材料となる素材が入っていた。
俺たちが住む森の、その場所にしかない薬草。
母さんは生きるためにあの森に入り、父と出会った。
そして幸せを掴んでしまった。
結果として母さんの研究はそこで止まり、再開するも既に遅かったのだろう。
思うに、母さんが部屋に籠るようになったのは体調を崩しやすくなってからだ。
シーちゃんたちはまだ先だと思っていたのに。
何故?
底の見えない能力。ジョブの強さに比例するならば…その能力は命を削ってる?
分からない、でも怖い。シーちゃんまで母さんみたいに…嫌だ。
僕はその為に生きて来たんだ。絶対に死なせないよ。
そんな僕の誓いを知ってから知らずか…一度目を覚ますと
「お腹、空いてるよね…ごめん。渡しておくから…適当に食べて」
そう言って
ドンッ
と食べやすそうな食事を僕に渡してくれた。
ありがとう…シーちゃん。こんな時なのに、君は。全く。敵わないな。
早く元に戻って僕に微笑んで?
*****
あの言葉が頭の中を駆け巡る。
「私とレイキのジョブは2つ揃って意味がある…」
その通りなんだろう。⭐︎6という超希少職。何故同時に?と考えれば自ずと分かる。
なのに、鑑定石ではエラーになる。何でだ?この力は隠されている…?
何のために。そして、シエルの症状。タフの反応。
彼は何を知ってる?
もし、もしも…異世界からの転移者特有の病気があったら?シエルは…何故シエルだけ。
仮定の話だ。
与えられたジョブの強さと命が反比例するなら、それは命を削るのか。
同じ⭐︎6でも、圧倒的に使い勝手がいいのはシエルのジョブだ。
彼女が気が付かなければ、鑑定や亜空間を使えることすら分からない。タフのお母さんが亜空間が使えることを知っていたなら…それは鑑定を持っているから。
そして、鑑定は⭐︎6のジョブに付随するスキルだ。
思考が堂々巡りだ。くそっ、こんな時に俺は何の役にも立たない。考えろ…今は、キレてる場合じゃ無い。
目的もなく歩いていたら昨日の工房街の路地に着いた。
ボーッと歩いていると
「あれ、君は…」
声をかけられた。顔を上げると昨日の弱々しい感じの店主だった。
俯きがちな顔は俺よりも頭一つ分は高い位置にある。だからその顔が良く見えた。
自信なさげに、でも真っ直ぐに俺を見る。
「どしたの…?」
「?」
「考え事…してる顔」
「…」
「寄ってきなよ、そんな顔して歩いてると…強面のお兄さんに攫われるよ?ここは荒くれ者が多いから」
「いや、バーキンの方が危なそうだが」
するとふふっと笑う。
「それは、大丈夫…僕のスキルがね」
着いてくるのが当たり前みたいに工房に入っていく。俺も着いて行った。
工房は閉めてしまった。悪意を感じないその顔、鑑定である程度の能力は見える。
彼のスキルはそのまま、雷撃だ。確かにな…それはかなり攻撃的なスキルだ。
称号に玉潰しとある。相当襲われたんだろう。
「見えたかい?」
えっ?
「鑑定、かな?ふふっ」
何で分かったんだ?
「んー勘?」
目をパチパチする。
「くすっ…嘘。鑑定とか真贋を持ってる人は、独特な間があるんだ。それで、ね」
「そうか」
「僕は…勘がいい。それで無事に生きて来たと自負する程度には。君たちは僕の救世主で、多分、僕も…だよ」
俺はどう反応していいか分からなかった。
「昔…まだ本当に駆け出しだった頃。12年くらい前かな。黒髪の探索者が元の工房に良く来てたんだ。彼はそう、君たちと同じ匂いがした。気付いてない?仕草やあり方が明らかに違う。ほんの些細な違いだけどね。見る人が見たら分かる」
バーキンを見る。
「その人はもう亡くなったよ…45才くらいだったかな」
「探索者になって何年って聞いたら、その人が40才ぐらいの時に20年って。俺の周りはみんな短命でな…早いやつは30代前半で死んだって」
心臓がドキドキする。
「その人の名前は…マコト・ツルヤ」
バーキンは俺の目を覗き込み、頬を撫でた。
「体を預けてごらん…さあ」
金縛りにあったみたいに動けない。そのまま倒れ込むようにバーキンに縋った。
「大丈夫だよ…僕は味方だ」
その後のことはあまり覚えていない。ただ、目を覚ましたら隣にバーキンがいて俺を抱きしめていた。
「ふふっご馳走様」
俺は真っ赤になった。ナニがあったのかは覚えてなくても、体に残る痕跡で知れた。
「はぁ…」
「驚かせてごめんね。マコト・ツルヤはぼくの叔父さんなんだ。父親のお姉さんの結婚相手。だからね、他人じゃ無い。血は繋がってないけど」
「そうか…」
「託されたものがあるんだ。もう少し、そうだな…シエルにもこの話をしたいかな。彼女はきっとすごい美人さんだよね?」
「シエルはダメだぞ?」
「うん?そうなの…食べちゃおうかと思ったのに」
「おい!」
「ははっごめんごめん。冗談だよ…。あの子は無理かなぁ。しばらくこっちにいるんだよね?なら時々はおいでよ。いつでも相手するよ?」
「か、考えておく」
起き上がって服を着る。
はぁ、テンパるにも程があるだろ。彼の持つ包容力というスキルは伊達じゃ無いな。やられた。隙があったのは認めるし、体も溜まってたし。
シエルは怒るだろうか。
ふと目が覚めた。
あれ?私は何をしていたの…?記憶が飛んでるような。
朝起きて、それから…あれ。今は何時?
(朝起きてソファに転んで熱を出した。一度目を覚ました後はずっと寝ていた。今は夜明け前)
私の自問自答を問いかけた捉えた魔法通信さんが答えてくれる。まさかの半日以上寝ていた?
タフとバーキンのことを私以外は知ってたと分かってショックで、なんか急に気持ち悪くなって…そこで記憶が途絶えた。
起きるか…。
私を抱きしめているタフから抜け出す、前にまた抱きしめられた。
「母さん…僕たちを置いていかないで…」
私からすればタフは17才も年下の、子供みたいな存在だ。頭をぎゅっと抱きしめると、安心したように穏やかな息遣いになる。
タフは何を知ってるの…?
(バーキンに接触すれば分かる。彼も鍵)
ここでタフとバーキンが出会った事は意味がある…なら、魔法通信で路地裏のおすすめ工房と調べた時に、あのバーキンの店を勧めた魔法通信さんの意図が透けて見える。
会いに行こう。
少しシリアスな話しが続きます…
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