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星なし転移者と仲間たち〜逃亡中〜  作者: 綾瀬 律
マイヤーに向けて

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74.シエルの体調不良

 シエルとタフが起きて来た。

 タフの顔はスッキリしていた。いくら自制したとしても、男である以上は抑え切れるものでは無い。

 感じないとは言え、身近にシエルがいるのだ。溜まるのは理解出来る。


 そして、やっぱりシエルは「体が鈍ってる」の意味を知らなかったようだ。

 伝えれば良かったなと思いつつ、レイキもサナエもその時のシエルの反応が想像できて言えなかった。

 結局、自分で気がついてしまったんだな。その方が傷付くと分かっていたのに。

 あわよくば気が付かなければ、と思ってしまった。


 俺が知っていたと聞いてシエルが複雑な顔をした。これは、良くない感じだな。

 ちゃんと説明しないと。

 そう思う前にシエルはソファに転んで、そのまま目を瞑った。


 最初は眠ったと思っていた。

 気が付いたのはタフだ。

「シーちゃん?シーちゃん…?」

 シエルを揺するが目を覚さない。そこでようやく何かマズイと感じた。

「シエル?」

 元々白い顔が青ざめている。その体は力なくソファに横たわったまま。


 そっとシエルの頬に触れたタフの手が止まる。

「熱い…」

 慌てておでこに手を当てれば確かに熱い。

「どこか、医者に…」

 タフは難しい顔で首を振る。

「意味がない。熱を下げる薬が出るだけだ」

「それでも…」

「自然と熱は下がる、それを待つしかない」

「タフは他人だからそんなことを!」

「違う、治せないんだ!この病気は」


 タフの苦しそうな顔を見て言葉が出なかった。

「何を知ってる?」

「…守りたいだけだ」

 そう言ってカバンから瓶に入った液体を取り出す。

「これならやがて熱は下がる。ただ、しばらく起き上がれないと思うぞ」

 瓶の蓋を開けると中身を口に入れ、シエルに口移しで飲ませた。

 そして抱き上げると部屋に戻って行った。


 力が抜けた。

 いつも何だかんだと元気なシエル。あんなに細い体で…一生懸命で。

 俺はどれだけシエルに甘えていたのかを改めて知らされた。俺がしっかりしないと。


 サナエが起きて来た。

「タツキ、なんか声が聞こえて…」

 心配そうにサナエが聞く。シエルが昨日のタフの行動を知らなかった事。

 そのままソファに寝転んで熱を出して寝込んだことを伝える。サナエは驚いて、そうと呟いた。

 俺の隣に座るとそっと背中に手を当てる。


 サナエを見れば困ったように笑う。

「タツキも…頑張りすぎないで。自分がやらなきゃとか思ってそうで。充分やってくれてるから。追い詰めないでね…。タツキまで壊れてしまったら私…」

 そうか。俺もシエルもなまじあちらの世界での経験があるから、何処かで導かなければと思っていたのだろう。


 それはやれるものがやるべき、という気持ちであったけど…サナエやレイキからしたら信用されてないと感じたかもしれない。

「ごめん…なんか、まだあちらの感覚が抜けてない。年上だからとな」

 サナエは首を振る。

「分かってるよ。とても助かってるし。でも無理はしないで…私たちは仲間だから」

「そうだな、なのに…シエルにはタフのこと伝えなかった」

「それは…そうよね。私たちは自分勝手だわ」


 沈黙が落ちる。

 レイキが起きて来た。

「どうした?シエルはまだ寝てるのか…」

 俺は朝からのやりとりを説明する。

「そうか…」

 そのまま黙ってしまった。


 レイキの口数は多くないが、とても素直な子だ。

 沈黙が何を意味するのか分からず戸惑う。

「今日は注文に行く予定だったが、各自で動こう。俺はちょっと出てくる」

 そう言うと部屋を出て行った。


 静かな時間が過ぎる。

「タツキ、ご飯食べに行こう。朝は頼んでなかったし…タフとシエルの分も何か」

「そうだな…俺たちじゃ作れないし。食材はシエルが持ってるから」

 そこで分かった。完全にシエルに食事のことを頼り切ってたなと、改めて。


 サナエと連れだって宿を出る。

 市場の近くには公園があり、そこに屋台が出ていた。だいたい町の作りは似ている。

 だからそこでパンにハムや野菜の具がのったものとスープに串焼きもを買った。

 サナエはパンとスープに焼いた魚だ。


「よし、ぐだぐだ考えても仕方ない。食べよう」

「うん」

 もぐもぐ食べる。味は単調だが不味くはない。ただ、シエルはあちらの食事に似たように、出汁とかの調味料を使って料理を作る。

 味付けが違うし、肉は柔らかく、魚は香ばしく、野菜はその旨みを生かした料理が出てくる。

 美味しくて当然だ。魔法で手間を省いているが、それでもやはり考えて手間をかけて作られた食事だ。

 美味しいのはシエルの気持ちが入っているからだと改めて感じた。


「シエルの食事は…美味しいよね」

「あぁ」

「お母さんもあんな風に色々と考えて作ってくれてたんだなって改めて思う」

「それな」

「私、何も出来てないなって思うの。すごく歯痒い」

「サナエはさ、魚を氷漬けにしただろ?行商をするにはとても役立つ。焦らす少しずつ、な。俺だって何も出来てない」

「タツキはちゃんとみんなを引っ張ってくれてるよ」

「役に立ってるわけじゃない。サナエよりも明らかに戦闘特化だからな。今はタフもいるし。シエルなんて俺より強いだろ?」

「魔法があるからね…。やっぱり⭐︎は間違いないよね」

「それな…」


 結局は努力より才能なんだろう。

 もっともシエルもレイキも、ちゃんと自分たちの役割をわかっていて努力をする。敵わないな、とは思うが卑屈になることはない。

「シエルのジョブは反則だよな…」

「ふふっ。でも私たちはいいところだけつまみ食いしてる。大変な思いは全部シエルに押し付けて、恩恵だけ」

「…」


「ふう、アイツのペースに巻き込まれてんだろうな。シャキッとしないとな」

「せやな…こんな風にしてたらオカンに怒られそうやわ!」

「あはは、それな…落ち込んでる暇なんて無いな!」

「まずは、腹ごしらえして…何か買って帰ろ!」

「あぁ。お金を気にせず食べられるんは有り難いからな」

「うん」

 地元の言葉でシャキッとしたぞ。


 食べ終わるとサナエと屋台を物色した。

 野菜が沢山入ったスープを山盛りにしてもらい、茹で野菜と焼き魚、串焼きに紅茶まで。

 沢山買った。

「タフは沢山食べるからな!」

「お昼ご飯は宿で頼めるか聞いてみる」

 こうしてお金を気にせず買い物が出来るのも、シエルのお陰だ。


 こうして2人で宿に帰る。自然と手を繋いだ。お互いに恋愛感情は無いが、今は誰かに縋りたい気持ちが出たのかもしれない。

 シエルの存在の大きさに改めて気付かされた朝だった。


 宿に戻る。レイキはまだ帰って来ていなかった。

 シエルとタフの部屋を軽く叩く。

 少ししてタフがドアを開ける。疲れた顔だ。目が赤いのは見なかった事にした。

「飯の差し入れだ」

 少し驚いて

「そうか、ありがとう」

 受け取って戻ろうとするから

「タフ、シエルは?」

「熱は少し下がったが、まだ寝ている。もしかしたら明日まで起きないかもしれない」


「そうか…タフも休めよ?」

「俺は…何もしていない。これ、ありがとな。この後の食事はいらない」

「食べないと体が」

 タフは弱々しく笑うと

「さっき目を覚ましたシーちゃんが…お腹空いてるよねって、食事を渡してくれたから。大丈夫だ」

 ドアはそっとしまった。


 シエル、本当にお前は…おかんなんだな。

 サナエは宿でお昼ご飯を頼んで来た。部屋に運んでもらえるからと言って部屋に入った。

 さて、俺は…時間もあるし探索者ギルドに行くかな。

 何か出来ることがないか、見てみよう。




 

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