73.グスタフの気持ち
タフがお風呂から上がって部屋に入ってくる。そして私に抱きついて来た。だからその体を突き放す。
「離れて!」
いつになく強い口調にタフが驚いた。
「他の人の魔力や匂いをまとって部屋に入らないで!」
タフは驚いて
「シーちゃん…参ったな、気が付いたか」
私は「体が鈍っている」の意味を知らなかった。魔法通信が
(いわゆる隠語で、君が欲しいと言う意味)
バーキンはタフを受け入れた、と。
なんだ、タフもただの男なんだ。そう思ったらなんか嫌な気分になった。
タフは所詮他人で…まるでママゴトみたいな今の関係がいかに危ういかを知らされた気がしたから。
「シーちゃん。俺だって男なんだよ。前にも言ったけど、気軽に飲み屋にも行けないんだ。彼はなんて言うか…期待してたから、さ。僕との事を。だからそれに乗ったんだよ。言わなかったのはごめん」
バーキンは考える事なく受け入れた。ならば、タフの言うことは当たってるんだろう。
普通に儚げなイケメンのタフ。バーキンも頼りなさげだけど、鍛治師なら力もあるだろう。
タフに対して抱きたいと思っても仕方ない。
分からなくはないし、理解もできる。でもそれだけだ。気持ちは追いつかない。
「シーちゃん。嫌なら他に行くよ…」
嫌では無いんだけど、複雑だ。
「嫌とかじゃ無いけど…なんか消化できない」
「ならシーちゃんが相手してくれるの?」
タフが真っ直ぐに私を見る。
出来ないくせに…そんなつもりもないくせに、全く狡い。
「タフ、外は危ないから…いいよ」
タフはそのまま私を抱きしめるとキスをして来た。珍しく情熱的に。
私のことを女として見えないくせにね?私もタフはタフで、男として見ていない。
「ふっやっぱり…シーちゃんは家族だね。全く反応しないや」
タフの顔をつねった。
「あははっシーちゃん、大好きだよ!少しでも嫌だって思ってくれたなら嬉しいな」
タフは何処かで私を試したんだろう。悪意ではなく、まるで母親の愛情を確かめるために悪戯をする子供みたいに。本当にタフは心が子供なのかもしれない。
亡くなったお母さん、そして切なそうなタフ。私の中にお母さんの面影を探しているようで…振り切れない。
だって故郷に帰ることなく亡くなったその姿は未来の私だから。
私はタフのお母さんみたいに結婚することも、子供を作ることもないだろうし。
そう思うとタフを怒れない。
結局、何度もキスされていつも通り後ろから抱きしめられて眠った。
僕の腕の中で眠るシーちゃんを見る。
ごめんな…でもどうしても抑えられなかった。シーちゃんの中に俺がいることを知りたくて。
試すようなことをして、怒ったかな。
シーちゃんはきっと分かっていて、受け入れてくれた。
君を守りたいんだ…そのためには信頼されなくては。
だから…ごめんね。
僕は君が大切だから、色々と発散しないとね。シーちゃんには感じないけど、万が一って事もあるし。
だからね、彼の熱い眼差しを利用させてもらった。
細身なのに凄い筋肉で…ちょっと好物だったのもあるし。
大好きだよ…僕と同じ色の髪にキスをして目を瞑る。
あぁ、本当に君は温かい。
目が覚める。
悔しいけどとてもよく眠れた。なんか見透かされたようで嫌な気持ちと、それだけタフにとっては自分が家族なんだという気持ちと…はぁ。思春期って難しい。
まぁ、この話は飲み込むしかないんだろう。タフは成人した男性で、そっちの欲求はあって当然だし。
そろそろこっちの男性陣も、かな。
マイヤーにはしばらく滞在するみたいだし。みんなに聞くかね。
胸元のあーちゃんに顔を埋める。ふふっあーちゃんの匂い。落ち着くなぁ。もふもふふわふわ。
さて、起きよう。残念イケメンも目が覚めてるみたいだし。
「タフ…おはよう」
「おはよう、シーちゃん。よく眠れた?」
「悔しいけどね…」
「くすっ良かった」
後ろからタフに起こされる。伸びをした。
探索者として何かするかもしれないので、パンツスタイルだ。
「シーちゃん、昨日夜に聞こうと思ってたんだけど…座って?」
何故かタフの膝に座らされる。
「何?」
「ワイバーンの皮。いつなめしたの?」
「さあ?」
知らない、だってポーチの中でね?
「秘密?」
「ジョブに関わる話だから」
「俺だからいいけど、気を付けて?疑問に思われたら危険だよ。気を付けてると思うけど。分かるよね?賢いシーちゃんなら」
そんなに不自然だとは思わなかった。
「知らないことは対策のしようがない。知らないことを知らない。とても危険だよ。だから…頼って。ねぇ、俺はまだ信用されてない??シーちゃんたちの秘密を暴こうとは思ってないよ。…時間切れかな。また、ね」
タツキが起きだす気配がした。
「タフ…私は信用してる。でも、巻き込みたくない」
「…巻き込まれることなんて気にしないのに」
ポツリと呟かれた言葉は私の耳に届いた。
タフを巻き込みたくない、その時は確かにそう思っていた。
部屋を出るとタツキがソファに座っていた。読んでいるのは王様から貰った本だ。
「おはよう」
「おはよう、シエル、タフ」
「おう、おはよう」
タツキはタフをチラッと見ると
「スッキリしたか?」
と聞いた。タフは肩をすくめた。私がタツキを見ると
「やっぱりシエルは気がついてなかったか」
「みんなは知ってたの?」
「ノースナリスの店で、な。聞いてたから」
力が抜けた。なんだ…私だけ知らなかったんだ。
「ごめん、伝えれば良かったな」
首を振る。もう終わった事だし。朝からなんか疲れた…。
ソファにゴロンと横になる。なんか、怠い。気のせいかな?
タツキの顔が歪む…世界が、回った。
ぐるぐると思考が巡る。
「可愛げが無いんだよ!」
「先輩は自分が出来るから…俺たちの気持ちなんて分かんないんですよ」
違う、違う!私は女だからって軽んじられないよう努力しただけ。
肩肘張って頑張らないと潰れそうだったから。
可愛さで乗り切れるような柔な仕事じゃなかった。負けないように、舐められないように。
そのために知識を身につけて、頑張って頑張って。
なのに、結局は一人相撲だったの?泣きながら頑張ったあの努力があるから、今の私がいる。
それを、何も知らない人が出来る人には分からない、とか可愛げがないと言う。
好きなことを仕事にしたいと、仕事を辞めた夫を支えたのは私。なのに、やっと食べていけるようになったら、若い子とよろしくして…家を出て行った夫。
「自分より稼げてるお前が鬱陶しかった」
最後に言われた言葉だ。
やめて…やめて。
気がつくと白い空間にいた。
ここは何処?
「やぁ幸子。2度目だね!」
「神様…?」
「そうだよ。幸子、思考が悪循環に陥ってるからね。少し助言を」
「助言?」
「そう。グスタフの母親は幸子と同じ転移者だよ」
「やっぱり」
「彼はアンナの日本語で書かれた日記を持っている。追手が探しているのはその日記と、アンナの空間拡張カバン。それはね、君たちと同じで彼女の亜空間と繋がっている」
彼女?アンナさんの??
「亜空間は空間魔法だから…彼女固有の亜空間は消滅していない」
だから追われている?
「彼は、鍵だ」
「何の?」
「まだ言えない。でも、彼は信用していい。君たちの…いや、君とレイキの救済者だ」
「私とレイキ…それは⭐︎6の?」
神様はニッコリ笑うと
「またね…」
タフは信じていいの?救済者って…?
ダメだ、気持ち悪い。誰か、助けて…
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