72.注文しよう
少し休憩をして路地に入ってみた。
こちらは個人でやってる工房みたいだ。その通りは工房の中が見えるし、お店を兼ねてるので入りやすい。
歩きながら気になった店があった。魔法通信さんもお勧めの店だ。
いかにも自信なさげなお兄さんの工房。一見すると細身で背が高くて頼りなげな風貌。
でも、なんだか置いてある品物に目が行く。レイキも私と一緒に立ち止まる。
タフを見上げれば
「入ろう」
先頭で入って行く。
「い、いらっしゃい…」
言葉も頼りなげなだ。そこにドアがバーンと開いて
「やめとけ!こんな頼りない奴の商品なんて買う価値が無いぞ!」
どこからか筋骨隆々の人が入って来て喚く。
「そ、そんな…ことは…」
店主さん?は俯いてしまう。
私は何も言わないで品物を見る。
これは…やっぱり凄いな。だから思わず
「凄い…きれい」
ポツリと呟いた。上手くいえないけど、多分その言葉が1番しっくりくる。
「剣にきれいさなんざ不要だ!」
違う、この剣がきれいなのは…刃が一筋、完璧に通っているから。歪みもなく、真っ直ぐに。装飾品のようなきれいさじゃなくて、剣としての完成度が高いからきれいなんだ。
まだ後ろでわぁわぁ言ってる人がうるさくて
バンッ
騒いでるひとの真横に風魔法を刃のように飛ばした。
「煩い…何を選ぶかは自分で決める。自分のお金をどう使うかは自分で決めるの!それとも何?あんたが払ってくれるの!?」
低い声で言えば
「いや、しかし…無駄金を…」
「その責任は自分で取る」
「いや、あの…くそっ!親切に言ってやってるのに」
「あんただれ?何の権限があって偉そうに!営業妨害するなら…商業ギルドに脅されたって言いつける。どこの奴?」
「あ、いや…おれは」
「ビッケル工房…」
「あんたの名前は?」
「サンシタ…」
「ぐほっ…」
レイキ…この場でリアルに吹き出すの?
それと名前よ…それはもう雑魚決定でいいんだな。
「ビッケル工房のサンシタね…その名を胸に刻もう」
(いや、言い方!)
ふっまたつまらないものを…斬ってしまった。
(五右衛門か?)
レイキはノリノリだね?
ついにサンシタはしっぽを巻いて逃げた。
「お兄さん、ナイス相槌だよ!」
サムズアップするとお兄さんはへなりと笑って座り込んだ。腰抜けた?
「大丈夫?なんか。余計なことしたかな?」
「ううん、ありがとう。すごくスッキリしたよ」
「くすっ良かった。私はシエル」
「バーキンだよ、シエル」
お高いブランドか!?
(バーキン…)
ね?サナエ。
レイキは撃沈したままだ。
「ねぇバーキン、凄い技術だよね。なのになんで?」
「見た目がさ…僕がヒョロイからって」
はっそれで?アホなんか!?無駄な筋肉なんて邪魔なダケだよ!
あかん…なんか頭来た!?
三下が出て行った扉に舌を出す。アホー!
(三下…)
(キレとるな!)
(キレとるな)
(あれはあかんよな…)
(ねー、ないわー)
よっしゃ、買ったるで!
「シーちゃん、注文するんじゃなかった?」
「うん、オークキングの素材でね。でもこの剣は普通に欲しいかな」
「ち、注文!僕に…?」
「ダメかな?」
タツキも頷く。レイキもサナエも笑顔だ。
私は素材を取り出す。
「これでね、ローブを作って欲しくて。武器じゃないけど。出来る?」
剣帯や鞘の取り扱いもあるから大丈夫だと思うけど。
「オークキングの皮か!魔法を弾くんだよな…出来るよ」
「魔法を弾く魔獣って他にもいるの?」
「代表的なのは竜種だね」
あれ、ならば…
「ワイバーンとか?」
「うん!」
さっきの自信なさげな顔はキラキラと輝いている。
「ワイバーンなんて…夢だよな」
いやいや、沢山あるで?
「ぶほっ…」
レイキのリアル吹き出し再び。
(シエル、ガチの関西弁はやめろや!)
(ええやん)
(いやな、ツボるやろ?あかんて)
(あかんくないわ!)
ペチリ
タツキに叩かれた。ついね?
私はタフを見る。なぜだか私の頭を撫でて
「出していいよ?」
ポーチからワイバーンの皮をね、ダンっと机に出した。
お兄さんの目が零れそうな程見開かれる。
「これでローブ作れる?」
「ワイバーン…?いやいやいや…えぇーーー?」
あれ、固まった。目の前で手を振る。
おーいバーキン戻って来いよー!
ダメだ。石化した。
「やっぱり難しいのかな…?」
「んー彼の技術ならいけると思うけど…」
「やるます!!」
かみかみだね?
「でも、ワイバーンの皮は魔法が通らないから、なめすのに時間がかか、る…はぁぁ?!」
どったの?
「完璧…になめされて、る…きょえーー」
変な叫びきた。
それはさ、私が魔法通信でね…亜空間の便利な使い方を調べて分かったんだよ。魔獣を亜空間で自動解体する仕組みがね。
皮はなめしてくれるし、肉は食べられる部分だけ塊になるし。素材として使えるものは手元に、要らない部分はゴミ箱に収納される仕組み。
だからね、皮は自動で完璧ななめしをね!
ふふふっ。
タフは首を傾げて私を見る。耳元で
「夜に少し話を…」
うん、やっぱり亜空間の事かな?不安になってタツキを見る。
(タフが、多分皮のことを…夜にねって)
(亜空間についてか?というか、それはシエルのジョブだろ?素直にジョブに関わることと言えばいい)
そう、人のジョブを聞くのは御法度なのだ。
もっとも私やレイキの鑑定は人のジョブが見えるけど、タフのジョブは見えなかったって。
明らかに熟練度が高い人のは隠蔽されるらしい。
ちなみに、私とレイキのジョブも隠されてる。あの鑑定石と同じ、***となるみたい。
タフも鑑定が使えるから、それをちゃんと伝えた上で見てもいいかと聞かれた。
で、タフにシーちゃんとレイキは見えないと言われた。
存在自体がかなりレアな⭐︎6はやっぱりエラー表示のようだ。
「いつやるの?今でしょ!俺にやらせてくらたい!!」
「んーどうしようかなぁ…俺、最近体が鈍ってて…ちょっと付き合ってくれる?」
タフの言葉に食い気味に
「…はい、喜んで!」
取っ組み合いでもするんかなーと思っていたけど
「シーちゃんたちは先に帰ってて!」
と言われたので、取り敢えずまた明日尋ねると伝えて工房を後にした。
「市場に行きたい!」
鶏ガラはノースナリスのレイノルドのお店で買っていた。だからエオンで買うこともできる。でもやっぱりなるべくこちらのものを使いたい。
タフの襲撃もあったからね、慎重に進みたいんだ。
で、市場へ。
ふぅ、満足。
予想通りたくさんの中華食材があった。
鶏ガラに豆板醤、そして春雨。春巻きの皮に餃子の皮まで。
オイスターソースにキクラゲ、筍。ラー油もあったぜよ!
はい、買いだめしました。
お店の在庫はかなり減ったんじゃないかな。
だって、袋とか箱単位で買いまくった。
余は満足じゃ…
(くはっ…不意打ちはやめろ)
レイキが体を折って苦しそうにしていた。
そしてお昼ご飯は市場で。安いんだよ!私は水餃子を食べた。凄く美味しかった。
レイキはチャーハンとスープに焼き豚。
タツキはやっぱりチャーハンにワンタンスープに蒸し鶏。
サナエはワンタンスープに酢豚。
私は水餃子大盛り。
「シエルは本当に食べないな」
「うん…なんかね、食べられない」
「無理してまで食べる必要はないが、体は大丈夫なんだ
よな?」
「うん」
とそんな会話をして宿に戻った。
今日はぐでぐでだ。
タフがいないからと、コーズィーコーナーのケーキを食べてみんなでごろごろしながら過ごした。
夕食前にタフが戻って夕食を宿の個室で食べて解散。
お風呂に入ると部屋で寝転んだ。
タフがお風呂から上がって部屋に入ってくる。そして私に抱きついて来た。だからその体を突き放す。
「離れて!」
いつになく強い口調にタフが驚いた。
「他の人の魔力や匂いをまとって部屋に入らないで!」
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