64.海沿いの街道
順番飛ばしました…
しばらく割り込み投稿します
「もうシーちゃん無しでは生きられないかも…」
「お父さんだもんねー」
と言えばふわりと笑う。
「こんな爆走娘を持ったら大変だ!」
タツキは腕を組んでうんうん頷き、レイキはニヤリと笑い、サナエはほわほわと笑っていた。
ご飯を食べ終えると、また馬車を走らせる。
御者は順番に務めている。みんなが馬車を動かせた方がいいからね。
と言っても、この馬(?)はとても優秀。だってね、あの角は何やら感覚器官で、さまざまな状況をつかめる。
ラビと殆ど変わらないほどに優秀なレーダーだ。
しかも、あの角は杖の役割も果たすらしく、魔法を放つのだ。
それも雷魔法。海から飛び出して来た魚たちを角の一振りで感電させた。
完璧なタイミングで。魚は濡れてるから雷がよく効く。
なので、御者は御さないでいい。最早御者じゃ無い。魚だけにぎょぎょっだ。
(ぐほっ…油断してる時に、止めろ!)
ふふっレイキよ、油断するのが悪いのだ!
まりちゃん(もふもふフギュア第1号)を眺めながら愛おしそうに毛を撫でてるのが悪いよ?
(おい、勝手に俺のまりの名前を呼ぶな!)
(俺のまり…)
サナエの呟きだ。引くよね?引いちゃうよね??
(だー、だから言い方!)
フギュアに名前つけてる時点でね?
(一年の集大成だぞ?)
(一年…)
ポツリと呟かれるサナエの言葉が刺さるね!
(ぐはっ…)
ついにレイキが撃沈した。うん、サナエは強い。
「あっ…」
視界の端に捉えた緑は、瞬時に首から氷の矢を生やしていた。
サナエ早!
(なんか、ゴブ専のレーダーに引っかかって…)
ゴブ専のレーダー
(ぐはっ…)
またもやレイキが撃沈した。
ちなみにタツキとタフは相乗り中だ。あ、もしかして愛乗りとか?
(おいこら、聞こえたんだよ!)
横を向くと顔を真っ赤にしたタツキだ。
タフには会話が聞こえないから、澄ました顔をしている。
馬に乗る練習もね、タフの手ほどきで。
タフはサナエとは適度な距離を空けて相乗りしてたけど、案外サナエは筋が良くて。
アッサリと乗りこなした。
で、以外と下手なのがタツキ。なんか、動物に嫌われてる?
あーちゃんもタツキに撫でられそうになると逃げるし。リリはもちろん大丈夫なんだけどね?
レイキはなんでもそつなくこなす。
私はけっこう運動神経がいいんだ。しかも、お馬さんたち生き物には好かれる。
だから大丈夫。タツキは黒馬にもそっぽ向かれてたしな…。
平和だなぁ。魔獣の馬に引かれた馬車、その脇には頭を上下に振りながらモデルさながらに長い脚を優美に動かして歩くダチョウのリリ。
その後ろをしっぽをペシッとしながらのんびりと歩く牛の王子、その更に後ろには時にふらりと横にそれそうな王子を元に戻し見守る姫。
長閑だ。
こうして御さない御者をしながらしばらく進むと村が見えた。この辺りではそれなりに大きな村だ。
私たちが馬車を買ったのはいくつか理由がある。
1つは移動が楽になるから。
もう1つは行商をする為。荷馬車を付けてるから、荷物は運べる。
飛んで火に入る夏の虫…ならぬ魔魚たち。
サナエが氷漬けにしてくれるからね、いくらでも運べる。
ジョブの氷魔法。氷を出すだけじゃなく、なんでも凍らせる。空気中の水分すらも。
考えたらそら恐ろしい。いつでもどこでもなんでも…凍る。魔法も凍らせるし血管や内臓すら凍らせるし。
サナエが仲間で良かった。
ジョブの魔法職はその真価が分かれば星3であろうとも無双できる。最も、私の魔法通信があってこそなんだけどね。
ほんの少し考える。
私とレイキの超稀少職があって、魔法職やその他の職があって。手を携えることが出来たら…とんでもない戦力になったんだと。
それは喜びよりも怖さが勝る。だってきっと国すら乗っ取れるから。
私はとレイキにこの職が与えられたのが必然なら、小心者の私や心優しいレイキだからこそ、なのかも。
タツキやサナエは良くも悪くも真っ直ぐで善良。私とレイキはちゃんと損得勘定で動く。
切り捨てるべきものと、拾うものを見分ける事ができる。切り捨てる、その痛みに耐えられると…そう判断されたのか。
王宮を抜け出して、同郷の人たちと袂を分かった時点で。私にはその覚悟があった。
ただ働きで最前線へ送られるかもしれない彼ら。私は同郷の彼らを見殺しにしたのも同然だから。
タツキもサナエもその事を薄々は感じてるかも。
レイキは…自覚している。自分と私のジョブが並外れていると理解してからは。
っと思考が明後日の方向に向いた。
で、サナエが氷魔法でね?お魚さんの周りの空気を凍らせて。お魚さんの組織も凍らせて。
新鮮なままで、運べてるのさ。
だからね、行商ですよ!新鮮なままのお魚さんはいかがですかー?
とね。
海沿いの街には門は無い。柵もない。
この辺りは海沿いから内陸まで草原で、見晴らしもいいし、そもそも魔獣の被害は少ない。
だから村は普通に家々が点在するだけの場所だ。
村に入っていくと家の前で作業をしていたおじいさんが口をあんぐりと開けてこちらを見る。
「あれまぁそろそろ神様のお出迎えだが?何やら奇特なもんが見えるっちゃが」
「おじさんこんにちはー!行商だよ?まだまだお出迎えじゃ無いからね」
無邪気に挨拶をする。
(無邪気なやつはお出迎えの意味を理解しないぞ?)
レイキの突っ込みは相変わらずキレッキレだね。
「行商っちゃかね?それは助かるだぁよ!こっちゃ来い」
おじいさんに先導されて進むと広場があった。
「村長に声かけるが。まっちょれ」
「私も行く!」
御者台から飛び降りるとタツキがタフと愛乗りの黒馬からヒラリと飛び降りた。
(誰が愛乗りだ!)
なんで愛って漢字当てたのがバレてるの?
(お前の呟きは言語化されて伝わるんだよ!)
まさかの?魚魚っ!とかも??
(ブハッだから不意打ちだろ)
レイキは相変わらずだ。精進が足りないぞ?
(魚魚っ…)
サナエの呟きは威力満載だ。
おじいさんと並んで歩く。
それなりに立派なお家に着くと
「村長やーい、行商が来ただぁよー」
なんとも緩く声を掛けた。
家の中から人が出てくる。
「もう、父さんってば…その呼び方はやめれって言ってるだぁよー」
金髪に青目の美人さん来たー!
えっとえっと?おじいさんの娘さん?!
その人はおじいさんと私とタツキがいるのを見て
「あらヤダァ、商人さんもいたってか?恥ずかしいじゃ」
顔を赤くした。
私の手を握るタツキが固まった。顔を見上げれば顔が赤い。なるほど。タツキのど真ん中らしい。
ニヤニヤしたら睨まれた。解せぬ。
「お父さんどうしたの?」
無邪気に首を傾げて尋ねた。
おじいさんは目を丸くして
「はぁ親子かいな…それはまた、こげは小さな子ば連れて難儀なこって」
「若い父さんじぁねー。馬車かね?」
タツキは背筋を伸ばして
「いえ、断じて娘ではなく!娘のような、だけだ!!」
唾を飛ばしてまで否定しなくてもね?
「パパー抱っこ!」
両手をタツキに伸ばす。
(ぐはっ…パパって…抱っこって…ぐふっ)
(パパ…抱っこ…)
広場にいてこの状況が分からないレイキとサナエが呟く。
タツキは顔を赤くしながらも、習性で私を抱き上げる。その首にしがみつくと
「きれいな人だね?」
タツキは絶句した。分かりやす過ぎでしょ。
女の人は笑いながら
「広場に行きまっせ。あ、おれはメリル。村の村長をやってますだ」
「お、俺はタツキで、こっちはシエル」
こら、タツキ言い方!
だから
「こっちのシエルだよ」
と自己紹介した。
(おい、やめろ!ひぃひぃ…こっちのシエルって、おかしい)
(こっち…)
やがて広場に着くと崩れ落ちて笑うレイキと横で笑みを讃えるサナエがいた。
「あれま…みんないいお顔じゃぁね」
私以外はフードを外しているからね。
「みんな家族!(みたいな感じ)」
タツキがぎょっとする。魚だけに。
さらにレイキが崩れ落ちた。
なんかごめん?
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